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4-7

渓谷最深部 アーネット


 ディーたちを裏に回らせ、俺は狭い渓谷の通路に百人の兵とともに居座った。

 相手は、こちらを見ずに裏に回ろうとしているディーたちへの対応に躍起になっていた。


「さて、こっちを無視してディーたちの所に行かれては、意味が無いからな。良いか! 敵を全員屠る気で戦え! 左右の戦友を守ることだけを考えろ!」


 俺が、大声をあげて命令すると残った百人の兵は一斉に雄叫びを上げた。

 こちらの士気が高いことを知った相手は、やっと正面――俺たちの方――を向いて構えた。


「さぁ! 俺の名を知っている奴は居るか!? 居ないなら! 今この時にその身に刻め!」


 俺が吼えるのと同時に、飛び掛かると相手も陣形を組んで対抗してきた。

 狭い場所ながらも、小さい方陣をいくつか組んで侵入を阻もうとしている。

 ただ、そんなもの俺には関係ない。


「この狼牙棒の錆になりたい奴は、どいつだ!」


 俺は、敵陣を無視して突っ込むと、長さでも重さでも勝っている狼牙棒を一振りする。

 すると目の前に居た敵兵の数人が派手な音とともに頭が、上半身がはじけ飛ぶ。


「ひっ! け、消し飛んだ!?」

「ひ、怯むな! 手を挙げ切った状態ならこちらの攻撃を防げんぞ!」


 指揮官らしき男が、必死に兵たちを鼓舞するが俺には関係ない。

 かち上げてしまった武器を俺は、遠心力と体の回転に任せて一気に元の場所へと戻す。

 引き戻しが弱い重い打撃武器の弱点を補う方法だ。

 もちろん、普通の奴がやっても意味が無い。

 高速で回転してもピタリと止まる体幹がある俺独自の業だ。


「隙なんて、できる訳ねぇだろ!」


 俺が、雄叫びをあげて再び打撃姿勢を取る。

 敵兵の顔は全員恐怖に歪みながらもその真剣な目は、後ろの奴が必ず殺ってくれるという信頼がうかがえた。

 もちろん、俺だって一人で突っ込んでない。

 百人の精鋭と一緒に居る。

 彼らは、俺の後ろから援護射撃と距離を空けて剣を振るっていた。

 そして、今突っ込んできた兵たちは、後ろからの援護射撃で次々と頭を射られている。


「だ、ダメです! 怪物だけでも手一杯なのに、後ろから正確に射られては突っ込めません!」

「な、仲間の死体を盾にしろ! 矢だけでも防いで突っ込むんだ!」


 指揮官のその一言に、兵たちが一瞬躊躇った。

 だが、指揮官の判断は間違っては居ない。

 戦場で散った戦友を盾にする非情な行為も、この場を凌ぐには最適な方法なのだ。

 しかし、俺がそんなことをさせる訳なかろう。

 手近に居た死体を盾にした兵を、俺は一撃で盾ごと葬った。


「ひ……っ! た、助けてくれぇぇ!」

「だ、ダメだぁ! こんな化物相手にできねぇ!」

「う、後ろを塞がれる前に逃げろぉぉぉ!」


 戦友だった者を盾にする行為すら意味が無い。

 それが奴らの最後の希望だったのだろう。

 その希望すら失われた瞬間、奴らの士気は一気に崩壊へと向かうのだった。



桟道出口 カレド


 盾兵が吹き飛んだのと同時に、敵が私を目掛けて殺到してきた。

 唯一馬上にて指揮を取っていたので、総指揮官と判断したのだろう。


「くっ! あまり得意ではないんですよね!」


 私は、そうぼやきながらも馬上から必死に剣で応戦した。

 元々乗馬があまり得意ではなく、今回は視点を高くして相手を見ながら指揮せねばならなかったので、仕方なく乗っていた。

 まさかそれが仇となるとは思わず。


「後方! トリスタンに伝令を! 至急救援をこう!」


 私が、精いっぱいの声を張り上げて伝令を要請する。

 だが、敵の流れが止まるわけではない。

 破城槌こそ止まったものの、そう簡単に兵の流入は止まらない。


「包囲の陣形を! 槍兵は、少しでも敵を防げるように出入りを盾兵と縮めて!」


 ただ、いくら叫んでも状況は良くなるどころか、悪化の一途を辿っている。

 早く、早く来てくれないと、まずい!

 私がそう思って剣を振るった瞬間、別の方角から斬りかかってくる敵が見えた。


(だめだ! 避けられない!)


 一瞬死を覚悟した私は、身を縮こませ目を瞑ってしまった。

 その瞬間、激しい剣戟の音が近くで響く。

 私が恐る恐る目を開けると、トリスタンが間に入って敵の剣を受け止めてくれていた。


「トリスタン!」


 私が声をあげると、彼は斬りかかってきた敵兵の腹を蹴って距離をあけて切り捨てる。

 そして、私の方を振り返ることなく話しかけてきた。


「カレド! ここからは交代で良いのか!?」

「いえ! この窮地を凌いだら、また防衛です! まだ出番はないですよ!」

「なら、早くこいつら追い出して休むか!」


 トリスタンはそう言うと、敵兵のど真ん中へ歩を進めた。

 アーネットの様な怪力はなく、ディー程の技はないとはいえ、トリスタンも十分強い。

 特に彼が強い理由は、胆力だろう。

 この劣勢ですら彼にとって肝を冷やすほどではないのだ。

 その肝の太さが、彼にどんな戦場でも練習通りの剣筋を出させる。

 一人、二人、彼が前に出るたびに素早く剣を振るい、屠る。

 こともなげにやっているが、普通は出来ない。

 私も先ほど剣を振るっていたが、やはり死の恐怖があるのでどうしても剣先が鈍るのだ。


「トリスタンに続け! 敵を追い返せ!」


 私の号令で、トリスタンを先頭に押し返し始めるのだった。


次回更新予定は9月16日です。


今後もご後援よろしくお願いいたします。

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