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4-13

迂回部隊 ディークニクト


 なんとか最小限の犠牲で、捕虜を手に入れる事ができた。

 後はこの捕虜を使うだけだ。


「さて、君たち賢明なる捕虜の方々にお願いがある。これより城攻めを開始しようと思うのだが、あまり犠牲は出したくない。そこで、君たちの一人に先触れとして開城を迫る使者をお願いしたい。もちろん、強制などしない。ただ、断られると城を落とすのに君たちの家族の血が流れる可能性があるだけだ」


 強制はしない、けど強制的に選択せざるを得ない状況にはする。

 それがこういう時の交渉方法だ。

 俺は、彼らを見渡しながら更に丁寧に続けた。


「なお、今回の戦いで一番位の高い将官の方は居るかな?」


 俺がそう言うと、一斉に一人の人物に視線が集まった。

 例の落馬した男だ。

 まぁ、絢爛豪華な鎧と小太りな様子からある程度察しはついていたが、確信に至った。


「貴方がこの部隊の指揮官ですね? よろしい。では貴方とそうですね……、そこの貴方! 今から私の言ったことを城へと戻って報告していただけますか?」


 俺がお願いすると、小太りの男は何度も頷き。

 こちらをじっと見ていた男は、小さく頷いた。


「あと、監視のために数名紛れさせますが、気にせず城内の方々に降伏勧告を出してください」


 俺がそう言うと、周りにいたエルフの兵から数名が背格好の同じくらいの者の鎧を見に纏って出てきた。

 もちろん、見張りなんて言うのは嘘だ。

 彼らには、最初から扇動をしてもらう予定だ。


「では、細かい話はそれぞれしますので、どうぞこちらへ」


 そう言って、俺は貴族の男と平民の兵士の二人にそれぞれ話をした。

 貴族の男には、『領地の安堵』と一緒に『功績で重用する』ことを約し。

 平民の兵士には、『開かれれば家族の無事』を『刃向かうなら保証ができない』ことを伝えてそれぞれ解放した。




城内 貴族


 全くもってあり得ん。

 何故この栄光ある王国貴族の私が、奴らの言いなりになって平民どもを助けねばならんのだ。

 それに、この兵士もそうだがエルフたちを中に入れねばならんとは……。


「おい、貴様! さっきエルフの男から何を言われた?」


 私は、声をひそめながら平民に耳打ちをした。

 もし、詰問しているのをエルフどもに聞かれては、何をされるか分かったものではない。


「い、いえ、特に先ほど言われた内容とは変わりませんが……」


 少し戸惑いながらも、平民は先ほど全員の前で言われたことと変わらないと言い切った。

 なら、なぜ私と奴とを別にした?

 私が、貴族だから別口で約束をしたということか?

 いや、もしかしたらこれが既に奸計ではないか?

 私が、こいつに詰問することも想定して先回りして回答を用意しているのでは?

 疑心暗鬼が、私の中を駆け巡る。

 そんな私に、更に追い打ちとも思える事が頭の中を駆け巡る。

 それに、耳が良いと言われるエルフたちが、私の話を遮ることすらしない。

 もしや、既に何かしらの計画が……、降伏したらその時点で我々貴族がやられるのでは?

 奴らは、降伏しなければ殺すと脅してきている。

 どうする? 何が正解だ?

 私は、頭の中で悩み続けたが結論は出ないまま城へと到着してしまった。


「開城せよ! 城代に報告せねばならない事がある! 急げ!」


 私は、城門の兵たちを急かし、城へと急いだ。

 その間にエルフの兵と平民は、いつの間にか私の回りから居なくなっている。

 許可も与えて無いのに居なくなるとは、やはり何か企んでいる。

 一刻の猶予も無いと判断した私は、城に着くと兵たちの静止を無視して城代の元へ向かった。


「……卿か。補給を任せていたはずだが、如何した?」

「はっ! 補給に関しましては誠に申し訳ございませぬ。我が失態により物資を奪われてしまいました。ただ、敵方の情報を掴みましたので、ご報告せねばと馳せ参じた次第であります」


 私がそこまで言うと、城代は訝しむような様子で見ながら話を聞く姿勢をとった。

 許可が下りたことをうかがい知った私は、できるだけ詳しく話し始めた。


「先日仰せつかった補給任務ですが、エルフどもが存外奥地にまで入り込んでおり、野盗の如き真似を始めております。また、そのエルフどもは何を血迷ったのか、この城を落とすと言い始めました。そして私を、城を開城する使者として解き放ったのです」

「ふむ、まぁエルフどもにしては、常識的な範囲よな? それで?」

「その時に私には領土の安堵と開城後の重用を持ちかけてきたのですが、平民にまた別の条件を出したものと思われます」

「ふむ、その条件とは?」


 私がそこまで話すと、城代は先ほどまでの億劫な様子と違い真剣にこちらを見ていた。


「恐らくですが、我らの排除が奴らの目的かと」

「我らの排除だと!? 栄光ある王国貴族の我らを、平民如きが!?」

「はっ! その証拠に平民と一緒に私の監視役だったエルフたちが、街へと消えてしまいました」


 私がそこまで言うと、城代は一気に顔色を赤らめ大声で怒鳴り始めた。


「馬鹿者が! なぜそれをもっと早く言わぬ! 至急兵を派遣して騒動を起こしている者が居ないか見回らせろ!」

「ヒィィィ」

「もうよい! 貴様はしばらく屋敷で休んでおれ! 残存の兵力全てに告げろ! 迎撃の準備だ!」


 城代がそう命じるのと同時に、部屋のドアが乱暴に開けられ兵士たちが雪崩込んできた。


次回更新予定は9月28日です。

今後もご後援よろしくお願いいたします。


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