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4-12

桟道上 リオール


 昨夜の奇襲で若干睡眠不足ではあるが、眠ることができた。

 さて、どうやって相手をここに引き付けておくか……。

 私が、今後の作戦を考え始めると前線の見張りから伝令が飛んできた。


「で、殿下! 大変です! ロンドマリーに通じる桟道が全て落とされています!」

「な、何!? 桟道が落ちているだと!?」


 報告を受けた私は、見張りを押しのけて無防備に前線へと出た。

 すると、長さ5メートル、深さ10メートルくらいはあるであろう穴が出来上がっていた。


「い、如何いたしますか? 流石にここを飛び越えられる兵はおりませんが」


 私の後を追ってきた副官が、穴を見て呟く。

 その声音からも、撤退をもう一度考えろと言われているのが分かる。


「……流石にこれ以上は無理だ。全軍に撤退命令を。すぐさま後方に――」


 私がそこまで言うと、今度は後ろから伝令が飛んできた。


「で、伝令! 後方の桟道が……」


 伝令は、目の前の光景を見てそれ以上言えなかった。

 そして、後方の桟道と言っていたことから、恐らく同じ状態なのだろう。


「……後方の桟道も落ちていたのか?」


 私がゆっくりと伝令に問い直すと、我に返った彼は躊躇いがちに頷いた。

 進退ここに極まれり、という奴か。

 ここからは、如何にして生き残るか。

 如何にしてこの場を脱するかという事になりそうだ。


「物資の状況は?」

「もって、1週間もありません。脱走を考慮すれば数によりますが、少し伸びるかと」


 桟道という通り難い場所を通ることを考え、物資を少なめに持っていたのが仇となった。

 1週間分すらも無いとなれば、恐らく大変な事になるだろう。


「反乱が起きないように細心の注意を払ってくれ。今の我々は大変難しい状況にあるのだから」

「……かしこまりました」


 副官はそう言って、私の元を去っていった。

 さて、ここからは自分の身も守れるようにしなければならない。



迂回部隊 ディークニクト


 昨夜、桟道のもう一方の出口近くへと行った俺達は、敵が居ないのを良いことに、破壊工作を完遂した。

 約数メートルにわたって、アーネットの一撃による破壊が行われた桟道は使い物にならない状態となった。


「さて、桟道も破壊したので、あとは味方が迂回路を通ってくるまでの間、敵の輸送隊を襲撃するぞ」

「久々に人相手に暴れられるんだな?」

「まぁそうなるが、あまり殺さないでくれよ? 後で大変なんだから」


 そう、この戦いが終われば俺には戦後処理が待っている。

 戦後処理の主な事案としては、戦没者家族への救済、経済の立て直し、道路などのインフラ再整備、商人達とのやり取りなど多岐にわたる。

 特に面倒なのが戦没者家族への救済だ。

 これを疎かにすると、確実に内憂を育てることになる。

 だからこそ、人を殺すのは最小限にしないと辛いのだ。


 俺がそんな事をアーネットに言い聞かせていると、見張りの兵が敵補給部隊を発見した。


「敵の進路は?」

「真っ直ぐこちらに向かっていますね。恐らく後30分もしないくらいで接敵します」

「よし、それでは全軍に通達。極力敵を殺さず捕虜とすること。その為にも、一気に囲んで敵に降伏を迫れ」


 俺がそう言うと、全員が頷き動き始めた。

 敵は1000も居ない小部隊。

 装備も大半が盾と剣で、騎兵が数名か。


「弓兵、敵騎馬に射かけて動きを止めろ。後方に回り込む部隊は退路をしっかりと塞げ」


 俺が命令すると、各々準備を始めた。

 そして、敵がこちらの射程に入るまで、ジッと息をひそめて待ち続ける。


「敵がもう間もなく目標地点に到達します」

「よし、一気に攻めるぞ! 弓兵一斉射!」


 息をひそめる必要がなくなったのと同時に、俺は大声で命令を発する。

 それと同時に、矢が飛び交い敵の騎馬を中心に仕留めて動きを封じる。


「敵は乱れているぞ! 一気呵成に攻め立てよ!」


 突然の襲撃に慌てふためいた敵は、驚きのあまり動きが硬直している。

 恐らく、先ほど騎乗していた指揮官らしき人物が落馬して意識が無いのだろう。

 だが、流石にずっと固まっているなんてことは無く、一斉に逃げ出そうと前方に走り始めた。


「アーネット! 敵の頭を抑えろ!」


 俺がそう命じると、アーネットは大声で「おう!」と叫んで飛び出す。

 一瞬巨漢のエルフが出てきた事に敵は驚いた。

 しかし、一人だけで立ちふさがる千近くの兵の前に立ちふさがる等できるはずがない。

 そう思った敵は、すぐに走り始めた。


「敵は一人だ! 恐れず進め!」


 敵が、一斉にアーネットの方へと走り始める。

 それを見たアーネットは、中段に狼牙棒を構えるとグッと力を溜め始める。

 そして、敵が狼牙棒の範囲に入った瞬間、ボッ! という風切り音と共に周囲に居た敵を吹き飛ばした。


「……な、なんだ? 一体何が?」


 先ほどまで先頭を進んでいた戦友たちが、一瞬にして上半身を消したことに後ろからついて来ている兵たちの理解が追いつかなかった。

 それもそうだろう。

 ほんの一瞬で、周囲に居たおよそ10名以上の人の上半身を消し飛ばしたのだ。

 それから少しして、敵の頭の上に赤い雨が降り注ぎ始めた。

 時折肉片や骨が落ちてくる。


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ! 血だ! 血が降ってきた!」

「な、なんだ一体!?」


 その雨は、アーネットから少し離れた場所に居た兵たちにも降り注いだ。

 その瞬間、彼らの戦意は一気に喪失してしまうのだった。


次回更新予定は9月26日です。

今後もご後援よろしくお願いいたします。

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