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2-17

本日3話目。

2-15が本日の1話目です。未読の方はお戻りください。

 屋上の戦いは、エルフの優勢が決定的となった。

 長い射程からの直射と、一瞬にして距離を縮めてくる跳躍力。

 どう考えても、人族である彼らに抗いようなどなかった。


「さて、屋上の敵はほぼ撤退したな」

「あぁ、後はシルバーフォックスに任せて大丈夫だろう。少数とは言え彼らも立派な戦士だからな」


 敵の返り血で真っ赤になったアーネットに、ディークニクトは相槌を打った。

 ここまで快進撃を続けてきたものの、目標であるオーガとまだ一度も出くわしていないのだ。

 その事に、ディークニクトは一抹の不安を抱えていた。

 本来であれば、屋根上の支配権を渡さない様に必死になるべきなのだ。

 なのに、動かない。

 その事が、喉奥に刺さる小骨の様な気持ち悪さを彼に感じさせていた。


「で、今後はどうする? このまま続けようにも見渡す限り居ないぞ」

「そこなんだよ。本来ならもう投入されていておかしくない状況だ。それにもし隠れて移動したとしても、オーガが暴れれば一瞬で分かるはずだ」


 彼らは、オーガが現れない事に若干の焦りを感じていた。

 ただ、この焦りは相手も感じていたものだった。

 

 ディークニクトたちが、屋上の支配権を握る少し前の事である。

 スラムの最奥にあるロードスの本拠地で、トラブルが起こっていた。


「何故だ! オーガどもが一切動かんではないか! 奴はどこに行った!?」

「それが、部屋へと行ったのですが、もぬけの空で……」

「逃げたのか!? あの野郎、畜生! 仕方ない、オーガ抜きで抵抗するぞ!」


 オルトは、動かないオーガに見切りをつけて、部隊の指揮に専念することにしたのだ。

 ただ、この時2つ目の問題が起こった。

 それは、複雑すぎる陣形を組んだばかりに、オルトでは部隊がどこに居るのか把握しきれなかったのだ。

 元々、この分散配置してゲリラの様に戦う方法は、各部隊の統率者が独自に判断して行動するか、広大な盤面を把握できる人物による差配が必要だった。

 だが、このどちらもオルトには無かった。

 その為、屋上の部隊は次々と無為に食い破られ、敵に支配権を奪われてしまう事になったのだ。

 もちろん、ディークニクトがいくら名将としての器があると言っても、こんな事情などそれこそ神でも無ければ分からない。

 その為、彼らも敵の動きが鈍いことに逆に警戒をしてしまい、行軍速度が落ちるという事態になったのだ。


 それでも、ディークニクトは果断だった。

 少ない情報から、できる限りの兵の運用を考え、動かし始めたのだ。


「とりあえず、敵と睨めっこしていても仕方ない。奴らの動きが鈍い間に、こちらで脇道の部隊を掃討しよう。その為に少し無謀だが、部隊を二つに分ける。アーネットは300率いて北側を俺は残りの300を率いて南側から討伐を始める」

「北を制圧したら、徐々に西の方向に向かえば良いんだな?」

「あぁ、そして、お互いが見える範囲に来たら合流しよう。もちろん無茶は無しだ。数の多い敵と遭遇したら、一人を伝令として派遣して迎え撃ちながらもう一部隊を待つ形でいこう」


 ディークニクトがそこまで言うと、アーネットは「分かった」とだけ応えて別行動を開始した。

 この部隊を分けるという判断が結果として、この後の勝敗を左右するのだった。


 彼らが屋上で戦っている頃、地上ではシャロミーの部隊が敵防衛線を突破しようとしていた。


「弩兵! 一斉射! 放て!」


 一斉にトリガーを引く音と同時に、風切り音が鳴り響く。

 少し山なりに曲射された矢は、敵集団が立てこもるバリケードの上を通過して、奥に居る兵たちに命中する。

 そして、弩の発射と同時にシャロミーは歩兵突撃も開始した。


「歩兵前へ! 敵の防衛線を突き崩せ!」


 彼女の号令と同時に、兵たちは一斉に突撃を開始した。

 弩から逃れる為に頭を低くしていた敵は、彼らの突撃に一足遅れて対応を始める。


「これ以上突破させるな! 敵兵を食い止めろ!」


 防衛線を任された者も必死の抵抗を見せた。

 彼らは粘ることで、味方の援軍が来ると踏んでいたし、脇道からの突撃がくるまで我慢すれば良かったのだ。

 だが、いつまで粘っても味方は来ず、脇道から喚声も聞こえてこない。


「味方はどうした!? 俺達の救援に来るはずではなかったか!? 敵の脇腹も全然騒がしくなっていないではないか!」

「本拠地に救援要請を送っているが、全く応答がない! 見捨てられたかもしれん!」

「う、上を見ろ! 真っ赤な鬼の様な奴がこっちを見ているぞ!」


 防衛拠点内は、阿鼻叫喚だった。

 ただでさえ、援軍が来ない中防衛しているのに、敵と思しき影が上空をうろつき始めたのだ。

 これ以上耐えろという方が無理というものだった。


「防衛拠点を放棄するぞ! 逃げろ!」


 この部隊長の判断は、明らかに遅きに失していた。

 ここまで粘ったのであれば、玉砕覚悟で防衛に徹するべきだったのだ。

 だが、所詮は山賊上がり。

 戦闘経験の違いが如実に表れたと言っていいだろう。


「全軍! 進め! 敵は崩れたぞ追い立てるんだ!」


 そして、この好機をシャロミーも見逃さなかった。

 ここ最近の実践を経るまで、散々ディークニクトから座学と訓練とで鍛えられてきてはいない。

 好機と見るや烈火の如く追い立て、敵を入念に屠っていった。


「よし! 防衛拠点周りの敵は逃げたわ! 休息するわよ! 深追いは絶対にしないように!」


 彼女の明瞭簡潔な指示に兵たちも応え、テキパキと近場に居た敵の息の根を止めて回り、小休止の用意を始めた。

 辺り一面、血と脳漿の臭いが充満しているが、それでも興奮冷めやらぬ兵たちにとっては気にもならなかったのだった。


今後もご後援よろしくお願いいたします。

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