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1-7

各勢力の思惑回

第一王子領ランダバリー 


 フルフォード子爵家敗走の報がランダバリーに飛び込んだのは、ディークニクトが約定を交わした1週間後のことだった。

 その報を執務室で受けた第一王子リオールは、怪訝な表情で近習を見ていた。


「その報、誤報ではあるまいな? エルフが我ら人間に勝ったなど……」

「あ、いえ、こちらの情報は、恐らく真実かと……」

 

 報告をした近習が、消え入りそうな声でそう言うとリオールはため息を吐いた。

 エルフとは、基本的に戦争を嫌う平和的な種族である。

 そのエルフに、いくら商人貴族と言われているフルフォード子爵家でも負けるはずは無いと思っていたからだ。


「……詳細は?」

「申し訳ございません、こちらの詳細が掴めませんでして……」

「掴めない?」


 リオールの不機嫌な様子に近習は生きた心地がしなかった。

 何故なら、彼の気性は非常に荒いのだ。

 もしその逆鱗に触れたら、と縮み上がっていた。

 そんな近習の様子を彼も見ていたが、すぐに興味を無くしたのか窓の外を見て一言言い放った。


「ご苦労。情報を精査させろ」

「はっ!」


 安堵した近習は、即座に情報を持って王子直属の参謀たちの元へと駆けていった。


(さて、状況がおかしな方へと走り始めたな。これもアルムの馬鹿者が何かちょっかいをかけたのだろう。ただ、このまま不確かな情報で動くことはでぬ、か……)


 リオールが今後の事を思案していると、執務室のドアをノックする音が響いた。


「入れ」


 思案を中断されたリオールが不機嫌そうにそう言うと、一人の優男が入ってきた。

 男は、リオールが不機嫌な事に気が付いたが、気にしてない様子で話し始める。


「リオール様、例の報告の思案中でしたか?」

「……ふん」

「大当たりでしたか、まぁそう邪険にしないでください」

「で? 何用があってきたのだ? ワーカー。まさか世間話をしに来たわけではあるまいな?」


 リオールの刺々しい返しにもワーカーは表情を崩さずに続けた。


「もちろん例の報告の件で奏上をしに……、してもよろしいですか?」

「構わん。続けろ」


 そう言われると、ワーカーは先ほどまでのふざけた態度から一変して、真剣な面持ちで話し始める。


「では、今回の件ですが、単刀直入に言いますと様子見がよろしいかと」

「ほう。様子見とな?」

「はい。今回の件で、エルフの勝った相手がかの名ばかり子爵家ではありますが、相手の実態が未知数すぎます。今しばらく様子を見て相手がどう動くか、それを見てからでも遅くはありますまい」

「全く、どうしてそうもお前は余の考えを見透かしてくるのだ?」

「それが私の仕事ですから。そう邪険にしないでくださいよ」

 

 そう言われると、リオールは複雑な顔をせざるを得なかった。

 最高指揮官であり、最高責任者でもある自分の考えを、思いを完璧に読み取ってくる部下。

 はた目には息の合った部下だろうが、第一王子でもあるリオールとしては、自分に取って代わるかもしれない危険物なのだ。

 そんな危険物を彼が何故傍に置いているかというと、これもまた危険だからだ。

 危ない物ほど自分の近くで監視しないと何が起こるかわからないからである。


「とりあえず、殿下。第二王子の今後の動向に注視しましょう」

「そうだな。隙あらば食えるように準備を進めておけ」

「はっ!」




第二王子領キングスレー 


「全く、あのいい加減男は……」

「……姫様、流石にここでは」


 領都であるキングスレーの城から、一人の少女が不満を漏らしながら出てきた。

 傍に控えている白髪の老人が窘めるのも聞こえていないようで、更に声を上げた。


「なんでフルフォードを助けないのよ。ここで助ければ奴らは必ずこっちに着くわよ! なのに……も~!」

「そうは言いましても、姫様。政治というのはそう簡単に行かぬのです。ここで子爵家に援軍を送っても恐らく第一王子も送りましょう。そうなれば、子爵領を巡って完全な武力衝突となってしまいますぞ」

「分かってるわよ! 私だって王族です! でも、もどかしい! 子爵も子爵よ! このややこしい時期になんでエルフに!」


 姫と言われた少女は怒りながらも、馬車の中へと移動した。

 それに続くように老人も一緒に乗り込む。


「その子爵の話を聞いてきた者が言うには、両王子から『涙を寄越せ』と催促が来たらしく、どちらにも味方できないという事で、二人に一つずつ渡そうとしたらしいのです」

「はぁ? そんなことをしたら、争いを激化させるだけじゃないの? え? まさか子爵はそれすらも分かってなかったと?」

「恐らくは……」


 少女の怒気を含んだ詰め寄りに、老人は若干慌てながらも肯定した。

 そして、この怒りに老人自身も感じる所があったのだ。


「フルフォード家は先日代替わりが急遽ありましたので、まだ年若い子爵ではその辺りの判断が……」

「判断が、じゃないわよ! そんな事をしたら私でもあの兄二人が相争う姿が見えます! なんでそれが大義名分になるって思わないのかしら……、そう思うと今回はエルフが撃退してくれて良かったかもしれないわね」

「確かに、結果だけ見れば子爵領がエルフの統治下になりましたが、幸い子爵やその家族に害をなしている様子は無いので……」


 老人がそこまで口にすると、ハッとしたように少女の顔を見た。

 そこには、老人の予想した通りの興味津々と言った表情だった。


(まずい、姫様の悪い癖を出してしまった……。絶対に行きたいと言い出すぞ)


 老人のこの予感は、少女が口を開いた瞬間に的中したことが分かった。


「行き先を変えるわよ。御者! フルフォード子爵領まで行ってちょうだい!」

「ひ、姫様!? 流石にそれは、敵中ですぞ!」

「何言ってるの、もしもの時は貴方が私を命懸けで守るのよ? いい? キース」


 そう言われたキースは、頭を抱えて頷くしかなかったのだった。

次回更新予定は5月20日です。


今後もご後援よろしくお願いします。

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