8-17
獣王国 アーネット
前方に見えた土煙に、向かって俺達が突っ込むと、すでに乱戦が始まっていた。
敵も味方も陣形なんてない、ただのぶつかり合い。
力と力、技と技の応酬を繰り返していた。
ただ、さすがに白兵戦でその名を高めただけあり、獣王国の旗色が優勢に見えた。
「いいか! 救える味方を徹底的に救いきるぞ! ただし、必ず3対1で戦え!」
俺が、簡潔に命令を下すと、一緒に来ていた1千の兵は気炎を上げて乱戦に突っ込んでいった。
俺は、その乱戦の中を突っ切り、家久の姿を探した。
短い付き合いではあるが、おそらくあいつなら、兵たちのために将の、エルババの足止めをするだろうと思ったのだ。
特にここで、乱戦をしているということは、俺が気づいたことに家久も気づいている可能性が高い。
「……俺が期待に応えてやらねば!」
そんなことを考えながら、たまに行く手を阻もうという敵を吹き飛ばしながら突き進んだ。
そんな乱戦の奥の方で、一際大きな背中に二回りは小さい男が刺し傷をつけているのが、遠目に見えた。
「家久……ッ!」
俺が声をかけようとしたその瞬間、小さな体がエルババの拳で吹き飛ばされた。
直撃を受けた体は、あっという間に遠くへと吹き飛び地面に2,3回弾かれグッタリとする。
そんな家久の方へと、エルババはわき腹を抑えながらゆっくりと近づいていた。
「畜生、てめぇら! 邪魔だ! どけ! どけぇ!」
家久とエルババの戦いの決着が近いことに気が付いたのだろう。
周囲の兵が、俺が二人に接近するのを阻止するように動き始めた。
十人程度なら、すぐに蹴散らしていけるが、さすがにそれ以上の数の奴らが阻止にだけ動いてくると進めなくなる。
そんな敵兵に苛立つ俺を無視して、エルババは真っ直ぐ、ゆっくりと家久へと近づいて、鉄の棒を振り上げた。
「くっ……、そったれぇぇぇぇぇ!」
「え? あ? くそ! 離せ!」
走っても間に合わないと判断した俺は、手近に居た敵兵の頭を掴むと、そのまま放り投げた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
断末魔を上げながら、敵兵はエルババへと一直線にすっ飛ぶ。
飛んでくる兵士に気づいたエルババは、振り上げていた鉄の棒を下げて兵士を受け止めるとこちらを睨みつけてきた。
「アーネット……」
一瞬、空気が張り詰める。
俺と奴の間にいた兵たちが、その一言と同時に震え上がりサッと前を開けた。
圧倒的な武のにおいと殺気。
それだけで、兵たちに恐れと畏敬を抱かせるのだ。
「お前だけは、この手で倒さねばと思っていた」
エルババはそういうと、家久のことなど忘れたのか俺の方へとゆっくりと歩みを進めてきた。
なんとか、奴の注意をこちらに引き付けられた。
あとは、あれと戦って勝たねばならない。
幸いなことは、家久が手傷を負わせたということだろう。
それが、少しでもこちらの有利につながれば良いが……。
俺がそんなことを考えていると、エルババは「フンッ!」と力んで傷口から出ていた血を止めた。
「まったく、でたらめな奴だな。……まぁ俺もできるだろうけど」
ぼやきながらも俺は、得物を腰の辺りで構える。
中腰でいつでも叩きつけられるようにするためだ。
迎撃態勢を整えた俺を見たエルババも、武器を肩に担いでみせる。
どちらも中腰で、力を溜める構えのままじりじりと近づく。
「さて、貴様は何合もつかな? アーネット」
「お前が力尽きるまで打ち合えるさ。エルババ」
お互いの間合いは、ほぼ同じ。
あと半歩というところで、俺とエルババは一瞬言葉を交わす。
互いに敵同士だが、似た者の空気を感じる。
あと半歩というところで、俺たちは動かなくなった。
いや、動けなくなったというべきだろう。
互いの脳内で打ち合うが、どうにも決着がつかないのだ。
「……、あと少し」
頭の中で、俺がエルババを追い込む。
だが、追い込んでも追い込んでも、奴は寸でのところで止めを刺させてくれない。
そして、おそらくそれはお互いに同じなのだろう。
他人には見えない、俺たちの間に現れているリアルな映像が見える。
打ち払い、殴り、蹴り、避け、互いの死力を尽くしての戦いの予想。
手の内を互いにある程度、知っているからこそできる芸当だ。
そんなお互いの予想戦は、真ん中に飛んできた剣の陰によって突然終了した。
「とぉぉりゃぁぁぁぁ!」
「ふぅぅぅん!!!!!」
陰に隙を見出した俺たちは、同時に動き始める。
中腰で溜めていた得物を打ち上げる俺に対して、奴は肩に担いでいた得物を打ち下ろしてくる。
互いの武器が、邂逅の瞬間。
周囲に、轟音とも言うべき金属音が響き渡る。
「どぉぉぉぉりゃぁぁぁ!!!」
裂帛の気合とともに、武器を押し上げようとする。
だが、エルババの力も強く、武器が動かない。
「ぐぅ!?」
「くそっ!?」
互いに打ち下ろしきることも、打ち上げきることもできなくなった得物は、徐々に真ん中へと移動し、互いの息がかかるくらいの距離で止まる。
「力は互角だな! エルババ!」
「くそっ! 以前よりも強くなったな、アーネット!」
体中の筋肉という筋肉を総動員しても、相手の力を上回れない。
それは、俺にとって久しぶりの出来事だ。
以前、少しだけ武器を交わした戦い。
あの戦い以来の興奮だ。
「今回は、航空魔導兵器はないんだろうな?」
「ふん! あんなもん俺も好かん! 今回は、俺の力で勝ってやる!」
意地と筋肉の張り合い。
それが、これが、俺の求めていた戦いだ!
今後もご後援よろしくお願いいたします。
すみません、先週からインフルエンザで死んでました(;´・ω・)




