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少し短いです。
ロンドマリー ディークニクト
最長老の葬儀を終わらせた俺は、輿に乗ってロンドマリーに帰ってきた。
帰ってきたと言っても、エルフの主力はキングスレー、ベルナンドに分散配置して治安維持をさせている。
そう言ったこともあって、現在ロンドマリーに居るのは俺とイアン先生とウォルだけだ。
ちなみに現在の俺は、1か月は安静にしておけと言われ、包帯グルグル巻きの状態で輿に乗っている。
まぁ乗っていると言っても、背もたれをつけ、そこに寄りかかりながら顔だけは見える様にしているのが現状だが。
さて、そんなどうでも良いことは置いといて、イアン先生の事だ。
彼の事情を聞いていると、どうやら妻子を人質に取られていたらしく、否応なしに従わされていたようだった。
事実、反旗を翻した長老を処刑した後で氏族の者数名がイアン先生の妻子を返しにきていた。
そんな事情もあり仕方なく戦っていた彼だが、今回の件で俺の軍に参戦することとなった。
ちなみに、イアン先生の負傷は左腕の強度の打撲だけで、骨は一切折れていない。
その為、彼は全治3週間程度と言われ2週間目にはほぼ完全復活していた。
あれだけ鉄鎖を思いっきり打ち込んだのに、一体どういう体の構造をしているのかと嫌になる。
「さて、ディークニクト。このままだと敵が攻めてくると思うのですが?」
「攻めてくるでしょうね、イアン先生」
「な、何を呑気に! 我が軍は精々7千の兵しか居らんのですよ! それに大半が歩兵です。決戦になっては機動力が足りず、後手に回ります」
俺とイアン先生が戦況を分析していると、ウォルが絶叫した。
まぁ、相手は正規の軍を擁した第一王子軍。
こちらは非正規で雇っている私兵というだけでも練度の差が出るのに、相手は約3万。
対してこちらは精々7千とかなり数的にも不利なのだ。
そんな事情もあるので、俺はウォルに今後の対策を話し始めた。
「現在の状況ではこちらが数的に確実に不利だ。その点を考えても騎兵は確実に必要となるので、先日報告が入った時点でエルフの里から早馬を出している。数日中には騎兵隊だけでも到着する予定だ」
「しかし、いくら騎兵があっても場所が無いですね。どこで戦うつもりですか?」
イアン先生からの疑問を受けて、俺は説明を続けた。
「確かに、このまま城に籠るというのも手なのですが、残念ながら現在収穫期ですので相手に徴発されかねません。みすみす相手の手に食糧を渡してしまうくらいならこちらで頂くのが一番でしょう。そうなると、決戦場は3か所です」
俺は地図の3か所に駒を置いた。
一か所目は山からの出口、細く緩やかな下りの山道から出て直ぐの場所だ。
二か所目はそこから少し領内に入った高原地帯、広い場所で兵を広げて戦える。
三か所目は更に領内に入った高原地帯の出口付近、左右から急峻な崖が迫っており守りやすい地形だ。
「この3か所の中から一つを選んで陣地化し、敵を阻みます」
「これだと1か所目か3か所目ですな。2か所目の広い場所では数に劣る我が軍は不利ですからな」
「ウォルの言う通り、ここは正直今回の決戦には向かない。なので、ここは省く」
俺はそう言って、真ん中に置いていた駒を取る。
次に、一番最初に置いた山からの出口の駒を指さして話し始める。
「この山からの出口だが、若干の問題がある」
「問題? どう見ても守りやすそうな場所に見えますが?」
「確かに先生の言う通り、守りやすいとは思います。ですが相手の兵力を考えると、支えきれない場所でもあります」
「支えきれない? それはどういうことです?」
「それは、この場所が下り坂の端という点です。相手は数にものを言わせられます。最悪の場合、前列を犠牲に我が陣地を崩しに来る可能性があります」
「坂の勢いは侮れないと?」
首肯して応えると、先生は「なるほど」と頷いた。
そして、三か所目を俺は指さした。
「以上の点から俺は3か所目のここで防衛する予定だ。もちろん細工も周囲に施す予定だ」
「細工ですか?」
「あぁ、細工だ。ただまだここでは言えない。時が来たら言うので、それまで待ってほしい」
「秘密裏に進めるのですね。了解しました」
ウォルはそう言って頷く。
後は、軍編成などだがその点は二人に任せておこう。
こっちは秘密裏に動ける部隊だけを確保できればいい。
「軍の編成に関しては、ウォルと先生に任せる。エルフの里から連れてきた二百名はこちらで秘密工作に使うので、編成からは外しておいてくれ」
それから2週間後、軍の編成などが決定し俺達は、一路高原へと出向いたのだった。
次回更新予定は7月23日です。
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