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4-9

 敵が懐に飛び込んできた瞬間、ギィンと金属音が響き渡り、敵がナイフを取り落とした。

 どうやら、横から警戒していた射手が俺と敵の間を正確に射貫いたようだ。

 ただ、次の瞬間今度は背中から衝撃を受けた。


「ディー! 怪我は!? 全く当たってない!?」

「うぐぐぐ……、シャロ苦しい」


 俺が、ジタバタとしながら彼女の柔らかいもので圧迫されている間に、先ほど襲ってきた奴は縛り上げられていた。

 とりあえず、九死に一生を得た形になったようだ。


「さて、捕虜の諸君。これが君たちの総意かな?」


 やっとの思いでシャロの腕からくぐり出た俺は、捕虜たちに対して問いかけた。

 答えによっては、こちらも前後から挟みかけ一気に殲滅する構えだ。

 すると、一人の捕虜が進み出て頭を下げてきた。


「滅相もありません! これは我々の総意では無いことをここに誓いますので、どうかお許しを!」

「では、捕虜同士で後ろ手にきつく縄を縛れ。そして、一人ずつ確認させてもらう」

「か、かしこまりました」


 進み出てきた捕虜の一人がそう言うと、半数が一斉に後ろ手に縛られ始めた。

 その間に、俺は襲ってきた奴にいくつか質問した。


「貴様の名は?」

「……」

「なぜ降伏してから襲ってきた?」

「……貴様が油断するだろうと思ったからだ」

「なるほど、ではお前が襲ったら捕虜全員が死ぬ可能性もあったが?」

「その時はその時だ。貴様の悪名が世に出るだけだ。捕虜殺しとしてな」


 なるほど、噂というのはとかく凄惨なものを好むことをよく知っている。

 確かにここで捕虜を大量に殺せば、襲われたという事実は消え、捕虜を大量に殺したという事実だけが独り歩きを始める。

 人の心理というものを理解しているな。


「貴様の今の階級は?」

「伍の長だが」


 ふむ、五人組の長か、少し勿体ないな。

 

「もし俺についてくるなら、先ほどの罪を帳消しし、将として扱うがどうだ?」

「「は!?」」


 ん? 後ろからも……、ってシャロがものすごい形相でこちらを見ている。


「ディー! いくら何でも馬鹿じゃないの!? 今さっき襲って来た奴を将にする!? どういうつもりよ!」

「まぁまぁ、落ち着けって。いくらなんでもすぐに将にする訳じゃない。ただ、こいつの度胸もそうだが、冷静に状況を考えたり風聞も考えての行動が気に入ったんだよ」

「だからって、そんな事を急に言うもんじゃない!」


 良い考えだと思ったんだけどな。

 一応今の状況から考えると、彼は相当苦労している。

 伍の長と言っているが、それは実質面倒ごとの多いまとめ役といったくらいだ。

 それに、手当なんて全くでない。

 それなのに、あれだけの胆力と見通す力を見せたんだ。

 俺としては、将来的に使いたい人材だったんだがな……。

 そんな事を思っていると、先ほどから顔を伏せっていた男がこちらを見て話しかけてきた。


「先ほど言われた事、約束を違えぬと誓えますか?」

「ん? あぁ、もちろんだ。なんだったら陣営に戻ってから念書も作ろうか? ただし、自分の実力も見せて上がってこい。努力するための土台は用意してやる」

「是非に!」


 おぉ、快諾してくれたよ。

 俺が少し嬉しそうにしていると、後ろからシャロが怖い顔で見てきている。

 だが、気にしたら負けだ、気にしたら。

 俺は自分にそう言い聞かせながら、捕虜の今後を考えるのだった。



桟道出口 カレド


 敵が襲来して数日が経った頃。

 未だに敵後方が騒がしくなく、耐える日々が続いていた。

 そんな状況の中、トリスタンが一つの案を持ってきた。


「ここから数キロ崖を通ると、二か所だけ幅の狭い場所がある。そこから矢を対岸に射たいと思うんだが、良いか?」

「ここのエルフの人数が少ない中で、ですか?」

「効果は殆どないだろうけど、やる意味はあると思うぜ」


 トリスタンがそう自信満々に言い切ったが、私の考えは決まっていた。


「却下です」


 そうきっぱりと私が言いきると、トリスタンは少しムッとした表情になって反論してきた。

 

「だからって、このままここで時間だけを潰しても意味が無いと俺は思うんだが?」

「確かにそうだけど、守備にまずは徹する。これがディーの基本方針だろ?」


 私がそう言うと、トリスタンは少し瞑目して考え始めた。

 少しの間待っていると、彼は考えがまとまったのか目を開いてこちらを見てきた。


「なら、こちらから逆に攻めあがるのはどうだ? もちろん限定付きで」

「限定付きで攻めあがる? どんなことを想定しているんです?」

「条件として考えているのは、そこの曲がり角まで。敵がこちらを追って来たら逃げるだ」

「なるほど、要は嫌がらせをしようというのですね?」


 私が言ったことに彼は頷いてきた。

 確かにそれなら、どうにかなるかもしれない。

 ただ、問題はどうやってそれをするかだ。


「後は、方法ですね」

「それについては案があるんだが……」


 そう言って、トリスタンが話し始めた案は、確かに面白いものだった。

 そして、こちらの被害も最小限に抑えられるだろう。

 

「では、トリスタン。その案で行きましょう」


 私がそう言うと、彼は嬉しそうに準備をしに天幕を後にするのだった。


次回更新予定は9月20日です。


今後もご後援よろしくお願いいたします。

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