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4-16

キングスレー軍 オルビス


 防衛の準備を整えて数日。

 敵がこちらに向かってくるという情報はあるものの、どのあたりに居るのかという偵察情報が中々入ってこない。

 恐らく敵の哨戒網に引っかかっているのだろう。

 ただ、そう考えるとかなり広い範囲を哨戒していることになる。


「ネクロス、再三聞くが本当に敵はここに出てくるんだろうな?」

「その点については問題ないはずです。今回、ここ以外のルートを使う可能性は極めて低いです。そして、何よりもこちらにはのろし台がありますので、何かが近づいてきたら報告することになっております」


 今回、この決戦に際して各所に兵を配置し、のろし台を作り信の置けるものを配置している。

 そののろし台から報告が無い今、私たちはここからくると信じて待たなければならないのだ。

 ただ、数日もすると本当にここで良いのか? という疑問が頭に浮かんでしまうのが人間というものだ。

 そんな自分の不安をネクロスに話していると、防衛施設の簡易小屋に慌てて兵が入ってきた。


「て、敵軍が来ました! 正面約2万! なおも増大中です!」

「2万以上だと!? ネクロス!」

「オルビス様、ご安心ください。ある程度想定内です。で、どれくらい増えそうだ?」


 ネクロスが、報告に来た兵に問いかけると彼は戸惑いながら口を開いた。


「お……、恐らくですが、倍にはなるのではないかと……」

「4万……」


 流石に4万の軍勢を賄うのは、不可能ではないか?

 現状2万の我が軍でも補給がかなりギリギリの状態だ。

 そこに倍の兵士。

 とてもではないが、遠征軍の編成とは思えない。


「奴ら……、自国領内で略奪をする気ですね」

「……」


 何故だろう、批難したいのだが言葉が出ない。

 というか、身に覚えがあるような気がしないでもない。

 だが、そんな事考えている場合ではない。


「敵が、渡河しようというならこちらは打って出る。あちらの様子は?」

「はっ! 敵方は渡河をする気が無いのか、天幕を用意し始めました」


 私は、即日で力攻めをしてこない事に安堵の吐息を漏らしそうになりながら対策を聞いた。


「決戦は明日という事だろうか?」

「恐らくは、相手もここまでの行軍の疲労を考えたのでしょう。また、地形的にも今強攻するよりも、明日攻める方が効果的と考えたのかもしれません。一応夜襲には備えますが、そのくらいしかできる事がないですね」

「相手次第か……、なんというかもどかしいな」

「そうかもしれませんが、態度には見せられないようお願いしますよ?」


 流石に私でもそこまで態度には出ない。

 ……と思う。

 だが、兵たちはどちらかというと相手の兵力を見て及び腰になっているように見える。

 気になった私は、再度ネクロスに訊ねた。


「ところで兵たちの様子だが、どうだ?」

「正直申しまして、相手の兵力に恐れている様子がありますね。特に貴族領から徴集した兵は戦慣れして無いこともあってあまり良い状態とはいえません」

「やはり、無理に徴集したつけが出たか?」


 私がそう言うと、ネクロスは黙って首肯した。

 兵数2万と言っているものの、実質その半数は徴集した兵だ。

 できる限りの再訓練を施したが、使い物になるかはまだまだ未知数である。


「ここは、オルビス様による演説が必要不可欠かと」

「……こういう時だけ総大将の仕事をしなければならんのだな」

「それが総大将というものかと」


 私は、深いため息を吐きながらも了承した。

 今日ここで、意気消沈して明日を迎えるよりも、士気だけでも高く明日を迎える方が何倍もマシというものだ。

 そう思いながら、私は兵たちが見ている中土塁の上に立った。


「さて、諸君。敵方の数を見ただろうか? かなりの数が押し寄せている。その数およそ4万を超えるだろう。恐らく我らの倍以上だ」


 私がそう言うと、兵たちは一気に下を向いた。

 特に徴集した兵は怯えの色すら見せている。


「兵の数は圧倒的に敵が上だ。これは純然たる事実だ。だが! 我らは負けぬ。いや! 負けられぬのだ!」


 突如大声を出した私に、下を向いていた兵たちの顔が上がる。


「あれほどの規模の兵を養うのに、どれほどの食料が必要だ? あれほどの兵たちが全員無欲な奴らか? 否! 断じて否だ! 奴らが我らの後ろに控える街へと出た時、そこは略奪と強姦と殺戮の場と化すだろう! 諸君! 私は奴らをここから一歩たりとも後ろの街へと行かせるつもりはない! 諸君! 我らは何の為に戦う!?」


 少しずつ兵たちの顔から怯えの色が消え始める。

 そう、状況が分かってきたのだ。

 このまま奴らを後ろの街へと行かせてはならないと。

 奴らをここで食い止めなければならないと。


「諸君! もうすでに君たちの顔は戦士のものだ! さぁ、明日は決戦だ! 泣いても笑っても明日すべてが決まる! 私も諸君らが少しでも笑えるよう、全力を尽くすつもりだ! さぁ! 敵の一切を完膚なきまでに叩き潰せ!」

「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」」


 演説が終わるのと同時に、兵たちの意気は天を突かんものとなっていた。

 なっていたと信じたい。

 土塁から降りた私は、兵たちの顔を一人一人見ながら小屋へと戻るのだった。


次回更新予定は10月4日です


今後もご後援よろしくお願いいたします。

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