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2-5

キングスレー


 その夜の城内は俄かに騒がしかった。


「ディークニクト様が敵に攻撃を受けただと!? すぐさま状況確認! 非番を呼び戻せ! 城壁にの警備を厚くして敵を逃がすな!」


 衛兵長の的確な指示が飛び、兵たちが一斉に動き出した。

 敵の夜襲が、まさか城内で起こると思っていなかったのか血相を変えて飛び出す。

 その騒ぎを遠巻きに感じ、ほくそ笑む男がいた。

 クゾーである。

 自分の放った刺客が、仕事を完了したと思ったのだろう。

 彼は特段急いだ様子もなくディークニクトの部屋へと向かった。


(これで邪魔な奴は消えた。後は知恵も何もないただのエルフ。なんだったらここを実行支配もできる! まさに我が世の春ではないか!)


 クゾーはそう考えながら、笑みを噛み殺した。

 流石にこの状況で笑っていては見咎められ、疑われる。

 そう思いつつ部屋へと行くと、彼は愕然とした。

 それもそのはずである。

 彼が、仕留めたと思っていたディークニクトが目の前で立っているのだから。

 そして、彼の足元に放った刺客たちが生きているのだから。

 彼は、一体何が何だか分からず、状況が読めなかった。

 奴らなら、あの筋肉だるま(アーネット)が居ない間に殺すだろうと思っていたのに。

 筋肉だるまさえ居なければ楽に終わると思っていたのに。

 ただ、彼はそんな素振りを見せない様に心配した体を装った。


「ディークニクト様! ご無事で!?」

「ん? あぁ、クゾーか。見ての通りピンピンしているよ」


 疑われている。

 瞬間的にクゾーは、そう感じた。

 政治の世界で曲がりなりにも生きてきたのだ。

 自己防衛の為の危機感は持っている。

 そう思った彼は、思い切った行動をしようとした。


「貴様! ディークニクト様に刃を向けるとは!」


 帯剣を許されていた彼は、いつもの鈍重な所作からは考えられない速さで剣を抜き、斬りかかった。

 そう、口封じをしようとしたのだ。

 だが、ディークニクトにとってクゾーの行動は予想の範囲内だった。

 彼の人生で恐らく最速の抜刀と斬りかかりをしたが、いとも簡単に腕を掴まれて止められたのだ。


「クゾー、殺してはならん。彼からは俺が直々に話を聞かねばならんからな」

「し、しかし! 主上であるディークニクト様に牙をむいた輩は見せしめにせねば!」


 クゾーは、甲斐甲斐しくも主の為にとのたまわったのだ。


(ここまでしておけば、暗殺の疑いはかけられまい)


 クゾーは内心でこう考えていた。

 殺せれば口封じに、殺せなければ忠誠を見せられると。

 そして、実際に先ほどまでの警戒の色がディークニクトからは薄れたのだ。


「分かりました。ディークニクト様のご判断に従います」


 クゾーは、ここぞとばかりに悔しそうな表情をして見せた。

 彼は、この急場を凌いだのである。



キングスレー エイラ


 あり得ん! 我が片腕であるビリーが赤子の手をひねるように取り押さえられるだと!?

 何なんだ奴は! いくら何でもおかしすぎる!


「族長! 如何いたしますか?」


 そう言って聞いてきた奴の顔には、はっきりと『ビリーを見捨てて逃げよう』と書かれていた。

 確かにこの場の判断としては、それが正しいだろう。

 今の戦力状況では、任務の遂行は不可能だ。

 だが、長年連れ添ったビリーを見殺しにするわけにはいかない。


「とりあえず、今は警戒が厳しい。一度城内に潜んで、様子を見よう。ビリーが救出できそうなら救出して脱出だ」

「はっ!」


 私がそう命令すると、一族の者たちは散っていった。

 それを見送った後で、私は何が起きたのかを思い出していた。


 1時間ほど前の事だ。

 城へと忍び込んだ我らは、奴が一人になる瞬間を待っていた。

 

「族長、いつもの感覚ですとそろそろかと」

「そうだな。一人になってからもしばらく様子を見るぞ。一族の全員を集結させておけ」

「はっ!」


 私の命令と同時に、ビリーが散開している部下を集めに行った。

 数分後、部下が集まり、対象も一人となった。


「良い頃合いに集合した。敵は現在一人だ。ただ、もう少しだけ様子を見る。寝る直前か、寝て少ししてからの方が良いからな」

「かしこまりました」


 そこから数分待ち、対象が寝ていると判断した我らは、一斉に奴を囲むように屋根裏から降りた。

 そして、降りたのと同時にベッドに一気に襲い掛かる。


「仕留めたか!?」


 そう思って、シーツをめくったが、そこにあったのは枕だけだった。

 

「な、なに!? 奴はどこだ!?」


 咄嗟に辺りを見回すと、少し離れた場所に立つ男がいた。

 雲間から出た月明かりに照らされ、顔が見える。

 何度となく見ていた顔。

 ディークニクトその人だった。


「無粋な奴らだな。奇襲はもっと殺気を殺さないと成立しないぞ」

 

 殺気……だと!?

 我が一族に、殺気が漏れ出すような未熟な奴は居ない。

 それなのに感じたと?

 あり得ん、あり得ん! あり得ん!!!


「なんだ、だんまりか? せめて名前くらい聞かせてくれると嬉しいんだが?」

「……死にゆく者に、名は不要だ」


 そう言うが早いか、ビリーが駆け出した。

 手に持っているナイフを投げつけ、視界を遮る。

 だが、奴も予想していたのか、手に持っていた木剣で弾き落とす。

 そして、返しざまにビリーの胴に一閃。

 何でもない様に、まるでビリーが木剣に吸い寄せられるように斬って落とされる。

 意識を一瞬で刈り取られたのだろう。

 

「な!?」


 本当に一瞬の出来事だった。

 我が一族の中で、目で追えた者がいたかどうか。

 

「撤退だ! 撤退する!」


 私は咄嗟にビリーを見捨てる選択をし、窓から脱出したのだった。


次回更新予定は6月22日です。


今後もご後援よろしくお願いいたします。m(__)m

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