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3-14

少し短い目です。

ロンドマリー軍 ディークニクト


 2日目の攻防が終わった。

 敵の左翼を潰せたのは良いのだが、こちらもかなり手痛い損害を被っていた。

 当初7千居た軍勢は、2日の攻防で約5千近くまで減っている。

 対して、相手の損害はこちらより多いと言っても、未だに1万は居ると考えられる。


「かなり被害が出てしまいましたな。特にイアンの率いていた右翼は、行方不明者も合わせるとほぼ半壊です」

「だが、敵を引き返させる最後の一手もイアンが打った」


 珍しく他人を非難しようとしていたウォルを俺が遮ると、彼は何かを言いかけて辞めた。

 ただ、ここで彼がなにも言わずに我慢してしまってはまずい。

 そう思って俺はウォルに声をかけることにした。


「ウォル。言いたい事は言った方が良い。特に今仲たがいをしている場合ではないのは、お前も分かっているだろう?」

「……では言わせて頂きますが、イアンでは正直部隊運用の経験が不足しています。こればかりは実戦でしか身に付きませんが、このままでは我らが負けてしまいます」


 やはり、イアン先生への不満と不安を抱えたか。


「それに、ディーも策があると言っていますがいつ出すのです? 今日出さなければ意味が無いのでは?」


 策があると言いながら全く出して無かった俺への不満か。

 彼はそこまで言うと、もう言う事は無いとばかりに見てきた。

 彼のその様子を見て、俺もしっかりと説得してやらねばならない。


「ウォルの気持ちはわかった。だが俺にも言い分はある。そこをまず聞いてほしい」


 俺がそう言うと、彼は何も言わず頷いてきた。


「まず、イアン先生を指揮官にした件だが、現状の指揮官不足というのがある。今まともに軍を動かせるのは、俺、ウォル、シャロの3人だけだ。カレドとトリスタンにも任せる事はあるが、まだまだ経験が足りない」

「だからイアンを指揮官として育てるためだと?」

「あぁ、そうだ。そして、今日の結果についてだが。俺はある程度必要な犠牲だったと思っている」


 俺の『必要な犠牲』という言葉にウォルは眉をひそめた。

 まぁ、兵士思いのウォルとしては、駒と考えているような事を言われては怒りたくもなるのだろう。

 俺は、あえてそんな彼の思いを無視して話を進めた。


「今回の事で、敵はこちらがいつでも回り込めると頭の片隅に思うだろう。そうなったら、後は簡単だ。敵は全兵力を外に出せない。いつ後ろを襲われるか分からないから、後詰を作る必要が出る」

「……そうなれば数的不利が解消されると? 敵はそこまで馬鹿とは思えませんが?」

「完全には解消できないだろうが、多少の改善は見込める。それこそ、1万対5千が、8千対5千くらいにはなる。2倍が1.5倍くらいに変わる可能性があると考えたら少しは楽になるだろ?」

「いや、1.5倍くらいって大雑把な……。ただ、それだけでは2千もの兵を失くした理由にはなりません」


 確かにそうだ。

 ウォルの言う通り、2千という兵は全体の4割とこちらにとってかなり大きい。

 だが、それ以上に相手に強いる事ができるメリットがもう一つあるのだ。


「確かに犠牲は大きい。だが、それ以上にさっき言った以上に相手は一丸となってこちらに向かってくる。 今日の様に予備兵力全てを出し切って左右からの伏兵などはもうない」

「言い切る理由はあるのですか?」

「もちろんある。一つは相手にはこちらの被害が見えていないという点だ。これは後ろにイアン先生の部隊が来たのを見るや否や逃げ出したので、死者の正確な数が分からないからだ」


 死者の数がある程度把握できなければ、相手もこちらがあとどれくらい残っているか分からない。

 もちろん、こちらもあまり正確な数字を伝えてしまうと兵たちが動揺するので、指揮官のみが正確な情報を知っている。


「もう一つは、伏兵の意味が無いと感じたことだ。相手はこれ以上ない状況下で伏兵による奇襲を行った。だが結果はどうだ? 俺達は耐え、相手は後ろを取られて必死に逃げ出した。この事で相手には伏兵は無意味かもしれないと感じているはずだ」

「た、確かにそうかもしれませんが、そうなると、明日は正面切っての戦いになると?」

「恐らくなる。そして、正面切っての戦いになればこちらは用意した策が使えるから打って出る必要はない」


 それから俺達は、明日の作戦を練った。




 翌日、天気はこの上ないくらいの快晴となった。

 後にゲルト高原の戦いと言われるこの戦いの、決着がつこうとしていた。


次回更新予定は8月5日予定です。


今後もご後援よろしくお願いいたします。

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