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3-11

ロンドマリー軍 ディークニクト


 翌朝、朝食を両軍ともに済ませて向かい合った。

 戦力的には五分に見えるが、相手の戦力はこちらの倍以上。

 昨日少し減らしたが、恐らく物の数ではないだろう。

 ただ、全体の感じからすると相手の予備軍がおかしい気がする。

 何がと言われると答えられないが。

 俺がそんな事を思っていると、左翼を任せていたウォルが駆け寄ってきた。


「ディー、敵軍の後ろがどうもおかしい気がしますが」

「ウォルもそう思うか。だが確証がないんだよな」


 俺がそう言うと、ウォルも頷いた。

 確かに敵の動きは密集隊形になっており、様子も昨日よりも気迫がみなぎっている。

 だが、どこか予備軍の動きがおかしいのだ。

 

「ウォル、確かに何かありそうだが、あまり気にしても仕方ない。相手は今回同数で出来てくれている。できる限り有利に立ち回れるようにしよう」

「では、相手を蹴散らした場合は追撃も?」

「そうだな、多少のリスクは拾う覚悟で突っ込もう」


 俺がそう言うと、ウォルは頷いてから部隊へと戻っていった。

 ただ、リスクを拾うだけの価値があるだろうか。

 もしかすると、こちらの罠に気が付いて対抗策を用意しているのでは。

 いや、それ以外にも考えられる可能性は……。

 俺が考え事をしている間にも、全軍は進み、敵軍正面に陣取った。

 それと同時に、弓兵は矢を番え、剣盾兵は盾を頭上に掲げる。

 相手は、がっちり隙間なく盾を並べ、こちらに向かって足並みをそろえてきた。


「密集隊形が面倒だな。弓兵! 一斉射を行った後にエルフの射手と変われ! 敵の隙間に穴を空けるぞ!」


 俺が命令すると、弓兵が一斉に構える。

 一糸乱れぬその様を見て、一言「放て!」と号すると同時に、無数の風切り音が敵に向かって飛び出した。


「敵軍……、目に見える被害はありません!」

「エルフの弓兵構え! 奴らの隙間に鏃を通してやれ!」


 観測手の悲鳴など聞いていられない。

 すぐさまエルフの弓兵に指示を飛ばし、構えさせる。


「良いか、よく狙え! 敵にほころびを作らせればいいのだ! 他の弓兵は矢を番えて待機! エルフが作った穴を広げる事を意識しろ! 放て!」


 号令一下、先ほどよりも少ない風切り音がこだまする。

 だが、効果はてきめんだった。

 敵のあちこちで盾を取り落とす者が続出したのだ。


「すぐさま次だ! 放てぇ!」


 弓兵たちは、精確に空いた穴へと矢を射かけた。

 そして、空いた穴は徐々に広がりを見せ始める。

 あと少し敵を削れば……。

 そう思った矢先、突然両側面から悲鳴が聞こえ、喊声が上がった。


「全軍突撃! 敵の側面を食い破れ!」

「うぉぉぉぉぉぉぉ!」


 一瞬俺は、何が起こったのか分からなくなった。

 そして、次の瞬間。

 敵の罠に嵌っていた事に気づいたのだ。


「報告! 両翼が敵軍に奇襲されています! 至急援軍を!」

「くっ! 敵の狙いはこれか!」


 俺が慌てて軍を動かそうとすると、それまで足を止めていた正面の敵がジワリと動き始めた。


「報告! 正面の敵が再度動き始めました! 我が軍は三方から挟まれています!」

「敵将の位置は掴めるか!?」

「いえ! 敵将は……、どこにも見当たりません!」


 見当たらないだと?

 後方で指揮をとっても居ないだと?

 そんな軍があってたまるか!


「全軍に告ぐ! 被害を最小限に抑える為、後退を始める! 左右両翼を徐々に中央に寄せ、中央軍は徐々に後退せよ! 中央軍は、左右両翼が接したのと同時に部隊を二つに分け、左右両翼を狙う! 伝令急げ!」

「はっ!」


 命令を下したのと同時に、左右両翼へと伝令が走る。

 そして、同時に俺は中央軍を少しずつ後ろへと下げるのだった。


「いいか! 射手全員は任意に敵軍に向けて威嚇射撃を行え! 少しでも相手の足を鈍らせて、左右両軍を助けるんだ!」


 威嚇射撃と言えば聞こえはいいが、その実は単なる子供騙しだ。

 一斉に放つから矢は効果を増し、相手に被害を強いる事ができる。

 だが、散発的に放つ矢はほとんど効果が無い。

 なぜなら、人の目で追えるからだ。

 矢が怖いのは、避けれない距離、場所で直射で放たれることだ。

 そして、次に怖いのが圧倒的な量で降ってくる時だ。

 これは、一種の飽和攻撃というやつで、防御力を上回る量を叩き込む事で被害を出す。

 だが、これも一斉に放つから意味があるのであって、各個で放っては意味が無いのだ。

 その辺りは、敵も理解しているのだろう。

 少し足は鈍るものの、その影響はごく微少と言って過言ではない。


「とにかく両翼の脱出を中央軍は援護する為にも、全軍微速後退!」


 ここで焦って速度を上げれば、両翼の間に敵中央軍が入り込んで各個撃破される。

 それだけは阻止せねばならない。

 左右はそれぞれ奮戦しているが、正直どこまで持つか分からない。


「左翼のウォルクリフ様が迫っております!」

「右翼のイアン様、苦戦! 徐々に軍が崩れております!」


 左翼は流石ウォルという所か、何とかこちらは持ちそうだ。

 対して右翼がまずい。

 軍の指揮がほぼ初めてのイアン先生では、この状況は荷が重い。


「中央軍に伝達! 後方部隊を再編し、右翼に来ている敵側面を叩け! ただし、右翼が引くのと歩調を合わせて引いてこい! 左翼に伝令! 右翼を助けるまで粘れ!」

「はっ!」


 現状できる限りの指示を出したが、戦場は混沌としていた。


次回更新予定は7月29日です


今後もご後援よろしくお願いいたします。

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