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3-15

第一王子軍 リオール


 開戦から3日目。

 まさかここまでかかるとは思わなかった。

 初日は致し方ないとしても、2日目で終わっているはずだったのだが、存外に粘り強い。

 特に、昨日の背面攻撃は驚いた。

 相手もボロボロだったので、なんとか一点突破で抜け出したが。


「殿下、そろそろお時間ですが如何しましょうか?」


 私が考え事をしていると、ワーカーが話しかけてきた。

 余裕の態度からして、私が何を命じるか分かっているのだろう。

 その期待に応えてやろうと、私は大きく頷いて命令を飛ばした。


「本日の第一軍は、ワーカーが指揮せよ。第二軍は私が指揮する。兵数は、第一軍に7千、第二軍に3千の布陣とする。また、第二軍は後方陣地内にて待機。相手の迂回戦術を警戒する」

「はっ!」


 主だった者たちが頭を下げる中、ワーカーだけは意見があるようで、こちらをジッと見ていた。


「なんだ、意見があるのか? ワーカー」

「はっ、恐れながら今回の出陣に際しまして、兵数の調整をお願いしたく」

「ほう、どれくらいで出陣するというのだ?」

「敵軍と同じ5千で」

「敵よりも少ない兵数で対峙すると?」


 私がそう言うと、彼は黙って頷いた。

 恐らく、兵数をわざと少なくして昨日の伏兵を思い出させよう、という腹なのだろう。


「よかろう。ワーカーの言う通り5千での出陣を許可する」

「はっ! ありがたき幸せに」


 そういって、彼は天幕を後にした。





ロンドマリー軍 ディークニクト


 3日目の朝。

 互いに戦支度を終えて対陣したが、相手の数が明らかに少ない。

 物見の兵に数を確認させたところ、およそ5千とこちらとほぼ同数。

 こちらの兵力を見極めて投入してきたのかもしれない……。


「……もしそうだと言うなら、敵は神の目でも持っていることになるな」


 つい、考えていることが口から出てしまったが、誰も聞いていないので気にしていられない。

 こちらの布陣は、左右両翼に千の兵を中央に3千の兵を配置している。

 ただ、配置はしているが、こちらは退くことが前提だ。

 それに、冷静に見てみると、昨日とほぼ同じ布陣なのだ。

 恐らく奴らは、昨日の伏兵をこちらにわざと想起させようとしている。

 それなら、こちらはそれに乗って後退すればいい。


「全軍に通達! 左右両翼は伏兵を警戒しつつ中央の軍と距離を取って対峙! 敵が前進するようなら適時反撃しながら後退せよ!」


 俺の命令が浸透するのと同時に、左右両翼が敵の伏兵を警戒して森へと視線を移す。

 もちろん、全軍ではなく隊の一番端の兵たちだけだ。

 彼らが森からの伏兵などを見つけ、他の兵たちは敵中央に集中する。

 

「敵軍が前進してきます!」

「弓兵は矢を番えて斉射用意! ……放てぇ!」


 弓兵たちの一斉に放った矢は、敵の密集隊形へと真っ直ぐ進んでいった。

 ただ、流石に密集しているだけあって、そう簡単に倒れる兵は居ない。

 また、偶然当たったとしても、後ろとの連携が良いのだろう。

 こちらが穴を広げる前に次から次へと出てきて塞いでいく。


「敵軍なおも前進! そろそろ後退ラインです!」

「全軍整然と後退しろ! 左右両翼は森への警戒を厳としてゆっくり後退して来い!」


 俺の後退命令によって、徐々に下がり始めたのを見て敵側も少しずつ前に出るスピードを速めてきた。

 だが、こちらがそれに合わせて一定速度で退いてばかりでは、相手に策を気取られる。

 そうならない為、俺は適時斉射の号令をかけて、仕方なく退いている演技をさせた。


「敵軍の追撃が止まりました!」

「敵へ向けて一斉射! 放てぇ! 斉射終了後後退準備!」

「敵がこちらに向かって前進を開始!」

「全軍徐々に後退!」


 こんなことを、何度も繰り返し当初戦場の真ん中よりもやや相手側に対陣して俺達は、あと少しで自陣という所まで来ていた。

 ここまで相手を進めれば、後は策を使うだけだ。


「弓兵! 鏑矢を垂直一本! 思いっきり飛ばせ! 鏑矢が飛んだ後、全軍一斉に後退する! 自陣まで走って入り込め!」


 俺が命じるのと同時に、鏑矢が一本甲高い音を上げながら飛び上がった。

 それと同時に、左右両翼を含めて全軍が自陣の柵内に殺到する。


「慌てるな! 確実に入っていけ!」


 俺がそう声を張り上げるのと同時に、左右の森から一斉に火矢が放たれた。

 着弾した場所は、何もない草原だが次の瞬間、瞬く間に炎が燃え広がった。


「な! こんな場所で火計だと!? 全軍急ぎ後退! 走れ!」


 敵将は、意表を突かれた火計に慌てたのだろう。

 こちらまで聞こえるくらいの大声で全軍に撤退を指示した。

 だが、重装備でしかも密集隊形を取っていた軍が、そう簡単に素早く四散できるわけがない。

 彼らがもたついている間にも周囲に火の手は一気に広がり、彼らの身へと迫った。


「防具以外の装備を捨てる事を許可する! 急ぎ後退しろ! わき目を振るな! 盾も捨てて構わん!」


 中々判断の良い指揮官だ。

 装備を捨て、少しでも多くの命を助けようとしている。

 それに防具を捨てないのは良い判断だ。

 煙に巻かれるか、炎に巻かれるかの瀬戸際で、防具を捨てなければ炎の中も無理して突っ込めると判断したのだろう。

 その目論見通り、敵の兵たちは炎の中を必死に突っ切り始めた。

 だが、重い防具を装備しているのだ。

 そう簡単に抜けられない炎の中で倒れていく姿が見える。

 後は、どれだけの兵がこの炎の中を生き残るか。

 もっとも、生き残った兵もひどい火傷を負う事になるだろうから、暫く前線復帰は無理だろう。

 俺はそんな事を思いながら、天高く舞い上がる火柱を眺めているのだった。


次回更新予定は8月7日予定です。


今後もご後援よろしくお願いいたします。


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