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4-18

 翌日、敵軍はイカダを作ってこちらに渡河する準備を始めた。


「昨日の今日で、よくもまぁ準備できたな」

「まぁ、相手はこちらの倍は居ますから、最悪半分寝ずに作れば十分間に合うかと」


 私が呟くと、イアンが直立不動のまま答えてきた。

 まぁ、確かにそうなのだが何かこう、別の事をしてきそうで怖い感じがする。


「ネクロスはどうした?」

「ネクロス殿でしたら、前線で指揮すると今朝がた出られましたが」


 あぁ、そういえば昨日言っていたな。

 ただ、イカダ相手にどう戦う気だろう?

 今回の戦に必要なものはある程度揃えているが、唯一火に関する物だけが少ない。

 油、薪、油布などだ。

 兵たちの煮炊きに使う分には十分なのだが、火攻めなどをするには足りない。


「ネクロスは上手くやるのだろうか?」

「そこは、信じるしかありません」


 何とも形だけの総大将というのも座りが悪い。

 だからと言って、私が前線に出ても物の役にも立たないから待つしかないのだが。

 そんな事を考えていると、対岸から出撃ラッパが鳴り響く音が聞こえた。


「オルビス殿、始まりました」


 イアンの何とも言えないトーンの声に従って戦場を見ると、数千はあろうかというイカダを使って敵兵がこちらを目指してきた。

 そして、その目指してくるイカダを目掛けて前線の兵たちが矢を射かける。

 矢は真っ直ぐにイカダへと向かうが、手に持っている木の盾で防がれてしまう。


「このままではこちらの矢が消耗するだけだな。ネクロスはどうするつもりだ?」


 私がそんな事を呟くと、早速動きがあった。

 何と、ネクロスは前線の兵たちを下げ始めたのだ。


「みすみす上陸させる気かあいつは!?」

「ですが、あれだけ硬く守られては、正直矢の無駄ですから上陸直後を狙うのは、いい方法ではないでしょうか?」


 確かに上陸直後は無防備になりやすいが、失敗すれば相手に橋頭保を作らせることになってしまう。

 かなり大胆な賭けだが、大丈夫だろうか?

 私の不安をよそに、敵は悠々と渡河を終え上陸し始めた。

 その瞬間を待っていたかのように、矢の雨が敵を襲う。


「今だ! 吶喊!」


 突撃ラッパと共に、ネクロス率いる兵たちが一斉に敵の渡河部隊に襲い掛かった。

 流石に最初の矢は予想していたのだろう、敵も盾を使って防いだ。

 だが、突撃がほぼ同時に来たこともあり対応が追い付いていない。

 一か所が破られるとその後、二か所、三か所と敵の渡河部隊が敗走を始めた。


「逃げる敵は放置しろ! まずは渡河部隊を全て叩けぇ!」


 ネクロスが、よく通る声で全軍に指示を出す。

 一瞬川の中へと追いかけようとしていた部隊が、全て崩壊していない渡河部隊へと向かって進み始めた。

 そこからは、接近戦での剣戟の応酬だ。

 そこかしこで、剣のぶつかる音と喊声が響く戦場音楽の出来上がりである。


「イアン! 不利になっている部隊があれば、お前が兵を指揮して救援に駆けつけろ」

「は……、よろしいので?」

「構わん! ここを食い破られたらネクロスもそうだが、私も危ない。それならいっそのこと、お前を投入して時間を稼ぐのが一番いい方法だ」


 私がそこまで言い切ると、イアンは「かしこまりました」と恭しく礼をしてきた。


「状況的にどこが不利かは分かるか?」

「いえ、軍隊経験が浅いので私では分かりません。誰か詳しいものをつけてもらっても?」

「分かった! では爺! イアンについていけ! 元将軍の力を今一度見せろ!」


 私がそう言うと、白髪の侍従長が一歩前に出てイアンに礼をした。


「副官として爺をつける。さっきも言ったが、元は将軍だ。きっと力になるだろう」

「分かりました。では早速出陣いたしましょう」


 イアンがそう言うと、爺がさっそうと一振りの槍を持って後に続いた。

 イアンが走って行ったのは、ネクロスが居る場所とは反対に位置する渡河部隊だ。

 人数は少ないものの、相手もそれなりに手練れが居るのだろう。

 先ほどから中々追い返せていない。


「イアン殿! 右側が手薄となっております! そこから敵の横腹を突きましょう!」

「承知!」


 イアンはそう言うと、一人駆け始め敵の右側面に出ると、一瞬で食い破っていく。

 あれもあれで、人外の武力を持っているというのがよく分かる。

 何せ、複数の兵がイアンを取り囲もうとしても、彼の槍の一振りで武器の穂先を、もう一振りで半数の兵の首から鮮血が溢れるのだ。

 ネクロスもそうだが、人外の武を持つものが通る後は屍山血河ができる。


「全く、あんな死に方だけは私はしたくないね」


 私がそうぼやきながら戦場を見ていると、敵は流石に持ちこたえられないと判断したのだろう。

 退却のラッパが鳴り響き、その日の戦いは終わった。

 流石に今回は接近戦をしたこともあり、こちらのそれなりの被害を出した。

 だが、相手はこちら以上に被害を出しているので、被害率? というのでは恐らくトントンだろう。


「見張りをたてたのち、ネクロスとイアンを招集しろ! 今後の作戦を協議する! 他の者は被害状況の確認を急げ!」


 2日目の戦いもどうにか、こちらの勝利で終える事ができるのだった。


次回更新予定は10月8日です。


今後もご後援よろしくお願いいたします。

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