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2-8

海運城塞都市ベルナンド始まります。

 ベルナンド。

 かつてこの地は、第二王子オルビスのものだった。

 彼の地は、陸運と河川舟運を司る交易の要地である。

 『この土地一つで国家財政の半分を賄える』とまで謂わしめた土地だ。

 現在のこの土地の支配者は、移り変わりエルフの里長ディークニクトとなっていた。

 ただ、この土地の裏社会の様相は大変な事になっている。

 運河を統治するリバー廻船。

 海運を統治するシーブック操船。

 陸運を担当するロードス運輸の3社がお互いを牽制しあいながら、しのぎを削っているのだが、この三社所謂ダミーカンパニーなのである。

 彼らの本業は川賊、海賊、山賊なのだ。

 だが、どこにでもいる奴らと違うのは、彼らがこの地でビジネスをしながら活動しているという事だ。

 今この地の治安は、三勢力の拮抗によって危ういバランスを保っている。

 恐らくディークニクトが見たらこういうだろう。「まるで三国志だ」と。


 そんなベルナンドに新領主が就任してから2ヶ月が経った頃。

 キングスレーの人臣を刷新した、新領主であるディークニクトがついに行動を起こした。

 

「裏社会を取り仕切る3名に出頭を命じる。出頭に応じない場合、軍を持って誅罰を下す」


 この通知が裏社会に出回った事で、俄かに騒がしくなった。

 運河を取り仕切るリバー廻船は、この報せが入ったのと同時に降伏を宣言。

 裏社会の構成員を連れて領都に出向いた。

 対して、海運、陸運を取り仕切っていたシーブックとロードスは、真逆の宣戦布告をする事となった。

 これは、彼らの立場の違いがあったのだ。

 運河を取り仕切るリバーは、領都との取引も多く対立するよりも味方をする方が利益は多かった。

 対して、シーブックとロードスは、ベルナンドから他の街へと荷を運ぶことが多く、むしろ領主というものを常々鬱陶しいものと考えていたのだ。

 この3社の対応の違いが今後にも響いてくるのだった。



 ベルナンドの一角にある小さな酒場の奥に、秘密の小部屋があった。

 まるで世紀末社会の酒場の様な場所にしては、小ぎれいで手入れの行き届いた調度品が並ぶ隠れ家の様な部屋である。

 この部屋を貸し切っているのは、シーブックとロードス両商会の長であり、裏社会のボス二人だった。


「で、シーブックよ。どうするんだ? てめぇの所もリバーの様に領主様に尻尾振るんか?」


 眼光鋭くそう言ったのは、ロードスのボスであるオルトだ。

 年の頃は50歳くらいだが、眼光鋭く大柄な体は引き締まっていた。

 そして、その彼に相対しているのは、艶美な肢体と美しい顔に大きな傷痕を持つ女だった。

 彼女は眼光鋭くオルトを睨みつけた。


「てめぇの頭には何も詰まってねぇのか? あたいの達が尻尾を振るだ? 冗談も休み休み言いやがれ!」

「へっ! それならこっちも安心だよ。んでだ、今日は顔付き合わせて罵詈雑言言い合う為じゃねぇ。アルメダ」


 オルトがそういうと、アルメダは当たり前だと言わんばかりの表情をした。

 彼らが顔を合わせるのは、基本的に裏で起こった揉め事を解決するためだが、今回は違う。

 そう、共通の敵である新領主に対抗しようというのだ。


「で? 当たり前の話だが何か対抗策くらいあるんだろうね?」


 アルメダがそういうと、オルトはニヤリと口の端を歪める。

 ただでさえ厳つい顔が、よりあくどさを増す。


「とりあえず、領主の軍にはこの地に入ってもらおうと思っとる」

「あぁ? この街でドンパチ始める気か? 確かにここなら入り組んでるが、あたいらの所は海でないと使い物にならんからな」


 アルメダがそういうと、オルトも分かっているとばかりに頷いて見せた。


「んなこったぁ、言われなくても分かってる。てめぇらは魚と一緒で、陸では荷揚げ以外にものの役にも立たねぇって事はな」

「あぁ? 喧嘩売ってんのかい? 山猿がぁ」

「まぁそういきり立つなや。その山猿が今回は戦ってやろうってんだ」


 食ってかかってくると思っていたアルメダは、若干顔をしかめた。

 何かいつもと違う。

 そう思うのだが、何が違うのかはっきりとしたことが分からず、モヤモヤとしていた。

 そして、そのモヤモヤを考えるのと同時に、オルトが言いたいことも何となく理解できていた。


「……おめぇ、あたいらの事を農夫や漁師と同じ扱いにしようとしてやがるな?」

「それは人聞きの悪ぃ言い方だな。軍隊さんの用語じゃ輜重っつぅ言葉があるんだよ。てめぇらにはその輜重をしてもらいたい」

「はん! 要はおまんま食わせてくれたら、働いてやるってか?」

「飯だけじゃねぇ、武器も寄越せ」

「寄越せだぁ? てめぇ頭に蛆虫湧いてんじゃねぇか? あたいらのは商品なんだよ! 商品!」

「その商品も潰されっちまったら意味ねぇだろうが! こっちとら命張るんじゃ! 道具と飯くらいタダで寄越せ!」


 そう言い合うと、二人は机越しに睨みあったまま動かなくなった。

 数分、彼らは睨み合い一触即発と言った状態だったが、アルメダが折れた。


「勝てるんだろうな? これで飯と武器だけ持って、てめぇらが玉砕しましたじゃ話にもなんねぇからな?」

「勝つ策はあるさ。もちろんまだ言えねぇがな」


 もったい付けるオルトに、アルメダはやれやれとばかりに胡乱な者を見る様な目を向けるのだった。


次回更新予定は6月25日です。


今後もご後援よろしくお願いいたします。m(__)m

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