3-18
ベルナンド港 老灯台守
先日通達があった、しゅんせつ工事があるので、今日は大忙しだ。
いつもなら入ってから沈没船がある場所を避ける様に指示を出すのだが、今日は港に入る前に注意を促さないといけない。
まぁ、ここに来る奴らは基本的に顔を見知った近海の商船連中なので、案内なんてほとんど不要だがな。
そんな事を思っていると、大型の商船が入港してきた。
船のへりには片目に眼帯をしている、毛むくじゃらの男が大手を振って声をかけてくる。
「おう、おやっさん! 今日は珍しく灯台の近くかい?」
「おう! 今日は港の沈没船回収としゅんせつ工事やってるからな! いつも以上に気を付けて船を動かしてくれ!」
「お!? やっと沈没船片づけてくれるのか! 操舵手、観測手聞いたな!? 絶対に事故起こすんじゃねぇぞ!」
商船から身を乗り出していた男が船員に命令すると、威勢のいい返事が返ってきた。
流石に大型商船ともなると、船員の声の張りが違って聞こえる。
もっとも、商人というよりも、海賊か何かと言った方が見た目的には納得がいくが。
そんなやり取りを何回か繰り返した時、遠くから近づく数隻の船が見えた。
「……ん? 珍しく船団が来たか。これはしっかりと案内せねばならんな」
儂はそう思って灯台に登って船団のある海原を見晴るかす。
徐々に近づいてくるその船団は、数がかなり多かった。
「4……5……6……7!? ちょっと待て! そんな大規模船団まだ入れんぞ!」
儂はそう思うのと同時に灯台から手旗信号で停船を促した。
ただ、如何せん距離がある。
その為、恐らく向こうの船にはまだ見えないだろう。
だが、相手が早く気づいて止まってくれることを願いながら、手旗を送り続けた。
手旗を送り続けて数分後、相手の観測手が視認できるくらいの距離になったが、一向に止まる気配がない。
「まさか外国の船か!? いや、手旗の基本的な部分は一緒のはずだから、停船には応じるはず……、まさか!?」
儂の脳裏によぎったのは、相手が海賊という可能性だった。
海賊なら停船命令を無視して突っ込んでくる可能性が大いにあった。
その考えがよぎったのと同時に、儂は灯台にある警鐘を必死に鳴らすのだった。
ベルナンド港 ディークニクト
作業を開始して1時間くらい経っただろうか、突然灯台側から警鐘が鳴り響いた。
それもかなり慌てた様子で、激しく打ち鳴らされていた。
「異常事態だ! 一旦沈没船回収に出ている小舟を戻せ!」
警鐘が鳴り始めて数分後、状況が掴めてきた。
どうやら大型船の船団7隻ほどが停船命令を無視して突っ込んできている様だ。
特にマスト部分にも帆にも何も書かれていないので、海賊かどうかがまだ怪しいらしい。
だが、この時代に帆にすら何も書かない船は無い。
特に外洋に出て諸国を渡り歩く商船は、自らの出自などを帆に表すのだ。
そうすることで、敵味方の判別がしやすくなり無用な戦闘を避けられる。
だが、今回はそれが無い。
そうなると、かなりおかしい状況と言えるだろう。
「港の封鎖は?」
俺が問いかけると、内務官の一人が応える。
「他の商船も居ますので、不可能です」
「では、カレドとトリスタンに連絡を入れろ。相手は船だ。弓兵を多めに連れてこいと言ってくれ」
「は、はい!」
それから数分後、カレドとトリスタンが率いる5千の兵が港に到着した。
「ディー、敵が来たという事ですが」
「今度の相手は船だって? 楽しそうだな」
相変わらず神経質そうな表情で訪ねてきたカレドに対して、能天気にトリスタンが笑っていた。
「どうやら大型船団でな。7隻ほど近づいている様だ。 迎撃ポイントだが、既に灯台は制圧されつつあるようなので、こちらに入らない様に連絡路に1千で止めて、残り4千で港を固める。敵が入った段階で火矢を射かけろ」
「分かりました。では港はトリスタンが、私が連絡路で敵を抑えます」
「おう! 任せとけ!」
二人とも、それぞれの特性を理解して指揮を分担できているのは良い傾向だ。
俺が二人を頼もしく思っていると、港から大きな爆発音が聞こえてきた。
「て、敵が大型魔法を使って港の破壊を開始しました!」
「大型魔法だと!? たかが海賊にそんな事不可能だ!」
大型魔法とは、通常魔法の何倍もの威力を有する魔法で、魔法が使える者が何人も集まらないと使用が不可能な魔法の事である。
人族にこの大型魔法が使えるだけの魔法使いはほぼ居ない。
そして、それが海賊に力を貸すなんて事はまず無い。
そうなると、外国勢力の可能性が高いが……。
「とにかく今はそんな事よりも、被害を食い止めにかかれ! 敵が港を破壊しつくす前に火矢を射かけるぞ! エルフは狙撃を、人族は矢の弾幕をはれ!」
命令を聞いた兵たちは、それぞれの持ち場に向かって走り出すのだった。
次回更新予定は8月15日です。
今後もご後援よろしくお願いいたします。




