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4-11

桟道上 リオール


 桟道で戦い始めてしばらく経ったが……。

 私の目の前は悲惨な状況になってきていた。

 食料、水は補給があるので何とかなっている。

 だが、それはあくまで最低限度であって、水浴びなどができる程の量はない。

 そうなると、次の問題が浮かんでくる。

 そう、臭いだ。

 それも、日を追うごとに辛くなる臭いだ。

 昨日慣れた臭いの上を今日感じる。

 地獄でしかない。


「殿下、誠に言いにくいことですが、これ以上は不可能かと思われます。ここは……」


 私が益体も無いことを考えていると、副官の一人が現状を見かねて撤退を進言してきた。

 確かに事ここに至っては、撤退を考えなければならない。

 だが、ここで撤退をしては逆側の進路で戦っているワーカーが危うくなる。

 せめてもって、こちらの敵を引き付けるくらいしておかなければ……。

 私はそこまで考えると、副官に首を振った。


「このまま、戦わずともこのままここでしばらく待機だ」

「し、しかし殿下……」


 私が、頑として首を振るので副官はため息交じりにその場をあとにした。

 もう少し、あと1週間もすればワーカーが向こう側を抜いて、こいつらを撤退に追い込んでくれる。

 私は、もうすでにそれしかすがるものが無い状態だった。


 その夜、月が雲に隠れ辺りが真っ暗な中、悲鳴と剣戟の音で私は目を覚ました。


「敵襲! 敵襲―!」


 兵たちの悲鳴と、剣戟の音は少しずつ近づいてきている。


「火をたけ! 敵の姿を視認できるようにせよ!」


 私がそう指示を出すと、一斉に松明が燃やされる。

 すると、敵はこちらの松明を嫌ったのか、サッと踵を返して撤退していった。


「報告します! 敵方撤退! 味方の損害は現在確認中です!」

「報告ご苦労、味方の被害は日が出てから確認せよ! 現状復旧を最優先とするのだ!」


 私が命じると、流石に手馴れているのか、先ほど倒された柵や荷物を元に戻し、味方の死体を一か所に積み上げ始めた。

 そうして、全ての作業が終わると再び寝るために横になった。

 だが、次の瞬間。

 またしても敵が、今度は鳴り物で音を立てながら迫ってきたのだ。


「て、敵襲!」


 一瞬にして全軍が起き上がるが、今度は敵は戦わず下がっていく。


「……脅しか」


 私が、そう呟きながらも全軍に睡眠を取るように命令を出して横になる。

 そして、数時間ほどしたらまた音が聞こえ始めた。

 また脅しかと思うと、今度は剣戟の音が響き渡る。


「て、敵襲! 敵襲ー!」


 忌々しい! こちらを眠らせない方法に切り替えたか!?


「慌てるな! 敵はこちらよりも少ない! 安心して戦え!」


 私が督戦をしながら戦わせると、またしても敵はさっさと撤退を始めた。

 このままでは最前線にいる兵たちが、眠れず消耗するだけなので交代案を作成して彼らには寝ずの番をしてもらう事にした。



桟道出口 カレド


 何度かの夜襲で敵の動きが変わり始めた。

 最初は大慌ててこちらに対応できず、数を把握しようと松明を燃やした。

 次の戦いでは、こちらの手が読めず音だけの相手に対して、全軍に起床命令を出していた。

 そして、三度目は戦いに慌てふためき、四度目からは前線の兵だけが寝ずの番となった。


「よし、そろそろトリスタンを起こせ。状況は次の段階に入った。桟道を破壊し、敵を孤立させる」


 私がそう命じてしばらくすると、トリスタンが起きてきた。

 数名の兵士を選んで、後は作業をするだけだ。

 前面に立つ兵士が必要だが、その辺りはエルフの兵に任せることにした。

 数がさほど必要では無いし、場所的に敵が襲ってきても対処は可能だろう。


「ツルハシは持ったか? 良いか、俺たちの役目は敵の足場を奪う事だ! 前線を気にせず直下で一気に掘るぞ! 後ろの兵たちは桟道を斜めに掘って足場を築け!」


 トリスタンの号令で、工兵たちが一斉に動き始めた。

 ちなみに、トリスタンに桟橋を一気に破壊するだけの力はなかった。

 最初こそ少し削れたのだが、どうしてもその後硬い地層に当たると破壊困難となってしまったのだ。

 こうして、桟道破壊計画はスタートした。


 当初の予定では、敵が出てきて妨害をはじめ、前線で戦う私たちに負担が来ると思っていたのだが。

 どうやら敵は、こちらが攻めて来るまでは迎撃に出ない方針にしたようだ。

 恐らく相当疲れがたまっているのだろう。

 かれこれ一週間とはいえ、桟道の上で生活しているのだから当たり前と言えば当たり前か。


「カレド、何故敵は撤退をしないのだろう?」


 私が相手を観察していると、一緒に来ていたエルフの数名が質問してきた。

 確かに、ここまでボロボロになりながら居続ける意味などない。


「これは私の推測なのですが、恐らく敵はもう一方を攻めあがる味方の援護をしているのではないでしょうか?」

「もう一方というと、あの降ってきた人族が相手をしている方か?」

「えぇ、そうです。恐らくこちらで我らが2万の兵を出している事で、あちらは数的有利を作れている。ならば撃破は少なく見積もっても1週間~2週間以内。そうして撃破できれば、我らが下がらざるを得なくなる。そうなれば相手はやりたい放題になるって所ですかね」


 私が私見を述べると、質問してきた彼らは納得した様子を見せていた。

 お互いの状況が分からない状態で、相手に頼るのは正直愚策なのですが。

 余程の信頼を得ているのでしょうね、あちら側の将は。


次回更新予定は9月24日です。

今後もご後援よろしくお願いいたします。

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