1-5
戦後処理回
エルフの里 ディークニクト
「さて、フルフォードの息子よ。此度の侵攻の理由を話してもらおうか?」
「話すことなど……」
俺の問いかけに躊躇いがちに彼が首を振る。
事ここに至ってもささやかながらも、未だに抵抗を続ける姿は称賛にも値するだろう。
だが、ここで俺ものんびりと尋問ごっこに興じているつもりはない。
俺が手を挙げると、傍に控えていた兵がそっと剣先をクローリーの喉元に突き立てた。
「次、拒否すればどうなるか……。想像力くらいはあるだろう?」
「くっ……、わ、分かりました。話します。話しますので、剣先を……」
その一言を聞いた俺が、控えていた兵に目配せをすると、当てていた剣先を鞘へと戻した。
「では、話してもらおうか」
俺がそう問いかけると、少しばかり彼は躊躇いながらも話し始めた。
「ご存知かと思いますが、我がフルフォード家は、昔からエルフとの取引で生計をたてていた商人でした。そんな我らは、基本的に王家に対しては誰にも味方せず、誰にも敵対しないという方針で動いており、時の王家に『エルフの涙』を献上しておりました」
うん、その辺は俺も知っている。
確か初代フルフォードが俺達の爺さんと契約、その時の契約内容が涙と穀物の交換だった。
エルフは元々が狩猟民族という事もあり、あまり耕作が得意ではない。
なら一層のこと、交換で補えば良いという判断に至ったと聞いている。
「そして、今回また王位継承の政争が始まったのですが、これまでは現任の国王が監視をして進めていたのですが、今回は国王がご病気で満足に監視できていないのです……」
「監視ができてないと何か不具合があるのか?」
「不具合なんてものではありません! 今この国は、2つの勢力が互いに睨みあい、勢力争いを激化させているんです! おかげで、私の様な商人貴族は……」
なるほど、相当切羽詰まった状況なのだろう。
以前までの政争だと、国王がやり過ぎていないか、相手を殺したり支援を無理強いしてないかを見て、候補者の力量を計っていた。
だが今回は、そのブレーキ役である国王が倒れ、監視機能が失われてしまって二人の王子、もしくは担ぎ上げている支援者たちが暴走を始めたのだろう。
そうなると、かなり危ない事態に陥っているな。
「背後の状況は分かった。肝心の我らへの侵攻理由は?」
「脅されていたのです……」
「なっ! 何故ご相談くださらなかったのです!?」
クローリーの一言にウォルがいきり立った。
宿将と言って差し支えない彼に対しても一言の相談も無かったのだろう。
「ウォル、怒るのは後にしてくれ。……で、脅してきた相手は?」
「両勢力ともです。我が領を味方に引き入れるという事は、王を称するに値する、と」
「目的は『エルフの涙』だけだったと?」
俺の問いかけに彼は小さくうなずいた。
両勢力に同時に迫られたクローリーは恐らく苦悩しただろう。
どうすれば両方に対して距離をとって、中立でいられるか。
どうすれば、この難局を最小犠牲で乗り越えられるか、と。
だが、一点おかしな点もある。
「でだ、状況・理由ともに分かったが、一点分からない点がある。なぜシャロミー(銀髪の女)を差し出せと言ってきたんだ? あれは完全に今回の件と関係ない気がするが?」
「…………」
あ、目をそらしやがった。
こいつ、あわよくば自分の欲望も満たそうとしやがったな。
俺がジッと抗議の視線を彼に送っていると、ウォルが弁明を始めた。
「……クローリー様は、昔から銀髪の女性が好きでして、あ、あと肉付きの良い体の女性も……その為にあのような事を! 本当に申し訳ない!」
「ちょ! ウォルクリフ! お、お前は何を言ってるんだ!? わわ私が何を……」
「まぁ、シャロミーは美人だし、銀髪だし、出る所出て、引っ込むところ引っ込んでいる子だからな……」
「ちょ、そんな可哀そうな子を見る目で見ないでください……」
「あわよくばって思った?」
俺がそう問いかけると、クローリーは躊躇いながらも頷いた。
まぁ俺も親友であるアーネットの妹でなければ惚れていただろう。
「まぁ、ふざけるのはこれくらいにして、今後の事だが次の条件を飲んでもらう」
俺が提示した条件は以下の通りだ。
1、これまで下げていた麦の差分を引き渡すこと。
2、今後はエルフの代表者を常駐させ、その者の指示に従うこと。
3、軍権及び、外交権はエルフが握るものとする。
4、領主として表に立つのはフルフォード家の者とする。
5、戦時に使った矢の補充はフルフォード家の財で補填すること。
6、フルフォード家の長男もしくは次期当主候補は、エルフの里に魔術留学させること。
「……外交権もなしですか?」
「当たり前だ。君は敗者、私は勝者だ。敗者は勝者の言う事をきくものだろう?」
「うぅ……」
「クローリー様、親族全員磔よりはマシですぞ。それに悪いようにはされますまい」
「ウォルクリフ、どうしてそう言い切れる?」
「それは、表に立つのがフルフォード家だからですよ」
ウォルがそう言い切ったが、クローリーはよく分かっていないようだ。
確かに人質は取っているが、表に彼らを出す以上、彼らをぞんざいに扱えない。
彼らは謂わば、外交における玄関なのだ。
彼らがしっかりとした格好をしないと、不審がられてしまう。
「まぁ、ウォルの言う通りだ。基本的な事には干渉するが、何も君たちの生活基盤全てを奪う訳ではない。我らエルフは基本的にこの森に居るのだからな」
「そ、そういうことでしたら……」
その後、お互いに約定を確認し締結した。
締結後にシャロミーにクローリーがアタックしたが、まぁ結果は目に見えていたとおりだったことは、また別の話だ。
次回投稿は5月16日を予定。
今後もご後援よろしくお願いします。