3-12
少し短い話が連続します。
ロンドマリー軍左翼 ウォルクリフ
さて、まずいことになった。
敵の右翼を抑えているのだが、中央がこちらの右翼の助けに入ってしまった。
要するに、孤立無援で敵右翼と中央軍を抑えなければならない。
「ウォルクリフ様! 敵右翼がなおも前進を止めません! 側面も敵中央軍が迫っています!」
「陣形を方陣にする! 側面は敵中央軍に向け! 敵左翼には5列割け! 中央に位置する予備兵は3部隊を切り離して、敵左翼の側面を脅かせ! ただし、敵が逃げても追わずに戻れ!」
「はっ!」
できる限りの命令は発した。
後は、各所で兵の奮闘に期待するしかないが、正直辛いだろう。
徐々に後退しながらの戦いだ。
どうしても被害が出る。
許容範囲で済めばいいが、恐らく潰走という事も最悪あり得る。
「各所に居る部下に伝達! 必ず救援は来る! 決して諦めるな!」
これで、ほんの少しでも持ちこたえてくれればいいのだが。
そう思いながらも敵の攻撃を凌いでいると、私の元にとんでもない報告が入ってきた。
「き、急報! 我が軍の右翼が敵左翼に突っ込んでいきます!」
「な、なに!? 右翼は何を考えているんだ!? 中央軍の動きはどうなっている!?」
「中央軍は、右翼突出に合わせて敵中央軍の側面を攻撃し始めました!」
さて、面倒な事になったぞ。
なにがあったのか分からないが、右翼のイアンが急に突出したらしい。
確かに右翼側を見ると、敵左翼を追いかけている。
おかげで中央軍が戻っては来たが、未だに1.5倍ほどの敵を相手にしなければならない。
ただ、敵中央軍を抑えてくれるのであれば、こちらとしては敵右翼の側面を狙う事もできる。
「敵中央軍に対している側面は、徐々に中央軍に道を譲れ! 予備になった者から小休止、その後すぐに敵右翼側面に展開している部隊に合流せよ!」
少し流動的だが、致し方ない。
ただ、こちらが守備一辺倒から一転して反撃に出始めたことで、動揺が広がっているのが分かる。
「敵右翼、後退! 追撃しますか!?」
「現状維持! 追撃はするな! 敵が引いたなら弓兵で応戦! 引き際に出血を強いれ!」
これで、少しではあるが、一息がつける。
後は、中央軍と右翼の動き次第だ。
ロンドマリー軍 イアン
敵と交戦を開始して少しした頃、いきなり側面を叩かれてしまった。
突然の奇襲に驚いてしまった我が軍は、一時崩壊の危機に瀕した。
「敵伏兵が猛攻をしかけてきます! 我が軍の左翼も同様のようです!」
「敵正面軍も呼応してこちらに向かって進軍開始!」
「中央軍から伝令! 側面を叩くからそれまで持たせろ! 以上です!」
敵がこちらに向かってきている。
それも、どうやら両翼同時に攻勢を仕掛けられている。
この状況で、ディークニクトは持たせろという。
「……よし、敵中央軍との距離は?」
「約100m! 密集隊形ですので、足は遅いです!」
よし、敵中央軍は放置しよう。
「全軍に告ぐ! 一旦後退! 無様でも良いから引け!」
私がそう命じると、右翼全軍が徐々に後退を始めた。
戦列は少し乱れているが、まぁ、私が命令したので仕方ない。
そして、案の定敵左翼はこちらに対して追撃の構えを見せた。
まだだ、まだ相手を引き付けないと。
もうすぐ中央軍の援軍が来る。
中央軍との間で連携して半包囲の動きを見せれば、必ず敵は退く。
その瞬間を待たねば。
私が敵を注視しながら下がっていると、伝令が息を切らせて走りこんできた。
「中央軍が敵側面に展開! こちらに対する注意が逸れました!」
「今です! 全軍一つとなり、敵左翼を食い破る! 続け!」
一気呵成とはこの事か。
それまで及び腰で逃げていた右翼軍は、私が飛び出すのと同時に息を吹き返し、敵左翼に猛然と攻撃を仕掛けた。
「敵将を殺せ! 手の届く範囲の敵を殺せ! 我らの意地を見せるぞ!」
副官が呼応して号令を下すと、敵はこちらの勢いを恐れて散り散りになって逃げ始めた。
このまま突出すべきか、それとも追撃を続けるべきか。
一瞬、私は迷った。
だが、ここで敵を野放しにして再建されては意味が無い。
そう考え、追撃を続行するのだった。
ロンドマリー軍 ディークニクト
こちらの右翼が、敵左翼を圧殺した。
さらに、完全に散り散りになって逃げている敵の追撃も始めている。
止めるかどうか迷ったが、今回は命令を少しだけ渡して追撃に走ってもらう事にした。
ここで数を減らさないと、圧倒的不利な状況を覆せない。
「こちらの損害はどれくらいだ!?」
「我が軍の損害は、100名弱です! 早めの後退が功を奏した形になっております!」
「それは大変喜ばしい! 全軍小休止の後、すぐさま敵中央軍の側面に向かう! 今度はこちらから圧力をかけてやれ!」
俺が命令するのと同時に、自軍が動き始めた。
ただ、敵もこちらの動きに呼応して正面をこちらに合わせてくる。
「そのまま敵の正面をこちらに向けさせろ! できる限り左翼を援護するんだ!」
左翼が敵右翼を抑え、中央で両軍が競り合う状況ができた。
最初の崩壊の危機から考えると、かなり改善はしたが、まだまだ予断を許さない。
だが、イアン先生が上手くやってくれれば、状況は改善するはずだ。
次回更新予定は7月31日です。
今後もご後援よろしくお願いいたします。




