表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/213

3-1

第三部開始です。

キングスレー ディークニクト


 エルフの里から急使が来た、という情報を受けて俺は後事を託す人選をしてベルナンドを去った。

 今回は、エイラとクリスティーの二人に商人の掌握を頼み、カレドとトリスタンの二人に軍事を任せた。

 内政については、向こうで何人か捕らえられていた内務官を任命して、彼らの補佐に当たらせている。

 恐らくそれでどうにかなると思うのだが。


「……急使か、何だと思う? ディー」

「十中八九、こちらに首輪をつけたいと思った、長老たちの意向だろうね」


 アーネットが珍しく心配そうな顔をしながら訪ねてきたので、俺は断言した。

 まぁ今襲うという選択肢はないとは言い切れないが、そんな無茶をするとは思えないのだ。

 エルフの森は人が少ない間は『迷いの霧』という魔法がかけられている。

 これは、個人にしろ、団体にしろ方向感覚を狂わせて同じところをグルグルと回るように仕向ける魔法だ。

 この魔法が張られている限り、エルフの里は守られる。

 だから、『呼び出し状』である以上、里の長老からのちょっかいでしかないと言えるのだ。


「なおのこと面倒ではないか? 長老たちは拡大路線を望んではいなかったから」

「確かにアーネットの言うように拡大路線は望んでいなかった。だが、現実として子爵が攻めてきたからには致し方あるまい? むしろそれを傍観しろ言うのであれば、最悪排除せねばならない」

「過激な事を……。ディー、頼むからそうならない様にしてくれ。お前は頭良いから何か良い案があるだろう?」


 アーネットをここまで心配させるのにも理由がある。

 長老たちは、意外と強硬手段も辞さない奴らなのだ。

 特に、自分たちがコントロールできないと判断した里長は、排除されることが多い。

 この場合の排除は、首と胴が物理的に別れるという意味だ。

 

「とりあえず、心配ならこれを託されてくれ」


 俺は心配そうにしているアーネットに四つ折りにした紙を渡した。


「これは?」

「最悪の場合の秘策が書かれている。ただし、これを開けるのは最悪の場合を考えた時だけだ。まだ今はその時じゃない」


 そう言って、アーネットに紙を握らせた。

 これは、いわば保険という奴だが、できる事なら使いたくない保険なのだ。

 特に、アーネットたちにこれをさせるのは、あまりに心苦しい。


「あと、ビリー!」


 俺が叫ぶと、サッとフードを被った狐人族の男が現れた。

 彼は、エイラがもしもの時の為にと付けた護衛だ。


「お前にはこれを渡しておく。俺の後をつけて来る時に、エルフの森へと差し掛かったらこれに書かれている方法をとって迷いの霧を晴らせ」

「……よろしいのですか? これを私に渡しても」


 彼は暗に自分がもしかしたら外部に漏らすかもしれないぞ、と試してきた。

 もちろんその危険性もあるだろうが、それ以上に俺は、彼を信じているのだ。


「それができる程、器用な奴じゃないだろう? お前がエイラを裏切るなんてことは無いよ。エイラもそうだ。彼女が俺を裏切るという事も無いだろう。俺が死にでもしない限りな」

「……失礼しました。確かにお預かりいたします」


 彼はそう言うと、サッと姿をくらませた。

 相変わらず身のこなしが軽やかな奴だ。

 

「さて、布石は打った。後は使者とご対面か」


 俺はそう呟きながら、扉を開ける。

 入った部屋の先には、白衣を纏ったエルフの男が一人こちらを見ていた。


「ディークニクト。久しぶりですね」


 彼は、こちらに対して何の感情も表さず、無表情に事務的に話しかけてきた。

 彼の名前はイアン。

 里で俺たちの幼年期に教師役をしていた人だ。


「相変わらずですね、イアン先生。今回は長老たちからの呼び出しですか?」


 俺が質問したことに、イアン先生は首を振った。

 そして、厳かにあくまで事務的に用件を伝えてきた。


「いえ、呼び出しなどとぬるいものではありません。ディークニクト、あなたを査問会に参考人として連れて行かせて頂きます。すぐさま着替えを用意し、私と共に出発するのです」

「査問会とは、また御大層な名前で……。分かりました30分ほどで用意してきます」

「いえ、15分で用意しなさい」


 さすがイアン先生。

 俺が時間稼ぎに少し多めに言ったら、見事に多い部分を消してきた。

 

「分かりました。では15分後にこちらに来させていただきます」


 俺はそう言って、部屋を後にした。

 その後は特に何事もなく、準備をして出発することになった。

 イアン先生は馬にまたがり先導を、俺は馬車と言えば格好はつくが、外から鍵のかかる牢屋の中に入っている。

 一応周りが見えない様になっているのだが、それでも通常の馬車とは違う見た目なので目立つ代物だ。

 イアン先生が来たという事は、長老たちは俺を害するつもりは無いらしい。

 イアン先生はよく言えば頑固一徹、悪く言えば偏屈な頑なさがある人だ。

 それに、公明正大を旨として生きている彼が、暗殺という非情手段に出る可能性もほぼない。

 一応周囲の気配は察知できるようにしているが、まぁ襲われたら襲われたでどうとでもなるだろう。


 俺はそう高を括って、馬車の中で眠り始めるのだった。


次回更新予定は7月9日です。


本日は七夕。皆さんはどんな願いをされるでしょうか?

私は言うまでもなく、「作品の書籍化と好調な売れ行き」ですw

まぁ、楽しんでいただける作品を作れるよう頑張るしかないのですがw


今後もご後援よろしくお願いいたします。m(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ