2-7
キングスレー ディークニクト
部下に頼んで装備を渡しに行かせると、向こうから話が聞きたいと言ってきた。
流石に監禁していた部屋の近くで話を聞くわけにもいかないので、俺の部屋へと案内した。
「それじゃ、質問があるって事だったが何かな?」
「ありがとう。こちらからの質問だが、今回の契約は永続になるか? それとも一時的な契約になるのか?」
そう族長の女は、切り出してきた。
確かにその辺りは気になるだろう。
「俺としては永続が良いのだが? そちらの希望は?」
俺がそういうと、後ろの奴らが何やら小声で話し始めた。
まぁ、意見のすり合わせは必要なのだろう。
そう思って少し待っていると、族長がこちらを向いてきた。
「契約金は言い値と言ったな? 間違いなく言い値だろうな?」
「もちろんそのつもりだ。ただし、今回の襲撃の依頼者の名前を言えよ? 嘘を吐いていたりしたらその時点で切り捨てるぞ」
少し殺気を出して言い切ると、後ろの奴らが咄嗟に武器を持とうとした。
それを察してか、族長が手を上げて制止する。
「部下をからかわないで頂きたい。我らは契約に従うだけだ。嘘は言わない」
「し、しかし族長、一応雇い主との契約が……」
言い切る彼女に後ろに控える一人が、異論を挟む。
確かに契約で今の雇い主の事を喋らないという約定があれば、俺との契約では話せないだろう。
俺が注視していると、彼女が笑い出した。
「ハハハ! 何を言ってる? 奴との契約で他言無用などという言葉は一切かわしていないぞ」
彼女がそういうと、後ろに居た奴らが顔を見合わせてハッとなった。
どうやら契約上問題は無いようだ。
「それじゃ相手の名前を言ってくれ。後、奴を観念させる為に奴の前でも名前を言ってもらうぞ」
「……その口ぶりだと、犯人が分かっているような言い方だな?」
「まぁな。犯人はどうせクゾーだろう?」
俺が事も無げにそう言うと、今度は後ろの奴らもみな笑い始めた。
「ハハハ! 何だあいつは、既に見破られているではないか!」
「賢そうに見せかけて、本当に見掛け倒しだったとは」
「何とも滑稽、なんとも無様!」
彼らはひとしきり笑うと、背筋を伸ばして俺の方を見てきた。
「ディークニクト殿の慧眼に感服いたしました。我らシルバーフォックスは、今日この時より、貴方様の専属となりましょう」
そう言って彼女は、被っていたフードを取った。
恐らくこれが、彼女たち裏社会の人間の最大の敬意の表し方なのだろう。
ただ、フードを取った彼女たちを見て今度は俺が驚いた。
何故なら彼女たちは、まだ幼さの残る少年少女と言って間違いないくらいの子達だったからだ。
族長と言われた女は、若干上だと思うが、それでも二十歳にもなっていないといった様子だ。
「驚かれたか? 存外若かっただろう?」
「あ、あぁこれには驚いたよ。いくつくらいだい?」
俺が歳を聞くと、5人のほとんどが14~6歳だった。
流石に捕まえていたビリーという奴は、19歳だったが、それでも若い。
「そういえば、申し遅れてしまった。私は族長を務めるエイラという。これでも二十歳だ」
そう言って彼女は、自己紹介をしてくれた。
確かに低身長で痩せた体型もあって、最も幼く見える。
「狐人族は、皆若いのか?」
俺がそう尋ねると、彼女は首を振ってきた。
「いいや、若いのではなく、年寄りが居ないだけだ」
「年寄りが居ない?」
俺が聞き返すと彼女は首肯して話し始めた。
「我が一族は、代々火と影の魔法を得意としていたのだが、それを当代の獣人王に警戒されてな。一族の主だったものが襲われて死んでしまったのだ。そのせいで、我ら狐人族は、やせ細った土地で暗殺家業を続けながら細々と生きている」
「そうか、それは大変だったのだな」
俺が少し同情を含んでそういうと、彼女は俺の方を睨みつけて言い放った。
「同情など要らぬ! 我らは誇り高き狐人族だ! 強気が生き、弱きが死ぬ! それくらいの道理はわきまえている!」
「それは、失礼した。この通りだ許してくれ」
彼女の怒りを受けて、俺はすぐに頭を下げた。
そんな俺の様子を見て、彼女は少し冷静になったのか、怒鳴ってばつが悪いのか、そっぽを向いた。
「ふ、ふん! わ、分かればいいのだ! 分かればな!」
「ふふふ、ありがとう。ところでエイラ。ここからは同情ではない話なのだが、君たちの一族を揃って俺の領土に移住させないか?」
俺がそういうと、彼女は一瞬何を言っているんだと言わんばかりの表情をした。
「な、我が部族は減ったといえ、100人は下らないのだぞ!? それを移住させる場所などあるのか!?」
「ある! 最近ちょっと統治がしにくい場所があってな。裏社会の人間がはびこっている場所なんだが、どうだ?」
「暗殺か? なら我らだけで入るが?」
俺の意図を汲もうとしてくれたのだろう。
だが、俺はこの子達に暗殺はさせる気が起きなかった。
「いや、殺しは最低限度にとどめたい。むしろ情報収集をしてほしい。最初は元気なものを数名選んで移住をはじめ、裏社会の情報を集めてほしいんだ。その後、居場所、規模が特定できたら教えてほしい」
「……なるほど、私たちの情報を持って、裏社会の奴らを一網打尽にしようという事だな?」
「そういう事だ。相手の規模と居場所が最初から分かっていれば、同時に全て叩けるからな」
「そして、一網打尽にした後に我らを裏社会のトップに据えると?」
「お! よく分かってるじゃやないか。そうしてトップになった後に全員をそこの構成員として囲い込んで欲しい」
俺がそこまで話すと、全員の目が輝きだした。
そう、この仕事は上手くいけば金が手に入るどころか、安住の地を手に入れられるのだ。
「どうだ? 受けてくれるか?」
ここまで揃ってエイラたちに断る理由なんて全くなかった。
今度は一切考える間を置くことなく、全員が一斉に答えた。
「「「喜んで!」」」
次回更新予定は6月24日です。
すみません設定し忘れてました(;´・ω・)
今後もご後援よろしくお願いいたします。m(__)m




