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第二部突入です。
領都キングスレー ディークニクト
オルビスとの戦いの後、カレドとトリスタンを回収して、キングスレーに入場した。
キングスレーは、子爵領ロンドマリーよりもさらに大きな城郭を有した城だ。
人口はおよそ5万人以上でこれも子爵領の3万人よりも多い。
そして何よりも違うのは、外周部分に堀が掘られているのだ。
近くを流れるテレヌ川の水を使ったもで、防御施設としては恐らくこれ以上ない物だろう。
「かなり大きい城だな……」
「恐ろしいくらい門から城まで距離がありますね」
「うひゃー! 道がめちゃくちゃ広いよ!」
「おぉ、あの男中々良い体格をしている。力比べを……」
「どこ行く気よ! アーネット!」
三者三様。
それぞれがそれぞれの反応で城内を堪能していた。
まぁ、若干一名手当たり次第に力比べをしようとしているが。
「ところで、ディー。僕らは、ここで暮らすのかい?」
ふと疑問に思ったのか、トリスタンが聞いてきた。
彼としては、森へはいつか帰れるのだろうかという事だろう。
「ずっとではないが、暫くはって所だな。まぁ俺は最悪こっちに永住かもしれんがな」
「ディーが永住するなら私も永住するわよ!」
「な!? シャロが永住するなら俺もここに残るぞ!」
俺が永住するかもと話すと、シャロとアーネットが相次いで我もと手をあげてきた。
まぁ、シャロは知らないがアーネットは妹可愛さだろう。
「ん~、私としては帰りたいところですね」
カレドは、森での生活の方が合っているのだろう。
自分としては帰れるなら帰りたいといった感じだ。
「まぁ、僕はどっちでもいいさ。とりあえずしばらくはこっちの方が楽しそうだから、こっちで遊んでみるよ」
そんな話をしながら歩いていると、やっと城に到着した。
城には衛士が居り、俺達の到着を見るや「開門!」と城内へと叫んだ。
その声に反応するように、高さ3メートル以上あろうかという巨大な門が、地響きの様な音を立てながら開く。
「うひゃー! これは壮観だね。どうやって開けているんだろう?」
「確かに、これは何ともすごい光景ですね」
相変わらずカレドとトリスタンの二人は、目を輝かせながら魅入っている。
なんだかんだ言って、この二人は仲が良い。
城の中に入ると、華美とは言えないが落ち着いた調度品が並ぶ。
「意外と調度品とかは派手な物じゃないんだな」
「確かに、貴族様って派手なイメージあるから、フルフォードにしてもここにしても、落ち着いているわね」
シャロと二人で辺りを見回すと、重厚感と温かみのある木目調の内装を中心とした落ち着いた雰囲気だった。
もっとこう、威圧的な感じや成金趣味的な物を考えていた俺としては、驚きだった。
「ふむ、あの衛士も中々鍛えていたな。今度模擬戦を……」
アーネットは、相変わらず周りよりも戦う相手を探しているみたいだ。
まぁ、模擬戦なら大丈夫だろう。
次に俺達が入ったのは、謁見の間だ。
こちらは先ほどまでの落ち着いた雰囲気から一転して、天井が低く壁もここだけは木目調から石造りになっていた。
しかも遠近法で若干部屋の奥が狭く作られている。
相手からしたら、遠くに見えるはずの景色で部屋の主人だけが大きく見えるという圧迫感を覚えるだろう。
「交渉事ではこういった部屋を使うと有利になりそうですね」
「けど、あんまり趣味は良くないぞ。ここは」
カレドとトリスタンが言う通りだろう。
ここは来訪者を威圧し、心理的に優位に立つ為の場所だ。
そして、調度品もそれに合わせて威圧的になっているのだが、最奥の椅子が何とも言えない。
見た感じ、この主が座るべき場所なのだが。
「……これは、派手ね」
「……ディーは、これに座るのか?」
ドン引きのシャロに、何故かこの椅子にだけは食いついたアーネットも引いている。
何故なら、椅子の意匠がどこか魔王の座るような髑髏のついた椅子なのだ。
しかも、その髑髏を左右で金と銀で装飾しており何ともセンスが悪い。
「……取り急ぎ、この椅子だけは撤去しよう」
その後、椅子はさっさと撤去され、代わりの物に変更された。
その作業が終わるのと同時に、文武の官を招集した。
この城の中には100人を超える人たちが働いている。
文武の官が40名、メイドなど雑事を担当する者が50名、その他衛士などが周りに10名といったところだ。
もちろん交代制の部分もあるので、今100人程度でも総勢だと150人近く居る事になる。
最低限の衛士以外は全員を集めたので、いくら謁見の間と言えども少々せまっ苦しい。
ちなみに里から一緒に出てきた、シャロたち4人は椅子の少し後ろで左右2人ずつ立っている。
「新領主さま、ディークニクト様! ご入来!」
末席の文官が俺の来場を告げるのと同時に、左右に控える者たちが一斉に跪く。
ゆっくりと俺が席に着くまで待って、同時に全員が顔を上げる。
一呼吸おいて、俺の斜め前に居る肥満体の文官が声をかけてきた。
「新領主さま、仰せの通り我ら文武の官と城で働いておりますメイドなどを集めさせていただきました」
「うん、ご苦労」
俺がそういうと、その男は畏まって挨拶を終えるかと思っていると、こちらに向かってあらぬことを言ってきた。
「今後の政策に関してですが、どうぞご領主さまにおかれましては、ごゆっくりとおくつろぎください。古来より貴種と言われる方々は、政治を我ら官僚に任せるものでございます」
そらきたぞ。
こっちが政治を分からない田舎者だと思っているのだろう。
「貴様の名は?」
「はっ! 申し遅れました。私クゾーと申します。文官を束ねる役割を得ております」
「では、クゾーこの領内の税収に関する資料を全て用意しろ」
「は? す、全てでございますか? かなり莫大な量になるかと思われますが……」
クゾーは、若干焦ったような様子でこちらを見てきた。
まぁ、量が量だけに手間がかかるのを嫌がっているという程度だが。
俺は、そんな彼の様子など気にしないとばかりに、クゾーに再度伝えた。
「聞こえなかったようだな? 用意しろと言ったのだが?」
「はい、かしこまりました。ただ全てを一度にとなりますと恐れながら場所がございませんので、数日に分けさせて頂いても?」
「それは構わん。だが、ひとつ残らず全て出せ」
「かしこまりました」
クゾーは額の汗を拭いながら平身低頭して引き下がった。
さぁ、面倒な奴らを一掃しなくてはな。
次回更新予定は6月17日です。
たぶん、明日は更新が間に合いませんので、明後日になると思います。
今後もご後援よろしくお願いいたします。m(__)m




