3-24
ドロシー宅 ディークニクト
「俺が死んだのは、あの魔族殲滅戦の後だ」
魔族殲滅戦とは、前世の俺が計画し実行した作戦だ。
それまでゲリラの様に神出鬼没だった魔族を、一所に集めてドロシーの魔法で拘束して戦った。
結果的には人族の勝利となっているが、あの戦いを実際に見た者からすると、死屍累々でどちらが勝ったかも怪しいものだった。
「それくらいは私でも分かる。魔族殲滅戦後、お前は魔族の生活実態を見てどうにか講和の道を探そうとした。私もそれを良しとして生活向上用の技術研究に入った」
「そう、あの後だった。数か月部隊の再編と称して時間稼ぎをしながら魔族と交渉していたんだが、どうやらそれが貴族たちに漏れたみたいなんだ」
「貴族に? 確かお前は部隊を全て把握してたはずではなかったか? それにあの交渉を知っているのは……」
「俺達を除けば、腹心の3人だけだ」
俺がそう言うと、彼女は息をのんだ。
それもそうだ、彼ら3人はそれぞれ立場が違えども一廉の武人。
相手に情けも持つ者たちだと、俺は信じていた。
「あいつらが…………」
「まぁ、もしかしたら貴族の誰かが密偵を派遣していて、そいつに掴まれた可能性も否定はできないけどな」
「お前に対して気配を殺せる者など、あの当時居なかっただろう? 今でも居るかどうか怪しいのに」
「まぁ、力では絶対に敵わない奴は居るけどね」
自嘲気味に俺が言うと、ドロシーは信じられないと目を見張った。
まぁ、それもそうだろう。
転生した当時、俺は力と素早さを元の2倍にされていたのだから。
「で、その後どうなった?」
「密告を受けて、国王が俺を拘束する旨を使者に託してきた。確か、聖光教会とかいう教会関係者だったな」
「聖光教会か……、確かにお前を抹殺した後から急に勢力を伸ばしていたな」
「今の国教がそれだよ。恐らくその筋の関係者が居たのかもしれない」
「流石に個人の宗教観までは知らんぞ……」
「まぁとりあえず、奴らに引っ立てられて俺は王城の地下に幽閉された」
「王城の地下? まさか開かずの檻か!?」
「そのまさかだよ。まぁ既存の檻では、俺が脱走しようと思えば脱走できたからね」
「それもそれで、大概人族辞めているな……」
そう言うと、ドロシーは俺に何とも言えない視線を送ってくる。
まぁそんな事を言ってても仕方ない。
俺は、咳ばらいをして話を続けた。
「でだ、脱出も不可能になった俺は、何かしらの裁判なり取り調べなりが起こるだろうと思って待っていたんだ」
「まぁ、それがあれば最悪逃げられるからな」
「結果は、何もなかった。約1か月間何も、誰も来ないで俺はひっそりと開かずの檻で死んだんだよ」
「……流石に貴族たちも馬鹿ではないか」
「恐らく当時の国王だろうな。あの人は、用心深いを通り越して猜疑心の塊になりかけていたから」
「皮肉なものよな、歴史上優れた王と言われているのに」
「まぁ良いように書き換えているからな、歴史なんて」
そこまで話すと、俺達は一旦休憩を入れた。
休憩と同時に、こんな話をしていたら真っ先に入ってくるシャロの姿が無い。
「そういえば、シャロはどうしているんだ?」
「ん? あぁあの娘には睡眠薬を盛っておいた。恐らく今頃夢の中だろう」
「睡眠薬!? なんで魔法じゃないんだ?」
「魔法なんてエルフ相手に使えないわよ。結界魔法は効いたみたいだけど、睡眠系の魔法は無効化されるわ」
「え? どういうことだ?」
「エルフってのはね、基本的に魔法耐性の高い種族なの。いくら私が高位の魔法使いでも、エルフを眠らせるのは至難の業。それに寝たと思ってもすぐに起きるわよ」
「し、知らなかった……」
ドロシーは盛大なため息を吐いて話を続けた。
「そりゃ、私が公表してない話だからね。全く、王国の奴らの怠慢も良いところだわ。私が王宮に行かなくなったら、途端に技術進歩が止まるんだから」
「まぁ優れた学者や研究者が、一人でも居れば事足りるからな」
「そういうのが、技術の進歩を促さないのよ!」
相当イライラしているのか、辺りのものを蹴って八つ当たりをしている。
もちろん、全ての物に保存の魔法がかかっているので、すぐに綺麗に直るのだが。
「で、死んだ後はどうなったんだ? どうせ奴と会ったんだろ?」
「自称神の事を知っているのか?」
「当たり前よ。私くらいの高位魔法使いなら、神を自称する奴と話すくらい簡単よ。ちなみに、高位神官も似たような力で啓示を貰っているわ」
「ありがたみの薄い神だな……」
「で? 転生の条件は何だったの?」
そう言われて俺は、自称神から告げられていた条件を話した。
一つ一つは大きくないが、最後の一つ『3代続く国を作れ』が厄介極まりない。
「エルフで3代って、単純計算しても2500年以上続く世界を造れと?」
「まぁ、そうなるな」
「アホじゃない? あいつ本当にアホじゃないかしら!? それで出来なければ族滅させるって本気でアホじゃない!?」
「まぁ、唯一の救いは興亡に関して、一切神自身が手を出さないという約束があることだな」
「……それ神の使徒って抜け道があるじゃない」
「神の使徒?」
俺が聞き返すと、彼女はため息を吐いてから話し始めた。
次回更新予定は8月27日です。
※神との約束の詳しい話は、第一部にある幕間をご覧ください。(追加が後になりましたので、最初から読んでおられる方も見逃している可能性があります)
今後もご後援よろしくお願いいたします。m(__)m




