表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/213

3-13

ロンドマリー軍 イアン


 敵を追いかけて追いかけて追いかけ続けて、道に迷ってしまった。

 まずい、ここは一体どこだろう?

 確かディークニクトからもらった地図では、このまま山に向かえば良かったのだが。

 私の目の前にあるのは、どう考えても崖だ。

 

「……あの、イアン様? もしや迷われたのでは?」


 周囲の敵を掃討し終わって、戻ってきた兵の一人が声をかけてきた。

 恐らく、私が地図と周囲をしきりに見ていたのでそう思ったのだろう。


「う……うむ。どうやら迷ってしまったようです。誰か周辺の地理に明るいものはいませんか?」

「それなら私が」


 そう言って前に出てきたのは、しっかりとした体躯の男だった。

 なんでも、この辺りで狩りをしている猟師だという。

 彼に地図を見せると、周囲の状況と照らし合わせて左方向を指差した。


「ここから数キロ進めば、この地図の地点に移動します。ただ、森の中なので周囲に気をつけながら進まねば、また道に迷ってしまいます」

「では、君に案内をお願いしたいが、どうかな?」

「分かりました。ここから先導させて頂きます」


 そう言って彼は、獣道をかきわけて進んでいくのだった。




ロンドマリー軍 ウォルクリフ


 右翼が敵を追いかけて数時間。

 ディークニクトの話では、そろそろ敵中央軍の背面に奇襲をしかけているはずなのだが、一向に来る気配がない。


「イアンは、何をしているのだ? もうとっくに敵の退路を断ってないといけないはずだろうに……」


 だが、私がいくら慌てようと、敵が待ってくれるわけはない。

 こちらと距離を取っていた敵が、もう何度目か分からない攻勢に出た。

 先ほどまでと同じ、魚鱗陣からの中央一点突破の構えを見せる。


「敵の動きに合わせろ! こちらは左右を展開し半包囲だ!」


 私の命令が届くや否や、敵を囲むように半包囲陣形を取り始める

 敵の先頭に対して、矢と槍を叩き込もうとしたその時。

 敵の後方部隊が突如、左右に展開し、こちらの両翼に襲い掛かった。


「て、敵の陣形が変わりました! このままでは両翼が潰されます!」

「左右両翼は、すぐさま後退! 中央突出して左右の間に入り込み防御を厚くしろ!」


 敵の陣形が急速に変わった事で、こちらの対応は完全に後手に回ってしまった。

 必死に左右両翼を戻しているが、間に合わない。

 ほぼ無抵抗なまま、両翼は敵の攻撃を受け半崩壊した。

 そして、こちらの中央が両翼の間に入ると、敵はピタリと攻勢を止めるのだった。


「て、敵攻勢が止まりました」

「……厄介だな、こちらの綻びを突いては退き。再編してはまた出てくる」


 このままでは、ほぼ確実に我々の受ける被害が多すぎる。

 そして、それは中央軍でも同じだった。

 ディーが上手くさばいてはいるが、それでもいつもの前線ではなく、部隊後方からの督励だ。

 どうやってもいつもの様な指揮ができないでいる。


「最悪イアンの部隊を切りすて……」


 私は、つい口をついて出かけた言葉を飲み込んだ。

 恐らくディーが承認しないし、兵たちの不満がイアン一人に向いてしまいかねないからだ。

 こんな時に仲違いなんてしていられない。

 ただ、イアンには早く戻ってきてもらわないと、こちらが全滅してしまいかねない。




第一王子軍 リオール


 左翼を失い、浮足立っていた軍の再編に何とか成功した。

 ただ問題は、正面の敵である。

 こちらが攻勢を見せようとしたら、守備的に。

 守勢を見せると、攻勢に転じてきて厄介極まりない。


「敵軍の状況を報せ! どんな些細な事でもだ!」


 命令を飛ばしながらも、自分の目でも周囲を見回す。

 左翼が崩壊し、右翼と中央軍が残った。

 右翼はワーカーに任せてあるが、流石に上手く動かして効果的に相手に出血を強いている。

 対して中央は、恐らく敵総大将であるディークニクトが居るのだろう。

 士気も高く、中々崩れない。

 ただ、後方から指揮をするタイプではないのだろう。

 こちらの動きに対して、一歩遅れる場面がある。

 それでも一瞬なので、こちらも決め手に欠けている状態だ。

 

「敵軍の動きが止まりました!」


 私が考え事をしていると、前線を見張っていた兵から声が上がる。


「予備隊前へ! 左右両翼は敵の動きを抑えるために側面に回れ! 前線に居た兵は交代後休息!」


 命令を下すと、同時に軍がまた動き出す。

 こちらの中央が下がろうとした瞬間、敵も前に出る構えを見せる。

 だが、両翼が側面に回り込もうとした瞬間、敵も動きを断念するのだった。


「前後の入れ替え完了です! 敵は両翼の動きを気にして動けていません!」

「よし! 両翼を徐々に戻せ! それと同時に中央も少しずつ前進だ!」


 数にものを言わせた戦い方で、相手を圧してはいる。

 後はこのままジワジワと……。


「敵右翼部隊が後方に出現! 退路を断たれます!」

「なに!? このタイミングできたか! 全軍反転! 後方の敵のど真ん中を突っ切るぞ! 急ぎ陣地に逃げ込め!」


 号令と共に、部隊が一つとなり後背に出現した敵部隊へと襲い掛かる。

 だが、正面に居た部隊もジッと指を咥えて見ていてはくれない。

 こちらが急ぎ反転したのを見た瞬間、攻勢に出たのだ。


「敵中央軍が攻勢に出ました! 後方の兵が食い破られます!」

「後ろにかまうな! 敵右翼を突破することだけを考えろ! 戦闘は必要最低限にして走れ!」


 できるだけの声を張り上げ、味方を鼓舞しながら敵部隊のど真ん中を突っ切った。

 この日の戦いで、左翼の部隊がほぼ半壊、右翼中央と合わせると、合計4千人以上が死亡もしくは行方不明となってしまったのだった。


次回更新予定は8月2日です。

もしかすると、都合で3日になるかもしれません。ご了承ください。


今後もご後援よろしくお願いいたします。m(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ