2-15
キングスレー ディークニクト
結局あれからカレドと対策を練ったが、これといった策は出なかった。
ただ、無策で突っ込むのもどうかと思うので、一つ次善の策を考えた。
それは、アーネットと俺が屋根上の部隊を率いるというものだ。
そうすることで、敵のオーガ投入ポイントがいち早くわかり、こちらで対処が可能と考えたのだ。
「後は、これだよな」
そう言って俺は、覆いで隠されている物を顎でしゃくって見せた。
これは対オーガ用に武器庫から取り出してきた兵器である。
集中運用が基本となるものだが、まぁどうにかなるだろう。
「そこは、まぁ相手に通じることを祈るしかないですよね」
「なんか博打打ちみたいね」
俺とカレドが若干自嘲気味に笑っていると、横からシャロミーが入ってきた。
彼女の方を見ると、後ろには主だったメンバーが揃っており、指示を待つばかりだった。
「さて、皆、集まってくれたみたいだな。今から部隊編成を伝える」
俺がそう言うと、先ほどまでの緊張感のない空気が一変し、少し張りつめた空気になった。
そんな全員の様子を見回してから、編成を発表し始める。
「まず、第一部隊を率いるのは、シャロミー。第二部隊を率いるのは、カレド。そして第三部隊は、俺が率いる。第一部隊の副将にはエイラを第二部隊にはトリスタンをつける。アーネットは俺と一緒に第三部隊を率いてくれ。第一第二部隊には、現地で使ってもらう予定の兵器もあるので、そのつもりでいてくれ」
俺がそこまで言い切ると、シャロミーが手を挙げた。
「ディーその兵器は今見る事は出来ないの?」
「今から見せていたら、相手に対策を練られてしまいかねない。だから今は見せないよ」
シャロミーは、それ以上は聞くことは無いと頷いて黙った。
他にも質問が無いかどうか聞いてみたが、特に誰からも返事が無かったので行軍開始の命令を下命した。
行軍開始から数日後、特に妨害もなく第一部隊がベルナンドの街の近くに着いたと報告があった。
既に野営の準備を始めており、後は後続の到着を待つだけだという事だった。
そして、それと同時にベルナンドの街の門が解放されているという報告も来た。
「街に引き入れてから戦う、という予定だと言うのは予想していたが、まさか正面の門を開けっぱなしにするとはな」
「えぇ、見た瞬間びっくりしたわ。あいつらいったい何を考えているのかしら」
「水門の方はどうだった?」
「水門は閉じていたって報告がきたわ。ついでに弓矢で攻撃もされたってね」
ふむ、水門は一応守っているのか。
ただ、これだけだと、水門から攻めてほしいから守っているようにも見える。
「まぁ順当に真正面の門から攻撃するしかないか。エイラは居るか?」
俺が呼ぶと、彼女はすっと姿を現した。
「シルバーフォックスで内部の探索を行ってくれ。特に入り口付近の伏兵と罠の確認を急いでほしい」
「はっ! 今晩中に確認し明日朝には報告できるようにさせて頂きます」
彼女はそういうと、指示を飛ばしに行った。
「あと、水門にも嫌がらせは考えておかないとな。何か手は無いか? クリスティーさん」
「そうですね、水門自体を使えなくしてしまうのも一つの方法かと思います」
「水門を使えなくする? 結構頑丈なんですよねあれ」
「えぇ、でも水門である限り水の流れには逆らえません。なので木材を切り出して水門にぶつけるんです。それも大量に」
なるほど、確かにそれなら水門を開いたら大量の木材が流入して船着き場が荒れる。
開かなければ水門が木材で埋まって使えないという訳か。
川幅が狭いというのを利用する良い手段かもしれない。
「あとは、ケインとガスを使って港に嫌がらせをしても良いわ」
「ほう、ケインとガスはそう言った戦術が得意なのか?」
クリスティーに言われて、俺が彼らを見ると自信あり気に頷いてきた。
「もちろん、頭脳仕事は不得手だけど、船上、水中での戦いではそう簡単に負けないわ」
「伊達に水の街で育ってねぇですからね。これでも泳ぎは得意なんでっさ」
「奴らの船に風穴開けて沈めてやりやすよ」
「なるほど、それは頼もしいな。では、リバー社の水泳達者を選抜して、相手の小舟に嫌がらせをしてほしい」
俺がそう言うと、ケインとガスが不思議そうに「小舟だけですかい?」と聞いてきた。
「あぁ、まずは小舟だけだ。小舟が全て終わったら、次は大型船だ。小回りが利くものから片づけないと面倒だからな」
俺がそう言うと、クリスティーは少し驚いた顔をしていた。
まぁ、山の民の俺がこんなことを言えばビックリもするだろう。
海上輸送なんて知らないと思っているだろうから。
「では、リバー社の方で今晩にでも夜襲をかけてください」
「はい! お任せを!」
そう言うと、ケインとガスの二人は人員を揃えるべく天幕を出て行くのだった。
ベルナンド
ディークニクトたちがベルナンドについた頃。
港に停泊中の船は数隻あった。
その中でも特に大型船だったのが、このクイーンエルドランド号である。
全長200メートルの超大型帆船兼魔動力船である。
この大型船の随伴艦として補給艦(平時は商船替わり)が2隻、駆逐艦が3隻、そして、各船に襲撃用の小型走舸が5隻ずつ随伴していた。
一海賊上がりには分不相応なくらいの艦隊だが、商売上敵の多いアルメダにはこれくらいのフナ数が必要だったのだ。
そんな多数の船を持つアルメダだが、今回の輸送には、小型船を中心に活用していた。
理由としてはいくつかあるが、一番の理由は輸送場所が多岐にわたるからである。
オルトが街の中で抵抗しようとした時に、部隊を細かく分散したことで、荷をある程度小分けにして各陣地に送らなければならなくなったのだ。
その為、彼女は小回りの利く小型船で何度も輸送する羽目になっていた。
「全く、なんであたいがこんな面倒な事を……」
「アルメダ様、そうは言いましてもこれもオルトに恩を売るためです。何やら奴らオーガまで仕入れたとか」
この細かい輸送をさせられていることに不満を募らせているのだろう、彼女は不平を言うと、隣に侍る美丈夫に窘められる。
彼はアルメダが唯一心許す腹心の部下であり、有事の際の副艦長となる人物なのだ。
「分かっちゃいるけどね~、なんだってオルトの野郎はオーガなんて手に入れたんだろうね。私でもあんなもの扱えないよ」
彼女は不平不満を言いながらも、オルトがオーガを持っていることの危険性を知っていた。
あれは、脅威であると。
「恐らくここ最近出入りしているフードの男でしょう。あいつが来てからやけにオルトは強気になりましたからね」
「確かに、あいつは臭い。それも腐臭に近い臭いがするんだよ。同じようにうちにも卸そうかと言って来たけど」
そう、彼女もフードの商人から魔物を買わないかと言われていたのだ。
それも海ではほぼ絶対王者と言われる、デビルクラーケンを売ると言うのだ。
一瞬、彼女もその話に乗りかけたが、それでも踏みとどまった。
踏みとどまれたのは、彼女の横に侍るこの男のおかげでもある。
「まぁとりあえず、奴をジャンジャン太らせて、金を巻き上げてやろう。そうすれば、勝とうが負けようが、私らはここからおさらばさ」
彼女は、この戦いの後までは考えていなかった。
勝てば、オルトは彼女を消しにくるだろうし、負ければ彼女は領主に首を刎ねられる。
今回の戦は勝っても負けても彼女にとって損でしかないのだ。
彼女が腹心の美丈夫とそんな話で盛り上がっていると、大慌てで艦長室に入ってくる者が居た。
「た、大変です姐さん! 小型船が次々と沈没していきます!」
「何!? 原因は!?」
報告に反射的に問いただした彼女に帰ってきたのは、まだ原因が分からないという答えだけだった。
その何とも救いのない答えに、彼女は若干のいら立ちも交えながら指示を飛ばす。
「恐らく敵からの襲撃だよ! 水泳達者を船底に向かわせな!」
「はっ!」
彼女の読みは正確だった。
ただ、残念な事に彼女がその指示を出したころ、走舸の大半は既に沈んでおり、輸送艦も船底に穴を開けられていた。
この混乱によって、アルメダたちの輸送は確実に遅れ始めるのだった。
今後もご後援よろしくお願いいたします。
※本日何話更新できるか分かりませんが、できる限り行きます╭( ・ㅂ・)و̑ グッ
10万字まであと1万字ちょっと。遠い(;´・ω・)w




