幕間 セレスの決意。
幕間回です。
ロンドマリー
少し時は遡り、ディークニクトたちがキングスレーに入る前。
ここにも一人、自身の困難な状況に立ち向かうものが居た。
彼女の名はセレス。
エルドール王国の第三王女である。
彼女はこれまでの間、積極的に二人の王子の間を行き来し、自分の立場を保つための政治工作を行っていた。
だが、一人の人物がフルフォード子爵領を乗っ取ったという話を聞いて本拠地ロンドマリーに突撃したのである。
もちろん、彼女としても何も考えが無かったわけではない。
最初は、子爵領をフルフォード家に返させれば、恩を感じた子爵が自身の後ろ盾になると思っていた。
ただ、実際に子爵領を訪れ、エルフの里長であるディークニクトを見て彼女の考えに一つの変化が出たのだ。
(このまま自分の身を他の王子に守ってもらうだけではダメ。自分で勢力をある程度築いて守らせないと)
この心境の変化により、彼女は行動を開始するのだった。
ロンドマリー セレス
どうやら、第二王子であるオルビス兄様は負けてしまったようね。
まぁ、あれだけ迂遠に思える策をいくつも用意されていたら、負けるのも理解できるわ。
それに、情報網もかなり広範囲に派遣しているようだったし……。
さて、今後の事を考えねばならないわね。
そこは、キールが帰ってから相談していくとして。
シャロともお別れの挨拶を済ませないとね。
あのキールをして、「できる方の一人」と謂わしめた子だから、仲良くしておいて損はないはず。
私はそんなことを考えながら、シャロの元へと駆けて行った。
私が部屋に着くと、丁度荷物の整理をしている所だった。
「シャロ、ディークニクト様の元へ行ってしまうの?」
不意に私から声をかけられて、シャロは振り向いた。
それも飛びっきりの笑顔で。
「えぇ、残念ながらセレスとはもうすぐお別れよ」
「そんな事言って、顔が全然残念そうじゃないじゃない……」
私が憮然とした表情で言うと、シャロは舌を出して「バレましたか」と笑っていた。
最初こそ彼女は仏頂面をしていたが、今では女同士打ち解けている……はず。
自信が無いのは、これまで同年代の友達というものが居なかったから。
私は蝶よ花よと育てられた一人だと思っているし、思おうとしていた。
最後は政治の道具として他国へ嫁いだり、貴族家へ降嫁するのが当たり前だと思っていた。
だから、こんなに話せる友達が居なくなるのは辛い。
「本当にシャロは、ディークニクト様がお好きなのね」
「……うん! そうね、最初は分からなかったけど、本当に好きなんだなって」
「そう、私はそんなシャロが、羨ましいわ」
そう、私に自由恋愛なんて無い。
そうできない立場に居るのだ。
エルドール王国の第三王女という立場に。
少し悲しい気分に浸っていると、不意に柔らかいものが顔に当たった。
そして、頭を撫でられながらシャロが語りかけてきた。
「大丈夫よ、セレスは強いもの。きっと自分の立場を確立して、自分の好きな人と結ばれるようになるわ」
「うん……。私、頑張るわ」
シャロの豊かな胸を堪能しながら、私は確かに癒されていた。
これが、年の功なのかしらなどと不謹慎な事を考えながら。
そして、最初優しかった手が、そんなことを考えていると、何故か力強くなっていくのを感じながら。
2日後、キールがロンドマリーに到着したことで、彼女と別れた。
最後まで私を気遣ってくれながら。
そんな、私たちの様子を見ながら、キールも思うところがあったのだろう。
「まるで姉妹……。いえ、母子ですな」
「貴方それをシャロの前では絶対に言ってはダメよ」
そんな軽口を言いながら、見送り終わった。
その後は、今後の話し合いである。
キールからディークニクトからの伝言があるとのことで聞いた。
「ディークニクト様からは、セレス王女におかれましては、ロンドマリーに居て頂いても構わないとのことでした。その際は私をはじめ、こちらに残留していらっしゃるウォルクリフ殿が御身の守護をされるとのこと。如何なさいますか?」
「そんなの決まってるじゃない。私は、この城を出て王城に帰り、自分の勢力を築くわよ! 爺、のんびりとしている暇なんて無いわ!」
私がそう言うと、キールも満足そうに私の方を見て微笑みかけてきた。
「御身がそう言われるのでしたら、私キールは、全力をもって守護致しましょう」
「えぇ、頼りにさせてもらうわよ」
話がついた私たちは、その日の間に準備を始めるのだった。
次回更新予定は7月7日、七夕を予定しております。
今後もご後援よろしくお願いいたします。




