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2-18

 一方、カレドとトリスタンの部隊も敵の防衛線を突破すべく戦っていた。

 

「敵がまた逃げます!」

「敵が防衛拠点としていた場所まで動きますよ! 矢の用意を! 放て!」


 カレドの号令と同時に一斉に矢が飛び出す。

 だが、弩の命中率ではあまり当たらず、まばらに敵が倒れるだけであった。

 

「防衛拠点まで走れ! 中にまた決死隊が居るかもしれないから警戒を怠るな!」


 そう、カレドたちが相手にしている敵は、少しずつ後退するのと同時に、決死隊を残していくのだ。

 この決死隊が厄介で、カレドたちの行軍速度は一向に早くならない。


「てめぇら死ねや!」

「また決死隊が出たぞ! 下がれ!」

「複数で当たれ!」


 流石に数回も繰り返されると、兵たちも対応策を学び始める。

 複人の決死隊には、一度引き数的有利を確保して当たろうというのだ。

 だが、相手も馬鹿ばかりではない。

 周囲を囲まれていても、安全に戦える場所から中々出ようとせず、結局バリケードを壊して戦うという戦法を取らざるを得ないのだ。

 そして、毎回そんな戦闘をさせられていたら、行軍速度が落ちるのは目に見えていた。


「カレド、最悪俺が突っ込んで敵をやってもいいんだぞ」


 そんな一進一退の状況が何度も続いた中、トリスタンがカレドに提案を持ちかけた。

 カレドも、一瞬その提案に乗ろうかと思ってしまうが、踏みとどまった。

 あまり早いうちから彼を投入し疲弊させたくなかったのだ。

 いくら彼が武闘派だといっても、アーネットたちの様な超人ではなく、あくまで常識的な範囲の武人であり、超人的な体力もない。

 その事を勘案して彼は、トリスタンの申し出を断った。

 彼を疲弊させるよりも、兵たちに無理を強いる方を今は選んだのだ。

 

 もちろん相手にも焦りはあった。

 何せ、救援が来ないのだ。

 順次投入される脇道の部隊が出てこない事もそうだが、本隊との連絡が一切取れなくなっていることに焦り始めていた。


「伝令はまだ帰ってこないのか!?」

「何度も送ってはいるのですが、上空を敵に占拠されておりますので……」

「くっそ、こんな所いつまでも守れないぞ! 先ほどから敵がどんどんこっちに向かってきている」


 防衛を任されていた男は、焦りを募らせていた。

 何せ、そろそろ通りの合流地点に差し掛かるのだ。

 このままじりじりと後退を続けていれば、そう遠くない未来に本隊に合流してしまう。

 そんな焦りが彼の中で先ほどから駆け巡っているのだ。

 そして、そんな彼に無慈悲な報告も重なってくる。


「こ、これ以上後退できません! もう残骸すら残ってないです! バリケードが築けません!」

「な、に!?」


 そう、ついに彼らは端の方まで来てしまったのだ。

 これまで、街に転がる残骸を集めてはバリケードを作って後退していたのだが、その材料が枯渇したのだ。

 そして、この枯渇は合流地点がもうすぐそこだという証でもあった。


「これ以上の敵に対する遅延行為は不可能だ! 全員突撃準備! 少しでも多くの敵を屠れ!」


 ついに追い詰められた彼は、突撃を下命する。

 これに対して、カレドも敵の動きを察知して対応策を出した。

 

「槍隊前へ! 弩兵は後ろで3段方陣の構え!」


 彼が命令するのと同時に、槍兵が前に陣取り槍衾を形成する。

 ただし、普通の中腰ではなく、槍を持って片膝をつく座り込みに近いスタイルだ。

 そして、この槍兵の低い構えの上から、最下段の弩兵が槍兵の頭の真上で弩を構える。

 中段が中腰の弩兵の上から少し腰を曲げて弩を構え、最上段の弩兵が直立不動の立射姿で構えた。

 

「敵が入るのを待って、弩兵は一斉射をする。その後は剣を持って、順次対応しろ! 気を引き締めていけ! 数は少ないが、決死の兵だ! 怯むなよ!」


 兵たちは固唾を飲んだ。

 刻々と迫りくる敵兵たち。

 ジッと彼らを見ていれば分かる、必死の形相だ。

 少しでも気を抜けば、自分がやられる。

 まさに極限状態。

 敵が更に近づいてくる。

 戦闘集団がもうすぐ槍兵の槍の前まで来るというところで、カレドが号令を下した!


「弩兵! 放て!」


 その号令を聞くや否や、一斉に敵目掛けて矢が飛んでいく。

 まるでスローモーションの様に敵へと飛んでいく矢を目で追いかけつつ、彼らは弩を捨て、剣を構えた。

 一度撃ってから次弾装填までが長い弩では、これ以上戦えないのだ。

 弩を捨てた彼らは、素早く剣を構えた。

 敵の大半は、弩の矢で死んでいる。

 だが、それでも生き残るもの、動けるものが必死の形相で走ってくるのだ。

 体の芯から恐怖が、悪寒が走る。

 あと少しで槍に届くというところで、カレドが次の号令を放った。


「槍隊! 突けぇ!!」


 号令と同時に、石突を地面に突き立て、斜めに構えていた槍を一斉に突き出した。

 この一般的とは言えない槍の運用に、敵は一瞬面食らい咄嗟に避けれない者が続出したのだ。

 それでも少し、ほんの少しだけ生き残った兵が、槍兵に剣を突き立て、穴を開ける。

 しかし、彼の蛮勇もそこで終わりだった。

 穴を開けて出てきたそこには、無数の剣が迫りくるだけだった。


「負傷したものはすぐさま後方へ移せ! 生きているものを優先しろ! 敵は虱潰しろ!」


 最後のカレドの命令により、その場は殺戮の現場と化した。

 武器を持っている者は、遠くから槍で突かれ、武器を落としている者は、剣に突き立てられた。

 そして、辺り一面を大量の血が流れ落ちる。

 この日、午前中の戦いだけで、ベルナンド400人、キングスレー軍100人の犠牲が出た。

 特にベルナンドは、総勢1000にも満たなかったので、ほぼ半数が死亡した計算になるのであった。


今後もご後援よろしくお願いいたします。

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