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4-3

キングスレー軍 オルビス


 キングスレーを出立した私は、最も近い場所にある中立貴族の応接室に居た。

 出された紅茶をすすっていると、ドタドタという足音とともに小太りな男が入ってきた。


「で、殿下!? 一体本日は如何なされましたか!?」

「うむ、先触れもなく突然の訪問すまんな。フトーメ男爵」


 私がそう言って頭を下げると、フトーメ男爵は慌てて「滅相もない」と繰り返していた。

 相手の反応は上々。

 私はそう思って、顔を上げるとニヤッと笑って見せた。


「で、殿下?」

「まぁ、そう身構えるでない。今日はフトーメ男爵にいい話を持ってきたのだよ」


 私がそう言うと、フトーメ男爵は出っ張った腹を机に乗せてきた。


「うむ、男爵も興味があるようで良かった。まぁ、少し落ち着け」

「あ……、これは大変粗相を」

「よいよい。さて、いい話というのだがな。男爵よ我らに兵と物資を預けぬか?」


 いきなり兵権を渡せ、物資を寄越せと言われたフトーメ男爵は、一瞬表情を曇らせた。

 そして、確かめるようにこちらに訪ね返してきた。


「それは、反乱にお味方せよとの仰せで?」

「いやいやいや、そんな大層な事は言わんよ。なにどっちにも恩を売るのに、良いかと思ってな」

「どちらにも恩を売る?」


 ふむ、ここまで言ってやって気づかないか。

 私は、少しもったいぶりながら小声で。


「兵と物資を我らに貸し、建前を第一王子に貸してやればいい。特に兵と物資は無理矢理持っていかれたと言っておけばよい」

「……要するに私は脅されたと?」


 男爵が確認してきたので、私は鷹揚に頷いてやった。

 それを見た男爵は、口角が上がるのを必死に我慢しながら「お、脅されては是非もありませんな」などと言い始めた。

 まったく、三文芝居も良いところだ。

 もっとも、こちらも味方をされたなどと思わぬがな。


「では、兵と物資の用意を頼むぞ。後のことは後ろに控えている武官が引き受けてくれる手筈になっている」


 俺がそう言って後ろを指差すと、痩身のエルフが男爵に会釈をした。


「かしこまりました。こちらは準備を致しましょう。……それで、私も準備をした方が?」

「脅された奴が居てはまずかろう。なに、息子殿も参戦には及ばぬよ」


 私がそう言うと、男爵はあからさまにホッとした様子を見せた。

 こういう保身の塊は扱いやすくていい。

 こうして私は、近隣の日和見主義な貴族たちから兵と物資を徴収して回った。




ロンドマリー ディークニクト


 2万の兵を率いて俺は、ロンドマリーへと移動を終えていた。

 先の戦争から兵力の拡充を進めていたロンドマリーは、現在1万程度の兵を保有している。

 その為、キングスレー軍と合わせると約3万となるが、ここから輜重隊守備隊を差っ引くと実質2万に戻る。


「兵の分担ですが、キングスレー軍が接敵しロンドマリーが後方支援という事でよろしいのでしょうか?」


 あらかじめ俺が考えていた事を軍議で提案すると、ウォルが確認をしてきた。

 まぁ、確かに防衛線という形で考えるならロンドマリーの兵たちの方が士気は高い。

 だが、今回は防衛だけでなく相手を圧倒して、侵攻も開始しなければならないのだ。


「確かに、防衛だけで考えるならそうかもしれない。だが、今回は侵攻も視野に入れているから、できるだけ敵を圧倒したいんだ。そうなると連携の取りにくい混成軍団よりも単一軍団の方が楽だろう?」


 これは古今東西の軍事でよく出てくる事だ。

 混成軍団は一見数が多くなったりして有利に見えるが、相手が戦巧者だったりすると脆く崩れやすい。

 そうなる一番の理由は、連絡網の荒さだ。

 単一軍団だと、連絡網は事前に決まった形で機能し、そうそう崩れる事はない。

 対して混成軍団は、急造の場合がほとんどで連絡網は荒く、機能不全を起こしやすいのだ。

 この差は、小さく見えるかもしれないが、戦争という非常時には顕著に表れる部分でもある。


「まぁ、確かに混成軍団の方が脆いですが、一万ずつにすれば問題は……、あっ!」


 そこまで言いかけて、ウォルは気づいたようだ。

 そう、地理的な不安があるキングスレーの兵士に補給をさせたり、守備をさせたりする事が難しいと。


「分かったみたいだな」

「なるほど、確かにそれは問題ですな。浅慮申し訳ないです」


 そう言って頭を下げるウォルに俺は、「構わない」とだけ伝えて話を続けた。


「そう言った理由で、今回はキングスレー軍を前面に出していく。他に意見のある者は?」


 俺が周りを見渡すと、一人手を挙げる者がいた。

 カレドだ。


「ディー。迎撃場所についてですが、前回のゲルト高原は今回使わないのですか?」

「良い質問だ。今回はゲルト高原の更に奥、奴らが来るのに使っていた桟道を封鎖して迂回戦術をとる予定だ」


 ゲルト高原の奥には、急峻な谷と崖の様な場所にある桟道の二つのルートがある。

 前回は、ここをスルーして相手を高原まで引き込んで戦った。

 ただ、それは最後に使った火計を用いるためであって、本来ならこの桟道の出口を封鎖して戦うのがセオリーなのだ。


「しかし、迂回と言っても場所がかなり厳しくないですか? 流石にエルフといえども厳しい崖だと思うのですが……」

「なに、崖なら俺が飛び越えて一人で敵の後ろから襲ってやるさ!」


 カレドが不安の声を出したが、その隣で聞いていたアーネットが大声で笑いながらとんでもないことを言いだした。

 いや、確かにこいつならできそうだから怖いんだよな。


「まぁ、大勢でというのは無理だろう。この迂回戦術で移動するのは、俺とアーネットが率いる少数精鋭部隊で行くつもりだ」

「ちょっと、また自分を危険にさらす気? アーネットは殺そうとしても死なないけど、ディーは違うんだからね?」


 シャロがそう言いながら心配をしてくれるが、流石に俺もアーネットとは比べようなんて思えない。

 あいつは、本当の意味での化物だ。


「なに、大丈夫さ。流石に谷にドラゴンでも居ない限りなんとかなるさ」


 俺がそう言って、笑い飛ばして軍議は終了した。

 これが、まさかフラグになるとも知らずに。


次回更新予定は9月8日です。


今後もご後援よろしくお願いいたします。

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