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4-10

渓谷最深部 ディークニクト


 とりあえず、捕虜については武装を解除し、我々があがってきたところの近くまで連れて行って数名で警護することにした。

 ドラゴンモドキも徘徊する厄介な場所だが、崖があるので隔離するという意味では楽でいい。


 捕虜たちの扱いを決めた俺達は、再びアーネットたちと合流して敵の後方を目指した。


「それで、ディーが考えている後方かく乱はどんな感じになるの?」


 3人で顔を突き合わせると、シャロがすぐに質問してきた。

 確かに具体的な案を言ってなかったので、分からなくて当然だ。


「そうだな。一応考えているのが、後方の襲撃だ。ただ、こっちは失敗のリスクがある。次に考えているのが補給路を断つ方法だな。こっちは安全だが、簡単には効果は出ないだろう」

「なら後方襲撃だろ?」


 俺が、案を言い終わるのとほぼ同時にアーネットが襲撃を指示してきた。

 対してシャロは、少しうつむき加減になって考えている。


「ただ、相応のリスクを拾わないといけなくなる。相手を封殺できる可能性もあるんだがな」

「分かりにくい! 俺は分かりやすく相手を倒して終わりたいぞ!」


 アーネットが、自分が理解できる単純な方が良いと言い始めた。

 確かにそっちの方が目に見えて効果はあるんだが、相手も簡単にやられてくれはしない。

 俺とアーネットが話していると、先ほどまで考えていたシャロが話に入ってきた。


「ねぇ、ディー? ここって確か迂回路が断崖絶壁しかない場所よね?」

「あぁ、確かにそうだな。だからこそ俺達は敵の側背面を脅かそうとしているんだが?」

「じゃぁ、桟道を崩してしまえば良いんじゃないかしら?」


 桟道を崩す? 確かに桟道は狭く険しい場所にあり、一歩踏み外せば滑落死は免れない。

 だが、その桟道は山肌の岩が削られてできており、到底破壊できる物でもないのだ。


「しかし、山肌を削って作っている桟道だから、そう簡単にはいかないんじゃ?」


 俺が疑義を唱えると、シャロはアーネットを指差しながら反論してきた。


「こっちにはオーガよりも力のある化物の様な兄さんが居るのよ?」

「おぉ、シャロ。やっと俺の事を兄さんと……」

「いやいや、アーネット。そこは今感動する場合じゃない」


 ついつい、意味不明な感動を持ったアーネットに突っ込んだが、シャロが咳払い一つで話を戻してきた。


「コホン! で、その為にも私たちが敵兵を引き付けて、押し出して橋を少しずつ破壊する。そうやって、後方の憂いを失くしてから敵の補給線を叩く。こうすればこちらは補給物資を手に入れながら相手を先細らせることができるわ」

「なるほど、確かに悪くない案だ。ただ、問題点はアーネットでも破壊できるかどうか、だな」


 俺がそう言うと、シャロもそこは首肯してきた。

 アーネットだけは、意味が理解できてないのか、シャロから兄と言われたことで未だ幸せの中に居るのか、ニコニコしたままだ。


「とにかく、相手の通路を完全に破壊できるようにしなければな」

「まずは、後方から襲って敵が怯んだ隙に桟道破壊を試してもらいましょう。それで出来なければ、即時撤退か、交戦をディーの判断で決めて」

「その辺の判断は了解した」


 俺達は、話が終わるのと同時に敵の後方へと移動を再開するのだった。




桟道出口 カレド


 トリスタンの案を採用した私は、彼の案を実現すべく準備に奔走していた。

 ここ最近、敵もそこまで活発に動いて来なくなってきている。

 恐らくだが、疲れが出始めているのだろう。

 何せここ数日とはいえ、桟道のど真ん中で生活もしているのだ。

 天幕があるこちらと違って、野ざらしの状態で居るのは結構辛いはずだ。


「ディーたちから書状が来たぜ。なんでも後方の桟道を破壊するらしい」

「桟道を破壊? 確かにそれは効果があるかもしれませんが、相手が死に物狂いになるのでは?」


 私が疑問を口にすると、トリスタンが書状に書いてある事を読み始めた。


「『相手が、死に物狂いになるとういう危惧もあるやもしれんが、こちらとそちらの同時破壊であれば、問題はない。トリスタンに最大威力で桟道を叩かせ、破壊を試みろ。最悪小規模の破壊であっても、良い』だってさ」


 全く無茶を言いますね。

 確かにトリスタンの力は、アーネットに及びませんがやろうと思えば破壊ならできる。

 ただ、彼が破壊に専念できる状態を作らなければならない。


「こうなると、トリスタンの言っていた限定付きの攻勢で相手の感覚を麻痺させないといけませんね」

「こっちの準備はいつでも整っているぞ」


 私が呟くのと同時に、トリスタンが嬉しそうにこちらを見ていた。

 全く、自分が行くと言わんがばかりの目をしている。

 お互いの感情も感じる事ができるが、そんなもの無くても今の彼の目を見れば一発で分かってしまう。

 『暴れたい』という彼の思いが。


「致し方ないですね。最初の一回目は行ってください。ただし、二回目以降は別の者に任せます。トリスタンは力の温存の為に休んでいてください」

「ぶー……、俺はもっと暴れたかったのに」

「仕方ないでしょ? トリスタンの使命が変わったのですから。本来なら一回目も戦わせたくないくらいなのに」


 戦場とは運が付きまとう。

 それは幸運でもあり、不運でもある。

 いつ彼にその不運が付きまとってくるか分からない。

 だからこそ、最低限の運だけになるように準備を進めるのだが。

 この馬鹿兄弟はその辺りの事があまり理解できてない。

 私はそんな思いを胸にしまって、最後の確認を始めた。


 それから数時間後、辺りに闇のとばりが降り、静まり返ったころ。

 私たちは行動を開始した。


次回更新予定は9月22日です。

今後もご後援よろしくお願いいたします。

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