3-26
ベルナンド港沖合 アマンダ
海上封鎖を始めて2週間以上が経過したが、奴ら全く動かなくなった。
最初の数日は、こちらに対して攻撃を仕掛けようとしていたが、それを難なく撃退していたら、亀の様に引きこもり始めた。
まぁ、おかげでこっちは楽に海上封鎖ができるというもの。
それに、そろそろ限界を迎えるはずだ。
「いいねぇ、実にいいよ。私たちを追い出した街が、奴が困り果てて講和を申し込みに来るはずだ。そうなればこっちは、通行料をふんだくって楽して金儲けができる」
私がニヤニヤしながら、呟いていると副官が声をかけてきた。
「前方から小舟が一艘こちらに向かっています。船には、船員以外ですと子ども?」
「子ども? なに? 生け贄でもくれるのかい?」
吹き出しかけながら、窓へと進むと確かにそこには子どもを乗せた船が近づいて来ていた。
何ともシュールな状況になったものだと、思っていると伝声管からドスの利いた声ががなり立てた。
『キャプテン! 子どもを乗せた船が一艘近づいてます迎撃しますか!?』
「もう少し様子を見な! まだ三角帆をだしちゃいないが、恐らく何かしらの話し合いだろうからね!」
三角帆は、いわゆる海の白旗である。
これを出して近づく船は、基本的に海賊以外なら拿捕で済ませるものだ。
「確かに、三角帆が無いのはちょっと変ですね」
「なぁに、どうせ奴らの事だ。海のしきたりすら忘れる程狼狽しているんだろう。それに、子ども一人に何ができるってんだい?」
「まぁ、確かにそうかもしれませんね」
そう、相手は子どもなのだ。
確かに魔法使いのフード付きのローブを被っているが、何もできやしない。
それに、もし攻撃してきたとしても少々の魔法ならこっちには防御魔法も船にかけてあるんだ。
そう簡単に破られはしないだろう。
「小舟はなおも近づきますね。そろそろ停船命令を出しますか?」
「そうだね、ここらで止まってもらおうか」
私がそう言うのと同時に、副官は伝声管を使って命令を飛ばした。
「接近中の小舟に停船命令の手旗信号を送れ!」
『アイサー!』
命令と同時に、手旗信号が船首から送られる。
だが、小舟は見えていないのかなおも近づいてきた。
二度三度送るが無視され、信号手がこちらに報告を飛ばしてきた。
『小舟が停船命令に従いません!』
「これより小舟に攻撃を仕掛ける! 威嚇ではない! 当てる気でいけ!」
『アイサー!』
命令を出したのとほぼ同時に、左舷に展開していた3番艦が突如大爆発を起こし、轟沈を始めた。
「観測手! 状況報せ!」
『わ、分かりません! 三番艦突如轟沈! 原因不明です!』
「嫌な予感がするよ! 全速回頭! 撤退しな!」
『アイサー!』
「回頭中は魔法使いに注意させな! もしかしたら、何かしら未知の魔法の類を使っているかもしれないからね!」
命令と同時に、乗船していた魔法使いが船べりから身を乗り出す勢いで見ていた。
まぁ、奴らもこんな所で死にたくはないだろうから、必死にもなる。
ただ、こちらが回頭を始めてから敵は一切の攻撃をせず逃げる私たちを見逃すのだった。
ベルナンド港沖合 ドロシー
ディーの依頼で、海上に停泊している敵船を一隻沈めた。
使ったのは最近理論だけ開発していた、圧縮魔法だ。
今回は、風の魔法を限界まで圧縮して、触れた瞬間に圧縮した風があふれ出すようにした。
その結果、船は木っ端みじん。
船員の大半が四肢の千切れ飛ぶ大けがを負って、海へと放り出された。
まぁ、恐らく助からないだろう。
近くにいるシーサーペントなどの肉食海洋魔獣が、彼らを綺麗に飲み込んでいくのだから。
「さて、ディーの依頼は終わりました。陸に戻りま……ウッ!」
「了解いたしました。港に着くまで寝てて頂いて大丈夫ですぜ?」
「うぅ……、よろしく……おねが……ウッ!」
この後、何度か戻した私はゲッソリとして港に戻った。
「港に着きやしたぜ。大丈夫ですかい?」
「うぅ、まだ揺れている気がする」
「しばらくしたら治りますから、今日はゆっくりしてくだぇ」
「これは……、ディーに埋め合わせをさせねば……」
「そんだけ頭が回っているなら、まぁ大丈夫でしょう。おぉい! 英雄様のお帰りだ!」
男がそう言うと、港の近くで待機していたであろう、大男たちが私の体を持ち上げ、板に乗せて担ぎ始めた。
「ワッショイ! ワッショイ! 英雄様のお帰りだぁ!」
「わわ、ちょ、ちょっと! そんなに揺らさない……ウッ!」
その日私は、これまでの人生で一番の汚点を残すことになったのは、言うまでもない。
これにて、第3部終了です。
次回第4部になります。次回更新予定は9月2日です。
※8月31日予定があるので、更新がちょっと辛いです。
また、明日昼から新シリーズ「最強の建築士~本当は勇者になりたかった~」を公開予定です。
是非ともご覧いただけるとありがたいです。
今後もご後援よろしくお願いいたします。




