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2-10

交易路途上 クリスティー


 父を失って数日。

 敵が執拗に迫ってきていた。

 こちらは当初船を使っていたが、船の動力部の魔力が切れてしまったのだ。

 魔力は専用の機関に持って行かねば補充できず、船が無用の長物と化してしまったので、歩くことになった。


「ケイン、ガス。ここからどう行くんだい?」

「へい、一応若頭のレインさんが領主様と交渉しておりやして、そちらに逃げようかとおもっとりやす」


 狐目のレインか……、悪い奴じゃないんだけど、扱いにくいんだよね。

 何を考えているか分かりにくい顔をしているからな……。

 

「で、どうやって(・・・・・)そこまで行くんだい?」


 そう言って私は辺りを見回すと、恐らくオルトの手の者であろう騎馬兵が数騎うろついている。

 流石に人の足で奴らを巻くことは難しいし、私一人なら騎馬を一騎奪って逃げられるが、ケインとガスの二人が危なくなる。


「最悪の場合、一騎倒して馬を奪ってお嬢だけでもお逃げくだせぇ」

「もちろん、あっしらも後で追えるように最善を尽くしやす」

「……そりゃ、軍記物でいの一番に死んでしまう人の言葉よ。今後は言わない様に」


 私が心配そうにそういうと、二人は「お嬢!」と何故か感動していた。

 全く、護衛に選ばれてるんだから簡単に死にそうな事を言ってほしくないわ。

 ただ、そんな事を考えて居られるのも今のうちだろう。

 現在茂みを中心に3方向に居る敵は、こちらを探すべく周囲をうろついている。

 既にこっちの場所が割れていて、楽しんでやってるのか。

 はたまた、本気でどこに居るか分からず困っているのか。

 できたら後者の方が良いのだが、期待は薄いだろう。

 私がそんな事を考えて居ると、前を確認していたケインが話しかけてきた。


「お嬢、あれを」

「なに? ってあれは旅人ね。不味いわねあの人たちやられるわよ」


 私たちが見たのは、どこにでも居そうな旅装の男女だ。

 唯一見知ったのと違うのは、ほっかむりを被っている所だろう。

 そして、旅人たちは騎兵に気づかずにこっちに向かってきている。


「あ、騎馬の一騎が旅人に」


 見ていれば分かることをガスが言葉にしてきた。

 しかし、これはチャンスだ。

 敵が旅人に意識を向けている間に、騎馬を二つとも奪えば最悪全員が生きれる。

 そう思って、旅人には悪いが黙って見ていた。


「貴様ら! 何者か? この先は立ち入り禁止だ!」

「えぇ!? 立ち入り禁止? それは困ります。船で国まで帰る予定なんです。今から行程を変えたら路銀が足りませんよ」

「んなこたぁ知るか! むしろその路銀を寄越してもらおうか?」

「な! 追いはぎしなさると!? 領主様の兵でしょうに」

「はん! こっちとら領主なんざ知らねぇんだよ。さっさと置いていけ」


 何とも典型的な野盗だろう。

 そんな事を思いながら、見ていると我も我もと残り2騎の騎馬も旅人に集まりはじめた。

 これは千載一遇のチャンス!


「ケイン、ガス。ゆっくりだ、ゆっくり茂みから出て向こうまで逃げるよ」


 私は、道の向こう側の林を指さして移動を指示した。

 それに二人は頷いて応え、こそこそと動き始める。

 頼むから旅人さん、こっち見ないでくれよ。

 そう思いながらゆっくり動き出し、道に出てからは素早く移動を始める。

 すると、旅人の一人が「あ!」と声を挙げた。

 その声と、指さしでこっちを向いた騎馬が私に気づいてしまった!


「やっと見つけたぜ、クリスティーさんよ」

「手間かけさせてくれやがって」


 そう口々に言いながら、三人がこちらに来ようとした瞬間。

 一瞬だった。

 旅人と思っていた女が、一番近くに居た騎馬の首に何かを突き刺して殺す。

 そして、空いた手で棒状の黒いものをこちらに迫る騎兵の背中に向けて放り投げる。

 男の方も、同じく棒状のものをもう一騎の騎馬に向かって放り投げ、背中と首に突き刺す。

 全ての事は迅速に処理されたのだ。

 

「は? え? な、何? 一体何なのこいつら?」


 私が混乱していると、ケインとガスの二人が私の前に立つ。

 足を震えさせながらも、私の前で先ほどの棒状の武器の盾になろうというのだ。


「お嬢! 混乱している暇はありやせん!」

「そうです! 今のうちに逃げてくだせぇ!」

「けど……」

「「けどもへったくれもありゃしません!」」


 驚いた。

 この二人が、私に対して怒鳴るなんて事が無かったから。

 驚いた。

 小心者を代表する二人が、ありったけの勇気を振り絞って盾になろうとしているんだから。

 私が一瞬感動に浸ってしまった瞬間、相手の何とも申し訳なさそうな声が聞こえてきた。


「あの~、お取込み中すみません。私たち、ディークニクト殿から使わされた者なんですがぁ……」

「「「え!?」」」


 申し訳なさそうに言った彼女は、フードを取ってこちらを見てきた。

 取られたフードからは、フワフワした毛に覆われた耳と、見目美しい少女の顔だった。


「えっとぉ、クリスティーさんですねぇ? リバー廻船のぉ」

「え、えぇ。それは私ですが」

「初めましてぇ。私シルバーフォックスの一人、アンナと申しますぅ。ディークニクト殿から御身の守護を命じられましたぁ」


 彼女は、そう間延びする口調で言って、膝をつき頭を下げてきた。

 もう一人の男の方も、同じ姿勢を取ってくる。


「ディークニクト、とは例の新領主様の事ですか?」

「はいぃ、本当は~、水門の守護を予定していたのですがぁ、数日前に失陥したと連絡がありましてぇ。なら逃げたクリスティーさんだけでも保護しないとぉ、となりましたぁ」


 本当にさっきの動きをした人物と同一なのだろうか。

 あまりにも間延びしていて、正直びっくりする。

 

「そうでしたか、水門失陥の件は申し訳なく。今後ディークニクト様に我らリバー廻船は全力でお助けいたしますので、どうかご助力くださいますようにお伝えください」

「それはぁ、もちろんなのですぅ。あ、でもご一緒にきていただきますのでぇ、ご自分で言っていただいた方がぁ……」

「あ、確かにそうですね。ありがとうございます。では道中よろしくお願いいたします」


 私がそう言って頭を下げると、アンナたちは力強く頷いてくれるのだった。

 ディークニクト、一体どんな人なのだろう。


次回更新予定は6月28日です。


今後もご後援よろしくお願いいたしますm(__)m

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