2-2
ちょっと視点があちこち動きます。
キングスレー クゾー
いやはや、全く面倒な奴が城主になりやがった。
前の第二王子は、細かな点ではこちらに見向きもしなかった。
なのに、奴らと来たらなんか一人増えて、そいつが全部を管理し始め取る。
確か奴は、フルフォード家の小倅。
心意気だけで全く世間を知らん奴だと聞いておったのに、全く違うではないか。
細かい数字の誤差まで指摘しやがる。
今の所、本当に計算間違いの部分が多いので特段問題ないが、いずれ面倒な所にも気づくはず……。
「クゾー様、この資料も出すのですか?」
儂が考え事をしておると、隣で作業をしておった文官が話しかけてきた。
奴が持っている資料は、儂と奴の二人で作った裏帳簿というやつだ。
「あほか! そんなもん出したら面倒極まりない! 絶対に出すな!」
「かしこまりました。ですが、実数と合わない所が……」
「そんな簡単にわかるようにしてあるか! だいたいが山の中の引きこもり種族と領主なりたての奴なのだ! そう簡単にバレんわ!」
全くどいつもこいつも……。
ただ、最悪の場合はこいつをしっぽとして切り落とさねばな……。
「とにかく、徹底的に資料を誤魔化すぞ。あと、最悪の場合を考えて街のごろつきどもにも声をかけておけ」
「分かりました。そちらの手配もすぐにさせて頂きます」
さぁ、化かし合いだ。
こっちの領域に引き込んでやれば、あいつらにどうこうできるとは思えない。
「とにかく都合の悪い資料については、儂が預かっておくからな」
儂はそう言って、数点の資料を抱えて屋敷に帰った。
キングスレー ディークニクト
資料の提出をクゾーに指示して数日。
クローリーの助けもあって、どうにかこうにか資料の点検が終わりそうになってきた。
そして、それと同時に巨額の金が裏に流れている可能性も出てきた。
「かなり巧妙に隠そうとしていますが、数点不可解な数字があります。恐らくこれが裏に流れている金の一部かと」
そう言ってクローリーが提出してきた資料を読むと、確かに数点おかしな部分がある。
それも、ほとんどが城の事務職を司るクゾーの部署なのだ。
「ふむ、これを見て奴は何というかな?」
「恐らくですが、奴の部署から誰かを生け贄に捧げるのではないでしょうか?」
どこに行っても上の奴が責任を取らない、という構造はよくあるものだ。
全くもって気分が悪いな。
「さて、クローリー。こういう奴はどうやって追い詰めようか?」
「では、こういった策は如何でしょうか?」
恐らく事前にここまでの考えを巡らせていたのだろう。
彼の策は見どころのある策だった。
「なるほど。それでは、君の言う通りに行ってみよう」
クローリーの成長は存外いい形になってきた。
後は、敵を追い詰めるだけだ。
キングスレー クゾーの腰巾着
何やら、新しい領主さまから呼び出しがあった。
というか、ここ最近色々な奴に声をかけては、別室で話を聞いているらしい。
先に入った奴らの中には、拘禁された奴も居れば昇進をした奴もいた。
命令だから来てはいるが、正直私としてはあまり来たくなかった。
痛い脇腹を突かれては、何といえば良いのか……。
そんな事を考えながらも、部屋の前へと到着してしまう。
ノックを躊躇うこと数回。
やっとの思いでノックすると、ドアの向こう側から「入れ」とだけ声をかけられた。
「り、領主さまに、お、おかれましては、ご機嫌麗しゅうございます」
若干しどろもどろになりながらも、何とか挨拶の言葉が口から出た。
だが、領主の反応はいま一つ。
というか、この人物はあまり世辞を言っても乗ってくれないのだ。
私がビクビクとしていると、領主は机に向かっていた目をチラリとこちらに向けて話し始めた。
「うむ、とりあえずそこの椅子に腰かけてくれ。少々忙しいので作業をしながらになるが、気にするな」
「ははっ!」
何が気にするなだ!
全くもって礼儀も何もないじゃないか。
一体何の為に呼び出されたんだ?
私は、心の中で悪態を吐きながらも顔には出さない様に努力した。
「そ、それで本日は一体どういったご用件で?」
「うむ、まずはそこの机の上にある資料の写しを見てほしい」
領主にそう促されて、正面の机の上に置いてあった一枚の紙を拾い上げる。
そこには細かな数字と何かしらの項目が書かれていた。
それを見た私は、胃の中を手で鷲掴みにされたような、何とも言えない圧迫感を感じた。
何故なら、それは私が巧妙に隠したはずの横領した帳簿の写しなのだ。
そう簡単にバレる様な数字の操作はしていないはずなのに……。
いや、まだバレたと決まった訳ではない。
冷静に、そう冷静に対処すれば。
自分にそう言い聞かせた私は、領主にお伺いを立てた。
「こちらの帳簿の資料が何か? 特段不自然な箇所はありませんが?」
「ほぅ、不自然な箇所は無いと?」
やばい……、これはバレているのではないだろうか。
いや、こちらの出方を窺っているだけいるだけだ。
「え、えぇ、私としては特に問題は見えませんが……」
「ふむ、なるほどな。いや、それならばいい。こちらの勘違いかもしれんな。出て構わんぞ」
……これは、試されただけだろうか?
とりあえず、何にしてもバレていないのであればよかったというもの。
私は挨拶もそこそこにそそくさと部屋を出て行った。
次回更新予定は6月19日です。
今後もご後援よろしくお願いいたします。m(__)m




