表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/213

3-7

第一王子領ランダバリー リオール


 過日からの帝国侵攻が一段落し、ようやく所領に戻ることができた。

 行きは3万居た軍勢も、帰りには1万近くにまで減ってしまったのが手痛い。


「ワーカーは居るか! ここしばらくの報告をせよ!」


 私が呼び出すと、すぐに彼はやってきた。

 ただ、手には紙切れ一枚という軽装で。


「報告します。まずオルビス殿下が負けました」

「それは向こうで戦っている最中に聞いた」


 吉報でもあり、敵が油断できない相手でもあるということが分かる凶報でもあった。

 私自身自分を抑えようと思ったが、どうしても不機嫌な物言いになってしまっている。

 しかし、ワーカーはそんな私を気にすることなく報告を続けてきた。


「その戦いの詳細が入ってまいりました。どうやら敵は兵站線を断ち切り、物資を引き上げていたようです。また、弱った所を夜襲で一気に蹴散らしました」

「兵站線か……、確かに大軍だと頭の痛い問題になるな。というかオルビスは護衛をつけていなかったのか?」

「いえ、護衛はつけていたようですが、所領の境目にある細い道で襲われ、みすみす敵に奪わせてしまっていたようです」


 そう言ってワーカーは、地図を広げて場所を指さしてきた。

 確かに狭い印象を受ける場所だ。

 両側から森が迫っている場所で、恐らく馬車二台が行きかうのでやっとだろう事が想像できる。

 

「なるほど、確かにここから両側から襲われれば、ひとたまりもないな。他には?」

「この戦いでオルビス殿下は、旗下の貴族領にて間借り生活を余儀なくされているとか」

「流石にそれは誤報だろう。プライドも高いあいつが、一時的にでも間借りなどしない」


 俺がそう断言すると、ワーカーも頷いて続けた。


「ですが、こちらは誤報ではないと思われます。オルビス殿下がベルナンドを割譲したと報告が入っています」

「ベルナンドを!? あれはあいつの金庫そのものではないか!」

「しかし、こちらはどうやら本当のようで、ベルナンドの街で権勢を振るっていた数名の役人と野盗上がりの商家が潰されています」

「……まさか、奴が手放さねばならないくらい追い詰められているとは」


 この報告は、私に衝撃を与えるのに十分な内容だった。

 あのオルビスが、自分の金庫を明け渡さねばならないほどだったのだ。


「あと、こちらは昨日遅くに届いたので確証はありませんが、ディークニクトが負傷しているとの報告が入ってきました」

「負傷している? 何かあったのか?」

「詳細は不明ですが、キングスレーから護送馬車が出入りし、エルフの里へと向かったのを見たという事と、先日エルフの里の方角からディークニクトが輿に乗ってロンドマリーに入場したという情報がありました」


 エルフの里で何かあったのだろうか? いや、あまり深く考え過ぎては相手の思惑に捉われかねない。

 私は頭を振ってから話を進めた。


「なるほど、とにかくこちらとしては好機の可能性はあるのだな。ロンドマリーの兵力はどれくらいだ?」

「はっ! 正確な数字は分かりませんが、恐らく五千人程度かと思われます。ただ、こちらもキングスレー方面から何度か増強がされておりますので、どうなることか」

「それだと恐らく、半年と待たず一万は超えてくるだろう。そうなったらこちらから手を出すのは容易ではなくなるな」

「はい。現状こちらのそう戦力は3万あります。兵站線を考えても一万五千は動かせます」

「ただ、こちらもネックは兵糧だ。一万五千を1か月も動かすことは難しいだろうな」


 そう、あの忌々しい帝国の侵攻さえなければ、兵糧の問題など起きなかったのだ。

 そう考えると、オルビスは要らない事ばかりをしてくれる。

 

「そちらの兵站の件ですが、一つ方法がございます」


 私が頭を抱えたいのを我慢していると、ワーカーが何か考えがあると言ってきた。

 今のところいい案も無いので、私はワーカーに考えを述べさせると、それは確かにある種の兵站革命と言えることだった。

 ただ、本当にそれが可能なのかどうかというところが問題ではあるが。


「ただ、それにはいくつかの技術的な問題点があるだろう。それはどうする気だ?」

「ご安心を、その点に関しましては既に解決策を試作済みです。こちらを試して頂ければ」


 そう言われて差し出されたのは、瓶に詰められた食糧だった。

 口をワインなどで使うコルクで栓をしており、空けるといい匂いがする。


「しかし、これでは口が狭い気がするが?」

「ご安心ください。基本的に流動的な物をこちらで詰め、野菜などの固形物は持ち運ぶようにします。これで少しでも運ぶ時の量を減らし、大量に運べるようにしております」

「なるほど、というかこれはほぼ完成形と言っていいものだな」

「はい、ですが先ほどのご指摘通り固形物は入りません。肉など力のつく物が運べませんので、今後の改良の余地があるかと」


 そう言って、ワーカーは瓶に蓋をして片づけた。

 その様子を見ながら私は、ふとした疑問を投げかけた。


「今現在の状況で、それ一本は何人分の食料になるんだ?」

「こちらの大きさで大体ですが、10人から15人分ですね。調理の手間があまりないのですが、瓶ですので割れやすいのが問題ですね」


 確かに瓶では割れやすいのは仕方ない。

 今後、割れにくい入れ物の開発を進めさせねばならないな。


「今のところどれくらい用意できている?」

「ざっと、1万人分を1週間ほどの量です」


 ここからだと、ロンドマリー片道分くらいの分量か。


「よし、その瓶を最前線の城へ移送しておけ、また追加で出来る限りの量をつくるんだ。1週間後に出陣をするぞ!」

「はッ!」


 思わぬ所で兵站の改善がなされた。

 さぁ、奴らを倒して名実ともに私が王座についてやろう。


次回更新予定は7月21日です。


今後もご後援よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ