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8-12

獣王国 アーネット


 王座の間に諸将を集めた俺は、すぐに軍議を始めた。


「さて、今日集まったのは他でもない。陛下から返信が届いた」


 そう言うと、一瞬諸将がざわついたが、すぐさま押し黙った。


「既に今の言葉で察した者も居るだろうが、援軍は来ない」

「な……、ではどうしろと言われたのですか?」

「どうしろも何も、現有戦力でどうにかしろ、だ」


 俺がそう言い切ると、再びざわつき始めた。

 それもそうだろう、ただでさえこちらも食料が乏しいのだ。

 その上、相手は城攻めで疲れたとはいえ、白兵戦では無類の強さを誇る獣人が2万近く居る。

 そして、現有戦力で対応しろとなればどうなるかはある程度、予想がついているのだ。


「現有戦力で、という事ですがこの元王都の守りはどうするのですか?」

「王都の守りにも兵は残す」


 俺がそう答えると、諸将のざわつきは益々大きくなってきた。


「しかし、そうなるとここの守りだけでも兵力が……」

「あぁ、少なくとも5千は必要だろう」

「5千……ッ!?」


 現状1万6千の兵が、一瞬にして1万1千しか動かせなくなる。

 作戦を考える側としては、悪夢としか言えないだろう。


「1万1千の兵で2万の獣人を相手にするのですか!?」

「大丈夫だ。その点については、黒騎士とローエンで敵を削ってもらう」


 一瞬、空気が張りつめたかと思うと、一斉に全員の視線が二人に集まった。

 この大事な局面で、新参二人に敵を削る役を任せる。

 それは、かなり大きな賭けとしか思えないだろう。

 特に、黒騎士は得体のしれない男だ。

 いや、諸将にとっては男かどうかも怪しいだろう。

 そんな男が、作戦の中心となるのだ。

 これ以上不安な事はないだろう。


「閣下は、新参二人に軍を任せるとおっしゃるのですか?」

「そうだな、この中でこれ以上の適任は居ないと俺は思っている」

「しかし、こちらには閣下がいます。閣下が率いるというのは何故選択にないのですか?」

「勘だが、俺が動けなくなる可能性が高いからな」

「……動けなくなる?」


 これは、俺の勘だから言えない。

 ただ、高確率で奴は突っ込んでくる。

 エルババは、そういう男だと俺は思っている。

 いや、信じていると言った方が良いかもしれないだろう。

 俺が沈黙したことで、諸将も押し黙った。

 そん中、黒騎士とローエンの二人が前に進み出てきた。


「閣下、我ら二人頂戴した役目をしっかりと果たしたいと思います。ただ、その前に――」


 ローエンはそう言うや否や、黒騎士の面甲を素早くはぎ取った。

 そんなローエンの暴挙にも、島津家久は微動だにせず、されるがままだった。


「やはり、この男でしたか……」

「気づいていたんだな?」

「流石に、あれだけヒントを頂ければ」


 ローエンはそう言うと、家久の前に面甲を置くと俺の方にかしずいてきた。


「私は、異存はありません。彼は、私達を少数の兵力で幾度となく撃退してきました。その手腕は見事と言うほかありません」

「では、今後は家久にも軍議に参加してもらう。諸将も良いかな?」


 俺がそう言って、周囲を見回すと誰一人異論を出す物は居なかった。

 いや、異論を出せなかったというべきかもしれない。

 これ以上の人選が無かったのもあるが、何よりも散々辛酸をなめさせられたのだ。


「では、家久とローエンの二人に軍を任せる。俺は、一部部隊を率いて遊軍として展開する」

「「はっ!」」

「作戦については、家久とローエンを主体として考えてくれ」


 そう言うと、俺は部屋をあとにした。

 後は彼らが話しやすいように、上位者である俺と居残り組のカレドは席を外したのだ。

 その足で、自室に戻る途中でカレドが急に話しかけてきた。


「アーネット。良かったのですか?」

「ん? あぁ、家久とローエンの件か? あれは事前に打ち合わせしていた芝居だ」

「芝居? なぜそのような事を?」

「そうだな、それが軍を再びまとめるのに必要だと思ったから、かな」


 カレドは、その一言で俺の考えていることを理解したのか、「なるほど」とうなった。

 今回の作戦は、一つのミスが全てを崩壊させる。

 いくら上位者の命令に従うように徹底しても、将や兵は自分で考えて動く人だ。

 どこかで亀裂が入るなら、それが作戦中に表面化するよりは、事前に分かっている方が楽というものだ。

 それに、あの二人は人を見ることにも長けている。

 誰が黒騎士に不満を抱いているか、誰が問題なく従うか、その判断ができると思っている。


「しかし、アーネットも思い切った賭けをするものですね」

「あぁ、俺もビックリしている。流石にここで負けたら終わり、なんて中々ないからな」

「全く……、自分は絶対に死なないという自信があるのですか?」


 カレドにそう言われて、俺は少し考えた。

 確かに、死というものを考えた事は一回もない。


「意外と人生は何とかなるものだからな。俺はそれを知っているだけだ」

「なるほど……。全く本能型の人たちは楽で良いですね」

「なんだ? お前も考えるのを止めたら楽になるぞ?」

「そんな状態で生き残れる、なんてうぬぼれられませんよ。まして戦場ではね」


 苦笑しながら肩をすくめてくるのだった。



今後もご後援よろしくお願いします。

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