2-19
本日2話目。2-18が本日の1話目です。
未読の方はお戻りください。
ベルナンド ディークニクト
街を主体とした戦いはほぼ決着がついた。
こちらもそれなりに被害が出たが、軍事行動としては問題なく続けられる。
何よりも勝っているという印象があるので、兵たちは少々の無理なら気力でどうにかしてくれる。
「各隊合流できたみたいだな。後は、あの建物に立て籠もる奴らを四散させれば終わりだ」
俺はそう言いながら、目の前の建物を見上げた。
高さはおよそ10mくらいだろうか。
3階建ての白石で組まれた建物のあちこちにバリケードが設置されて、弓矢で応戦する構えを見せていた。
敗色濃厚なので、かなり悲壮な顔をしているのが遠目からでも分かる。
「さて、ここから先はしんどいな。これまでの敵の様に小分けになって戦ってくれず、むしろ一丸となってくるからな」
「それに、オーガが全く出てこないのも気になります」
「そうね。聞いていた話と状況が違うのはなんだか怖いわね」
確かに、そうなのだ。
既にオーガを出すにしても遅すぎており、今からいくら出しても逆転は難しい。
だからといって、出てきたら出てきたで厄介極まりないのは、言うまでもない。
「兎に角、こっちにとってはありがたいことだ。出てこないなら出てこないで楽をさせてもらおう」
「楽、ですか?」
「相手の状況から考えたら楽そうには見えないが……」
「俺が突っ込んで倒して来たら良いんだな!」
若干一名脳みそまで筋肉な奴が居るが、確かに楽そうな状況には見えないだろう。
だが、俺の立場がこれからものを言うのだ。
俺は、疑問に思っている彼らをよそに、拡声魔法を使って立て籠もる奴らに声をかけた。
「オルトの屋敷に立て籠もっている者たちよ! 君たちの命は私が保証する。君たちは無理矢理従わされたと考えている。もし悔い改め、罰を受けるというのであれば、無体は避けよう!」
こう言われると、人とは不思議なものである。
自分は助かるかもと思ってしまうのだ。
実際に、悲壮感漂っていた彼らの顔から、一瞬希望が見えた。
そう、自分こそは助かる。
自分は、悪くないんだと思い込めるのだ。
「さ、あとは様子見だ。」
俺がそう言って、後ろを振り返るとみんなの視線が少し痛い。
少し戸惑っていると、カレドとトリスタンがみんなを代表してきた。
「いや、かなりあくどい手を打ったなと」
「人のえぐい面を知っているからこその手ですね」
「いやいやいや、労少なく功多しが一番だろ?」
俺が必死にそう反論すると、みな一応頷いてくれたが。
「でも、えぐい手よね」
「あぁ、えぐい」
ちょ、シャロミーはまだしも、アーネットお前まで言うか!?
俺が抗議の視線を送っていると、エイラが目を輝かせて見ている。
「流石はディークニクト殿!」
「おぉ、エイラは分かってくれるか?」
「えぇ、見事なまでに相手の心のやましい部分を抉る策です!」
「え、あ、うん。……ありがとう」
なんか悲しくなってきた。
その後、皆からは「冗談だよ」と言われたが、なんだか目が違うと言ってそうで怖い。
俺達がそんな余裕のやり取りをしていると、敵側の動きがあった。
どうやら敵は、内部分裂を起こして争いを始めたようだ。
「で、ディー。後は眺めているだけで良いのかしら?」
「そうだね。どっちが勝つにしても、俺達が入るのは最後で良い」
勝ったのが降伏派ならどっかで重労働させれば良いだけだし、抗戦派なら攻め滅ぼすだけだ。
しばらく俺達が眺めていると、どうやら抗戦派が勝ったようで、上の窓からこちらを覗き始めた。
「それじゃ、アーネットと俺が先頭で突っ込むぞ。矢除けの魔法を前に展開しておけよ」
「流石にそこまで考え無しに突っ込まんぞ」
「いや、そうなりそうだから怖いんだよ。エルフ部隊は屋上から、指揮はカレドがとれ。歩兵は盾を構えながら突入だ! 行くぞ!」
「おぉぉぉぉ!」
その掛け声と同時に、俺とアーネットが屋敷の中へと突っ込んだ。
一階部分は、既に戦闘でボロボロになっており、生きている者の気配は無かった。
俺達が突入した少し後に、階段付近で敵がバタバタと防御の準備をしている物音がする。
「アーネット、俺達は真っ直ぐ進むぞ! エイラは歩兵を連れて一階の完全制圧を目指せ!」
「おう!」
「はい!」
指示を出したあと、すぐにアーネットと階段を駆け上がる。
踊り場を越えてもうあと半分というところで、敵がバリケードをはって、射撃態勢をとっているのが目に入った。
その瞬間、敵が一斉に矢を放つ。
いくつかの矢は、俺達の後ろに逸れる軌道だが、急所にいくつもの矢が向かってきていた。
良い判断だ、と俺は内心思った。
「だが! 俺達には効かぬ!」
俺達の1メートル手前まで来た瞬間、矢は一気に叩き折られて落ちていく。
一瞬にして、必中の軌道を描いていた矢が落ちたことに敵は唖然とした。
そして、その中の数名が瞬時に剣に持ち替え、俺達に襲い掛かってくる。
狭い階段で俺達を抑えれば、後が詰まって少なくとも拮抗すると考えたのだろう。
そして、位置的に上に立っている有利を活かし、全力で上段から袈裟へと斬りかかってきた。
「死ねぇ!」
裂帛の気合をもって放たれた一撃。
恐らく普通の兵なら一撃で屠られただろう。
そう、普通の兵なら。
「甘い!」
俺の隣に居る筋骨逞しい男は、上段の優位も裂帛の気合も物ともせず、狼牙棒で虫を殺すかのように壁に叩きつけた。
上段から斬りかかってきた男は、その一撃で壁に大穴を開け、肉片へと形を変えた。
そして、俺は袈裟懸けに斬りかかってきた男の剣の横っ腹に剣を合わせて、顔面ごとたたき割ったのだ。
どちらも離れ技と言っていいものだった。
そして、俺達はそこで止まることなく、勢いそのままに突っ込んで敵を一人残さず叩き切ったのだった。
「アーネット行けたか?」
「これくらいならどうという事はないな。骨があったのは、最初の奴くらいだったしな」
そう事も無げに言い放った大男は、鮮血に染めた狼牙棒を肩に担いで上へと走り始めた。
恐らく、オルトが居るとしたら最上段、3階だろう。
そう思って、俺も2階の制圧を兵に任せて駆け上がると、信じられない光景を目にした。
「おいおいおいおい、これ全部オーガかよ」
そう、3階は壁が一切ない部屋にオーガが6体座り込んでいるだけだった。
そして、そのオーガたち座り込んでいる奥に、オルトが居るのが見えたのだ。
「さて、オルトだったか。観念してもらおうか?」
「ち、畜生! なんでだ! なんでこの俺がこんな目に!」
「大人しく従っていれば、こんなことにはならなかっただろうな」
「畜生! オーガさえ、オーガさえしっかりと働いていれば!」
オルトはそう言うと、オーガを蹴り飛ばしたが、びくともしない。
全くもって小者じゃないか。
布陣等を見て、意外と頭の切れるやつなのかと思っていたんだが。
俺がそんなことを思いながら奴に近づくと、急に一体のオーガが動き出した。
「おぉ! やっとか!? やっと動くか!? 殺れ、あいつを殺ってしまえ!」
「グォォォォォォォォォォ!!!!」
動き出したオーガに興奮気味にオルトが叫ぶと、応えるかのようにオーガが耳をつんざく様な咆哮をあげる。
そのオーガの咆哮に応えるように、他のオーガたちも次々と動き始めたのだ。
「おぉ! いけ! 殺ってしまえ!」
オルトはその様子に狂喜乱舞していたが、最後に動いたオーガがおもむろに奴の方へと向かっていったのだ。
「な、なんだ! 何をする! や、やめろぉぉぉぉぉ!」
奴のありったけの叫びも虚しく、オーガの一撃でミンチにへと変わったのだ。
「おいおい、敵の総大将が死んじまったぞ、ディー」
「見りゃ分かる! 兎に角こいつらをどうにかするぞ! こんなの屋敷の外に出したら大惨事だ!」
俺とアーネットは、オーガの振るう棍棒を避けながら必死に応戦していた。
ただ、このままでは正直持たない。
オーガが1体か2体くらいならどうにかなっただろうが、6体も居たのでは手に負えない状況なのだ。
俺達が逃げながら対策を考えていると、2階を制圧していた兵たちが異変に気付いて駆け上がってきた。
「ディークニクト様! ご無事ですか!?」
「来るな! すぐに屋敷から退避しろ!」
「し、しかし!」
「しかしもくそもない! 全滅する気か!」
兵たちには悪いが、正直足手まといでしかないのだ。
図体のでかいオーガを相手に戦うとなると、相当無理をしないといけない。
一瞬のよそ見で、命を落としかねないのだ。
ちなみにアーネットはというと、オーガの棍棒と正面から互角に打ち合っていた。
「良いぞ! もっとだ! 俺と打ち合え! そらそらそら!」
いや、オーガが若干よろけているからアーネットの方がおしている様だ。
あり得ん。
俺は、突っ込みたいのを必死に堪えながらも、周囲を囲み始めたオーガの攻撃を避け続けた。
上から叩きつけてきたら横に避け、横なぎに払ってきたら飛びあがり。
上と横から同時に来たら安全圏へと一気に駆けて、様子を見た。
「全く! しつこい奴らだ! これならどうだ!」
俺は、避けた先に居たオーガの肩へと飛び乗った。
飛び乗られたオーガは、必死になって俺を掴もうと片手を伸ばしてくるが、俺もそう簡単には捕まってやれない。
迫りくる掌を俺が剣で突きさすと、流石に痛かったのか手を引っ込めてきた。
そして、他のオーガたちは俺が肩に乗っているのを見るや、乗っているオーガごと俺を潰そうと棍棒を振り下ろしてきた。
「おっと! 簡単につぶされんよ!」
俺が肩から飛び降りて避けると、勢い余って振り下ろした棍棒が乗っていたオーガの肩を叩き割る。
そして、ほぼ同時に、他の4体も棍棒を叩きつけるた。
「グォォォォォォ!!!!!」
バカでかい叫び声をあげながら、心臓まで達したのか一匹目のオーガが死んだ。
「よし! これで残り5体!」
俺が叫ぶと、先ほどまで打ち合っていたアーネットが、振り下ろされた棍棒を避けざまにオーガの頭を吹き飛ばす。
「よし! これで4体だ!」
そう言って、アーネットは玉の様な汗を流しながらニヤリと笑ってきた。
全く、こいつが居たら負ける気がしない。
だが、オーガたちもアーネットを脅威と捉えたのだろう。
俺に対して、5体がかりだったのが、アーネットに2体で襲い掛かったのだ。
恐らく、2体がかりなら打ち勝てると思ったのだろう。
「アーネット! そっちに2体行ったぞ! いけるか!?」
「よし! 任せとけ!」
何とも頼もしい言葉をこちらに返し、アーネットはオーガに向かって突進した。
こちらもそこまで見たものの、敵の攻撃が来たので集中しなおす。
「ふぅぅぅぅ。段々攻撃のリズムが見えてきた」
どうやらオーガの攻撃は、一撃入れるたびに一拍置いてから攻撃動作に移る癖があるようだ。
恐らく、筋肉か骨かに負担をかけ過ぎない為だろう。
また、オーガの攻撃は、基本的に打ち降ろし、横なぎの二種類で、それ以外は掴みかかるくらいしか無い。
まぁ、3メートル以上もある体躯なので、基本的にそれ以外は必要ないのだろう。
俺は、打ち降ろされる瞬間に、オーガの股の間を抜け、背中に一撃を入れる。
骨を砕く気でいってるのだが、肉すら傷つかないのは、自信を無くしそうになる。
「痛ぇ、どんだけ硬い体してやがるんだ!」
二度三度と続けてみたが、掌以外は、かなり固く、脇、膝、肘も骨が強すぎてとてもではないが、破壊できなかった。
「普通の相手なら既に動けないくらいの一撃入れてるのに!」
「ハハハハ! だから言ってるだろ! 筋肉が足らないと!」
俺が叫ぶと、意外と近くまで来ていたのか、アーネットが応えてきた。
目では見えていないが、音でオーガと打ち合っているのが分かる。
「2体相手に打ち合っているのかよ!?」
俺が声を張ると、アーネットは「既に1体沈んだわ!」と笑いながら答えてきた。
あり得ねぇ。
本当に、あいつエルフじゃなくてオーガの生まれ変わりではないだろうか。
「ディー! その2体くらいは倒してくれよ!」
余裕綽々とはこの事だろう。
俺が内心腹を立てながらも、まだ試してない場所への攻撃を始めた。
手始めにしたのは、弁慶の泣き所。
そう、脛である。
「ここなら、どうだ!」
俺が股の間へ避けざまに、脛に当てると流石に痛かったのか、オーガの顔が苦痛に歪む。
だが、動きを止めるほどではなかったようで、すぐにこちらに反撃をしてきた。
「嘘だろ!? 脛だぞ脛! こいつら弁慶より強いのかよ!」
俺は、愚痴をこぼしながらも次の目標に切り替えた。
次は、手の届く範囲では……、アソコしかない。
ただオーガも、俺が何度も股間を潜り抜けていることに慣れ始めたのか、股の間を狭くし始めたせいで、そこが狙えない。
「さて、どうするか。あまり男としては狙いたくなかったが……、致し方ない!」
意を決した俺は、敵の打ち下ろしを今度は横に避け、そのまま脇の下を抜けて背面へと移動する。
そして、後ろから思いっきり金的目掛けて剣を振り上げた。
ゴン! という鈍い音と同時にオーガの履いていた腰蓑の間から、赤い液体が流れて泡を吹いてオーガが倒れた。
「うぅ……、流石にこの場所は効くか。男としてあまりやりたくはないが、これも戦いだ」
俺はそう呟きなら、最後のオーガの背面に回り、同じく金的を潰した。
俺がやっとの思いでオーガ3体を倒すと、アーネットが最後の3体目の背骨を破壊した。
「ふぅ~、いい汗かけたぜ! ってディーそれは中々えぐい倒し方だな」
汗を拭ってこちらを見たアーネットは、股間を抑えながら顔をしかめた。
その気持ちはわかるが、結構ギリギリだったんだがな。
俺はそんなことを思いながらも、外を見回した。
どうやら兵たちは、一人残らず退避できていたようだ。
屋上で待機していたシャロミーたちの姿も見える。
こうして、俺達のベルナンド制圧戦は勝利で終わることができたのだった。
何とか、デスマーチ終了です。
次回更新予定は7月2日を予定しています。
ただ、ここ最近全く休みを挟んでいないので、もしかすると3日から更新かもしれません。
その後は、いつも通り隔日更新で行きたいと思います。
また、時間についてですが、どうやら昼12時更新の方が読みやすいみたいですので、今後12時に更新できるようにしたいと思います。
今後もご後援よろしくお願いいたします。m(__)m




