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4-8

渓谷最深部 ディークニクト


 アーネットを残して、出口側に向かった俺達だが……。

 どうも先ほどから、こちらに向かってくる奴らが多すぎる気がする。


「いいか! できる限り数を減らせ! ただし、無理はするな! この後がしんどいからな!」


 一層狭い場所で剣を振るいながら、命令を飛ばしている。

 だが、余程恐ろしいものでも見たのか、徐々に敵兵たちの顔が必死の形相になり始めた。


「ディー! このままだと数で劣る私たちが、押しつぶされるわよ!」


 シャロが悲鳴の様な声で言いだしたのは、もっともな事だ。

 窮鼠猫を噛むという言葉通り、囲みが完成すると相手は必死になる。

 必死になった者の相手は、厳しいものがあるのだ。

 それに、兵法にも『必死な者を相手にするなら、逃げ道を一か所あけておけ』とある。

 俺は、しばし戦いながら考えた。

 相手を、逃がしてこちらの奇襲を知らせる様な真似をするか。

 相手を、犠牲を払ってでもここで全滅させて奇襲をするか。

 どちらもリスクが高い。

 だが、どちらかを選ばねばならない。

 いや、第三の選択肢もあるか。

 俺は考え付いたことを実行しようと動き始める。


「いいか! 敵の猛攻を防ぐぞ! 圧倒的な力を見せろ!」


 俺が命令を下すと、周囲の兵が覚悟を決めた目をした。

 そう、ここが死地となる可能性がある事を理解したのだ。

 俺は、迫りくる敵の攻撃をかわし、剣を突き立て、切り払い、徐々に押し返す。

 そんな俺に続くように、他の兵たちも少しずつ押し返している。

 

「さぁ! 死にたい奴はかかってこい! こっから先には行かせんぞ!」


 俺が手近に居た敵を切り払い、叫ぶ。

 すると、一瞬だが敵が怯み動きを止めた。

 そして、ざわめきと共に声が聞こえ始めたのだ。


「お……おい、前にも化物、後ろにも化物だぞ」

「た、隊長はどうしたんだ?」

「そういや、矢に射られてたかもしれん……」

「し、死ぬのか? 俺達」


 ……、どうやらアーネットが前線に立っていた指揮官を屠った事がこの潰走の原因だったらしい。

 ならば話は別だ。

 俺はそう思うのと同時に、敵兵に声をかけた。


「死にたくない奴は、武器を捨てて投降しろ! 命は取らぬと約束する!」


 俺がそう言うと、再びざわめきが起こったかと思うと数瞬して、一斉に剣を地面に置く音がした。

 それを聞いた俺は、兵たちに少し下がるように命じた。


「投降する意思のある諸君! 両手を上に上げて少しずつ前進してくれ、こちらで一組ずつ手を縛らせていただく。ロープをこちらに渡してもらおう」


 俺がそう言って、彼らに近づくと一人の男がこちらに進み出た。

 彼は片手にロープを持って、もう片方の手は上げた状態だったのを見て、安心して近づく。

 少しずつ距離を詰め、互いに確認しながら進み、彼が差し出したロープを受け取る。

 それと同時に、上げていた手の裾から男は短剣を取り出して俺に突き立ててきた。


「ディー!!!!」


 その瞬間、シャロの絶叫が渓谷にこだました。




桟道出口 カレド


 何とか敵を押し返した私たちは、追撃も早々にまた防御態勢を整えた。

 ディーから言われている事は、敵が撤退したら追撃を適度に行い、敵が攻撃を続行してくるなら、この場で食い止める事だ。

 そして、その結果が現在の膠着状態である。

 

「ここまでは、何とかディーの考えている膠着状態に持ってこれましたね」


 私がそう言うと、カレドが鼻を鳴らしながら不平を訴えてきた。


「だからと言って、現状俺は面白くないがな」

「それは、トリスタン。貴方が暴れたいだけでしょうに……」

「そりゃそうだろ。アーネットだって、ディーだって迂回路から敵の側背面を目指してるんだぜ? 俺だってあっちについて暴れまわりたかったよ」


 そうなると、必然的に私もセットで移動しそうなのですが?

 私が何とも言えない表情をしていると、トリスタンはこちらを見てニカッと笑ってきた。


「まぁそう怒るなって、お前の事は俺が守ってやる。逆に俺がやり過ぎないようにお前は抑えてくれりゃいいんだから」

「……全く、何十年同じことをさせる気ですか?」

「そう言うなよ。俺たちの仲だろ?」


 そんな風に言われては、正直何も言い返せない。

 私とトリスタンは、エルフとしては珍しい双子の兄弟なのだ。

 エルフの双子は、基本的に精神体で繋がっている事が多く、テレパシーの様なものが使える。

 最も、『テレパシー』なんて言葉を考えたのは、ディーなのだが。

 そんな私たちだからこそ、お互いにお互いを助け合う事ができるし、対照的な私たちが上手くやっていけるのだ。


「とりあえず、相手をどうするかですね」


 私が、それ以上言いようがなかったので、話題を逸らすとトリスタンも乗ってきた。


「確かに、防御をし続けるのは良いけど、相手の動きが怖いよな。それにそろそろ夜襲があってもおかしくないと俺は思う」

「トリスタンにしては珍しく考えましたね。私もそれには同意見です」

「珍しくは余計だ。だけど、いつ仕掛けてくるか分からないのに、緊張して待つのもアホらしいよな?」

「では、いっそのことこちらから仕掛けますか?」


 私が珍しく積極策を言い出したので、トリスタンが目を丸くした。

 どうやら、私もディーやトリスタンたちに毒され始めていたのかもしれない。

 そう思いながら、夜襲の話をトリスタンと詰めるのであった。


次回更新予定は9月18日です。


今後もご後援よろしくお願いいたします。m(__)m

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