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1-6

昔話とやり過ぎ回。

エルフの里 ディークニクト


 クローリーとの約定の再締結などの事務処理が終了し、俺は久しぶりにウォルクリフと昔話をすることにした。


「ウォル、君がまさかまだ生きているとは思わなかったよ」

「……開口一番、衝撃的で辛辣な一言ですね。まぁ、それを言ったら私も、貴方が黒髪だったとは知りませんでしたよ」


 そう言ってウォルは俺の頭をまじまじと見つめた。

 この世界では黒髪は忌み嫌われている。

 特に人族の社会では色々とあって受け入れられていない。

 

「まぁ君に初めて会った時は、長老たちに幻術をかけてもらっていたからね」

「幻術とはまた。なぜそこまでして子爵の街に出てきたのですか?」

「まぁ、情報が欲しかったからね。それにエルフは若いうちに各地を旅して情報を収集するのが決まりだから」

「旅? その割には近い場所に居ましたよね? それも1年近く」

「そこは、幻術のせいとしか言えないな。あの幻術、魔力を食う割に効果が比較的短くてね。だいたい1週間に1度はかけ直さないといけなかったんだ」


 肩をすくめながらそう言うと、思い出の中に思い当たる節があったのだろう。

 ウォルも納得したような顔をしていた。


「まぁそのおかげで、エルフの里で足りないものがたくさん見つかったんだけどね」

「ほう、足りないもの、ですか?」

 

 俺の言葉に興味をそそられたのか、彼は少し身を乗り出した。

 

「例えば、麦などの穀類だ」

「そういえば、クローリー様が穀類の交換を止めたから彼らが満足に動けるわけがない、とおっしゃっていましたが、実際にはかなり動き回っておりましたな」

「だろうな。俺もそうなる危険性を感じたから、交換できている間に耕作に踏み出したんだ」

「エルフが、……耕作を!?」


 ウォルが驚きに目をむいたのは、当たり前だ。

 エルフとは元々農耕民族ではなく、どちらかというと狩猟民族としての生活が中心になるのだ。

 その為、穀類よりも山野の生き物や果物などを摂取して生きていた。

 ただ、それは当然弊害も生み出す。

 それは、栄養価の偏りだ。

 よく言われるエルフが細く幽玄の住人の様な印象を与えているのは、栄養が不足し血色が悪くなっていることが原因だ。

 この栄養価のバランスに目を付けたのが、俺から3代前の里長である。

 彼は、農耕が苦手な種族の為に栄養価を改善する方法として、当時新興貴族だったフルフォード家の初代と取引をした。

「麦を大量に交換できるなら、エルフの涙を分けてやる」と。

 それから500年。

 先々代は不慮の病で死亡し、先代が里長になって遺命を引き継いできて俺の代になった。


「しかし、エルフの中では反対意見などは無かったのですか?」

「もちろんあったよ。頭の固い長老たちを相手に何とか自作できるだけの土地を確保して、農作業をしてみたいという奴にお願いして始めたさ。それが今からざっと10年前の話だったかな?」

「10年? たった10年で備蓄を作れるくらいに耕作を増やしたと!?」


 ウォルが今度は驚きの声をあげてきた。

 それもそうだろう。

 何せ農耕とは長い年月をかけて培った経験の成果と言うべきものなのだ。

 特に開墾したての土地では2~3年はまともに作物が育たない。

 しかも一昨年から取引を停止しているので、実質軌道に乗せるには、5~6年しかない。

 

「まぁその辺は、人間社会に溶け込んだ時の知識を収集したというところだ」

「いや、そうだったとしても簡単に真似できるとは……」


 まぁそう思うよな。

 俺だってもし同じことをされたらそう思う。

 けど、前世の経験があるからこそなんだよ。

 土の状態を見て、㏗がどっちに傾いているか判断して、麦の作付けに適した土地にする為に何を足して、何を除外してと考えて実行した結果だ。

 おかげで、存外早くに量産体制ができた。

 特に子供期間の長いエルフにとっては程よい遊びと手伝いとなり、狩りなどで怪我をして、激しく動けない者たちの仕事として定着したのだ。


「また大変な事をこの人は、本当に……」

「そうか? こういった農業とかみんなの事を考えているのは楽しかったけどな」


 なんてことはないと俺が言うと、彼は顔を覆っていた。

 まぁ確かにあまり自重しなかった部分もあるから分かるが、その反応はないだろうに。

 

「で、あとあの中央の広場辺りに居た豚の柵はなんですか? まさかどこかと取引して買ったとか?」

「いや、あれはこっちで家畜化した猪だ。あれは結構簡単に家畜化できるから助かるよな」

「……え゛? 家畜化……した?」


 あれ? これも何か絶句しているぞ。

 確か猪は、家畜化するのに一番簡単な生き物だったはずだが。


「あの猪を家畜化したのですか? 確かに似た種類ですが、豚とは違って性格が獰猛なはずでは?」

「あぁ、それは奴らのテリトリーに無断で入り込んだら、の話だ。奴らが認識する前に捕獲してしまえば大丈夫だ」

「……嘘ですよね?」

「嘘ついてどうするんだよ」


 事実、うちにいるアーネットなんかは猪を素手で捕まえてくる名人だ。

 彼の捕獲方は、木の上から近づき脳天に死なない程度の一撃を入れるのだ。

 気絶した猪を一人担いで帰ってくる彼の姿は、控えめに言ってもエルフではなくオーガのそれだ。


「一体この里で何をするつもりですか? これ、完全に一つの国と同じ状態ですよ」

「いや、安全の為に突き詰めた結果なんだがな……。まぁ一つの国として自立できるようにはしているが」


 そう、自立しないといけないのだ。

 かつてのエルフは、フルフォード家に依存していた。

 それは今回の様な事が起こる可能性も示しているのだ。

 前任の当主が良い人だったから次の当主も、なんてことはあり得ない。

 少しの備えも怠れないのだ。

 そう、前任のようにならない為にも。


次回更新は5月18日予定です。


今後もご後援よろしくお願いしますm(__)m

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