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桟道出口 カレド
交渉の使者を送ると、意外にもあっさりと代理人を送ってきた。
歳はどれくらいか分からないが、髪に白髪の混じった初老くらいの中々歳のいった男だった。
「初めまして。私がここの防御を任されているカレドと言います」
自己紹介をしつつ、私が腰を折ると彼は意外そうな顔をしながら自己紹介をしてきた。
「……おっと、失礼しました。私は第一王子リオール殿下の名代で交渉させて頂きます、オイゲンと申します」
そういうと、彼も私に腰を折ってきた。
確かに戦時下の交渉で、腰を折って挨拶するなどという事はしないだろう。
どちらかというと、相手を威圧して交渉を有利に進める事の方が多い。
まぁ、ディーはそう言うのは出来るだけしたくないとは言っていましたが。
「さて、オイゲンさん。貴軍の生殺与奪に関しては、我が軍が握っている状況です。先ほどお送りした書状の条件で降伏していただけると幸いなのですが?」
私が開口一番そう言うと、オイゲンは首を振ってきた。
「確かに我が軍は、貴軍にしてやられ窮地に居ります。ですが、現状ではまだ我が軍が勝つ見込みもあります。その事をご理解いただけておりますでしょうか?」
「勝つ見込みというと、例の分隊の事を言っておられるのですか?」
私がそう言うと、彼は頷いてきた。
確かにあちらは、あまり良い状況ではないかもしれないが、情報はまだ入ってきていない。
判断するには、まだ早いということか。
「なるほど、こちらの負けをあちらで返せると。こちらとしては、負ける要素は無いのですけどね」
「お互いにそうだと信じるのは、当たり前でしょうな。そういう訳ですので、降伏勧告に関しては拒否させて頂きたい。代わってお願いがあるのですが……」
そう言ってオイゲンが提案してきたのは、脱走をしようと考えている兵の受け入れだ。
現状出入りできる場所の足場がなく、逃げようにも逃げられない状況にある。
その為、このままだと暴徒が出てしまいかねないのだという。
それをこちらで捕虜として受け入れてほしいという事だった。
「普通、それを敵にお願いはしませんよね?」
「確かにそうです。ですが、それがリオール様という方なのです。兵卒一人であろうと生き残れるなら、方策をめぐらし敵であっても利用できるなら利用する方ですから」
「なるほど、分かりました。我が軍としては、貴軍の投降兵を無下に扱わないと約束しましょう。というか、既に居るんですよね。投降兵」
私がそう言うと、オイゲンも思い当たったのか頷いていた。
そう、別動隊の兵たちである。
迂回路でこちらの部隊とぶつかり、降伏した者たちだ。
「では、正式に文章を作成しますので、ご用意している天幕でお待ちください。なんでしたら湯をお持ちしましょうか?」
「いえ、嬉しい申し出だがお断りいたします。私個人が、そのような好意を受け取っては疑心暗鬼の元となりますので」
流石に、使い古した手には乗ってこないか。
私はそう思いながら、オイゲンを丁重に天幕に案内するように見張りに告げた。
キングスレー軍 オルビス
貴族の私兵を各所で吸収し、1万だった軍がついに2万を超える大軍へと成長した。
軍の指揮系統は、ネクロスを中心にエルフの武官であるイアンが入っている。
総大将として、私の名が入っているが、まぁお飾りという奴だ。
「軍の編成状況はどうだ?」
「はっ! 現状できる限りの事は致しました。近隣貴族領の兵士たちで構成し、仲の悪い貴族領の兵士は別の軍団に配置しております。また、それぞれに簡単ではありますが、集団行動の訓練も施しております」
私の問いに、ネクロスが流れるように答えてきた。
だが、正直この様な大軍を緊急で編成したことは無い。
連携などに一抹の不安を抱える私は、彼に再度問うた。
「ネクロス、勝てそうか?」
私のその問いに、ネクロスは一瞬考えた。
流石に即答できる程の自信はないのだろう。
「正直申しまして、微妙です。何せこちらは急ごしらえの編成で、連携も各所で微妙にずれがある状態です。これは軍としては致命的な問題になりかねないので、相手次第ではきつい戦いになると思います」
「ハッキリ言ってくれるな。で、対処方法は?」
私がそう言うと、ネクロスは地図を出して説明を始めた。
「我が軍は、現在こちらに居ます」
そう言って、地図の真ん中を指差した。
この辺りの地形は決して狭くはないが、広くもない場所だ。
左右に川が流れており、水深はさほど深くはない。
ただ、行軍をする際にはあまり長居はしたくない場所だ。
そして、ネクロスが指を指したのは、川が三差路になっている中洲のど真ん中。
相手が渡河してきた際に、一気に突き崩せる位置に陣取っている。
そしてその陣には、堀と土塁の簡素な防衛施設も建築しているのだ。
「この陣地によって、我らは敵を迎撃します。最初は渡河してきた敵を攻撃し、こちらに綻びが出そうなら、すぐさま陣地へ引き返し防備を固める」
「なるほど、攻めだけでなく防衛も考えての方策だな」
「そして、イアン殿には殿下の護衛を任せようと思います。彼の個人武技は、私と比べてもそん色はないでしょう」
「なるほど、分かった。では前線をお主に、後衛をイアンに任せよう。私はゆっくり見物していられることを祈るよ」
私がそう言うと、ネクロスは最敬礼をして天幕をあとにした。
次回更新予定は10月2日です。
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