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ベルナンド港沖合 アルメダ
「流石に、突撃させると簡単に迎撃されちまうね」
私が、舌打ちをしそうになるのをこらえながら呟くと後ろに侍っていた副官が声をかけてきた。
「これは、当初の予定通り海上封鎖すべきではございませんか?」
「そうだねぇ、こうも簡単に倒されたんじゃ仕方ない。しかもご丁寧にこっちに見えるように船も沈没させてくれたからね」
元々入り組んだ港でもあるベルナンドは、そう簡単に落とせる場所ではない。
当初の計画では港の破壊もしくは、通商妨害をする事だった。
港の破壊ができないのならば、通商妨害だけでもしなくてはならない。
「まぁ、金も物資もありったけあるんだ。少し奴らには干上がってもらおうか」
「では、各艦に予定を知らせてまいります」
私の意を汲んだ副官が全艦に手旗で通達をした。
『通商破壊に従事し、港に船を入れるな』と。
ベルナンド港 ディークニクト
最初の襲撃から3日。
特段の動きもなく、奴らの船は沖合に停泊したままだった。
「ディー、あれはどういう意図があるのでしょう? 攻撃するでもなくこちらの様子を窺うように停泊しているだけですが」
「停泊しているだけでも鬱陶しいけどな」
カレドが心配の声をあげると、いつものようにトリスタンが感情に任せたことを言う。
ただ、二人が言っている事は俺を含め恐らく商人達も思っているだろう。
だが、あちらは戦艦、こちらは商船。
戦う前から結果が分かっているので、誰もあそこに飛び込もうとは思わない。
もちろん、本来なら毎日やってくる商船も来たら端から順番に拿捕もしくは撃沈されてしまい、近づくこともできないありさまだ。
「このままだと我々は干上がってしまいかねません。何とかしないと」
「何とかってなんだよ? 相手は戦艦、こっちは精々大型商船。勝負にもならねぇし、俺達エルフは海の上じゃまともに戦えないぞ」
そういって、カレドとトリスタンは睨み合いを始める。
確かに現有戦力では辛い部分が多い。
特に、相手は海洋魔法大国ジーパンだ。
そうおいそれと船すら近づけさせてくれないだろう。
「まずは、問題点の整理だな。カレド、船の改修工事はどれくらい済んでいる?」
「現状、船に鉄甲板を載せるのはほぼ終了していますが、問題は装甲です。火力のある火魔法で何とか形を変えてますが、慣れない作業ではかどっていません。それにこの手の分野は我々エルフではなく、ドワーフの分野です」
「流石にエルフの火魔法では辛いか……。トリスタンの方はどうだ?」
「こっちは兵の訓練しているけど、相手は魔法使いだろ? 正直あれと戦うと聞いたら奴ら一気にやる気なくしてやる意味が無くなってるよ。おかげで今日は早々に解散させたよ」
船は順調とは言えないがどうにかなりそうだが、問題は兵たちの士気か。
これまでの陸上戦なら俺達が踏ん張ることでどうにかなったが、海上戦では難しい事は明白だ。
特に相手が使える大型魔法をこちらは使えない。
「とにかく、こちらとしては魔法使いを募集しておりますが、在野の魔法使いで使えるものなどほとんど居ませんし、居てもマッチとどっちが便利だってくらいです」
「マッチと比べると、魔力消費が無い分マッチの方が便利そうだな」
「遺憾ながら、トリスタンの言う通りですよ……」
「使える魔法使いか……」
さて、どうしよう。
確かに使える魔法使いは、少ない。
俺もそれは前世で嫌というほど味わった。
ただ、それも全部陸上の話だったので何とか戦術でカバーしていたが、海上では少々の戦術ではカバーしきれない。
「……やはり助力を乞うべきか」
「ディーには誰か当てがあるのですか?」
「なんだよ! もったいぶらないでさっさと頼めばいいじゃん!」
「確かに居るには居るんだが……」
あまり頼りたくはない。
というか、頼っても助けてくれるかどうか。
ただ、現状を座して見守っていては干上がるだけだ。
俺は、意を決して一人の人物が住んでいるであろう場所へと向かう事にした。
「とりあえず、頼って助けてくれるか分からんが、行ってみる。ここの留守は二人に任せる。後助けてくれない場合も考えて用意をしてほしいものがある」
俺はそう言って、一つのメモを渡した。
「良いですが、こんなものを用意しても……」
「まぁ、いいじゃねぇか。とりあえず、こっちは準備万端にしとくから、ディーはその心当たりの人を連れて来てくれよ」
「あぁ、後は頼んだぞ」
俺はそう言って心当たりの人物の元へと急ぐのだった。
次回更新予定は8月21日です。
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