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8-10

 そう言われて、前方に目を向けると、砂岩で出来た城壁で囲われた街が見えた。


「砂岩か? あれでは強度が保てないだろう」

「確かに、砂岩だったら城壁には不向きですね」


 俺達がそんな事を言っていると、先頭から伝令が走ってきた。


「敵が城を開城しました! 白旗を持った使者も見えます!」


 俺達が来たことで、何かしらの話し合いをしたいのだろう。

 そう考えた俺は、すぐさま使者を目の前に通すように命じた。

 それから数分後、俺の目の前に城からの使者が立っていた。

 使者は、中性的な顔立ちに不似合いな筋骨の逞しい体を体毛で覆われた、クマの様な見た目をしていた。


「使者殿、何用があってお越しになった?」

「エルドールの将、アーネット殿。我らは既に戦い、負けました。私どもは、ここに抵抗の意思が無いことをお伝えしたく来ました」

「……要するに、全面降伏をすると?」

「はっ! 我々はこれ以上の抵抗は致しません。それが我らの総意です」

「エルババはどうするのだ? もし、奴が帰ってきたら、怒り狂うのではないか?」

「恐らく怒り狂いこちらに攻撃を仕掛けてくるでしょう。ですが、既に彼の王に勝ち目があるとは思えません」


 使者はそう言い切ると、ため息を吐いて首を横に振ってきた。

 相当、業を煮やしていたのか完全に見切りをつけている。


「とにかく、我らには抵抗の意思はありません。もっとも、何人かの将を切らねばなりませんでしたが……」

「それが、手に持っているものか」


 俺がそう言うと、使者は「えぇ」とだけ言ってきた。

 どおりで生臭い訳だ。


「そちらの意思は分かった。では、城に我らは入るが略奪などは禁じる」

「英断感謝します。案内は私が行いますので、ご準備が整いましたらお願いします」


 使者はそう言うと、俺の前で一礼をしてきた。




エルドール王国 ディークニクト


「……ふむ」


 獣王国に派遣した、アーネットから報告が届いた。

 その手紙に、目を通していた俺が一息入れるとクローリーが声をかけてきた。


「陛下、手紙にはなんと書かれておりましたか?」

「アーネットが敵城を降伏させたそうだ。それも無血で」


 俺がそう言うと、クローリーを始めとした臣下がどよめいた。

 無血で開城させるのは、かなり困難な事だ。

 それをやってのけたのだから、臣下たちも流石に驚いたのだろう。


「それ以外には何か?」

「援軍が欲しいそうだ。流石に駐屯軍をあちらに置いておかねば、エルババと戦えないと言ってきた」

「援軍、ですか……」


 俺とクローリーの頭に、糧秣と言う重しが同時にのしかかった。

 獣王国に、兵を派遣するだけでもきついのだ。

 その上、援軍となると糧秣が持たないのは明白だ。


「一気にかたを付けてくれれば助かるが、そうでなければ……」


 最悪軍の崩壊だ。


「さて、どうしたものか……。条件付きで送るか?」

「条件付きとは?」

「会戦で一気に敵を片付ける、とか」

「それは、大丈夫なのですか? 私は、軍事にあまり詳しくないので何とも言えませんが……」


 そう言われて俺は、黙ってしまった。

 良くはないのだ。

 軍事において、制約を課すというのは身動きがとりにくくなる。

 身動きがとにくいということは、取れる作戦が限定されるということだ。

 流石にそんなことになれば、アーネットや黒騎士と言えど、負ける。


「帝国に食糧援助は?」

「無理でしょう。流石に攻囲された状態ですからね」

「確かに、まさかエルババが王都を放置して攻囲を続けるとは思わなかったからな」


 今回の作戦では、本来エルババが王都に迫る我が軍に焦って戻ることを想定していた。

 ところが、奴は戻らず帝都の攻囲を続けたのだ。

 そのせいで、こちらの糧秣がかなり危険域にまで達してしまった。


「北部の方はどうだ?」

「昨日陥落の報せが来たところです。どれだけ急いでも、1週間は糧秣が帰ってきません」


 流石に一週間も経てば、戦況が変わる。

 最悪、帝都を放置するか?

 しかし、そうなると……。

 俺が、チラリと視線を送るとエルフリーデがこちらを睨んでいる。

 帝都を放置しようとしていると思っているのだろう。

 俺は、ため息を飲み込みながら皆に聞こえるように話した。


「エルババの兵力は、3万。そのうち1万を、王都の援軍に差し向けていたはずだ。そして、それは撃破している」

「単純な計算なら、相手は2万ですね」

「その通りだ、宰相。よって我が軍の方針だが……」


 ここまで言ったら、ある程度予想できるのだろう。

 臣下たちが、ざわめき始める。


「敵王都より1万の軍勢で出発させ、残りを王都周辺の警備に回すように伝えよ!」


 ざわめきが、どよめきに、そして一人が大声を挙げた。


「陛下! アーネット将軍に死ねとお命じになるのですか!?」

「アーネットは死なん! そして、奴ならやってくれる!」


 間髪入れずに、俺がそう言い切るとそれ以上何も言えないと、臣下たちは黙った。

 正直、こんな方法をとりたくはない。

 だが、現状取れる策がこれしかないのだ。


「すまない、アーネット……」


 誰にも聞こえないように、そう呟くしかなかった。


多分、これくらいの頻度で更新になります。


今後もよろしくお願いします。


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