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ローエンが、部隊を下げ始めてから少しすると、こちらからは見えていなかった槍兵が出てきた。
「ほぉ! 槍兵を釣り出して、その横撃を避けたのか!」
「部隊運用で、あそこまでは中々動けないですね」
俺が、カレドと感心していると、今度は飛び出てきた槍兵へと攻撃を開始した。
「中々やるな。敵の援軍が薙ぎ払われていくぞ!」
敵も、突進が緩んだところを攻撃されてかなり慌てているのが見える。
冷静に周囲を見て、部隊を動かす。
昨日今日で、出来ることではない。
「これは、良い拾いものをされましたね。陛下は」
俺は、カレドがそう言うのを首肯しながら戦場を見続けた。
槍兵たちは、みるみるうちに各個撃破されていき数を減らしている。
ただ、こちらの兵は連戦続き。
そろそろ限界を迎えないかと、心配だ。
「ん? ローエンが引き揚げ始めましたね」
「判断が良いな。ある程度敵を倒したあとで、引き揚げるか」
普通の将なら、勝利の勢いに飲まれて突き進んでしまう。
それに、兵たちも勝利の高揚感から活動限界を知らない間に超えてしまうものだ。
その辺りを、見極められたのは素晴らしい才能と言える。
ローエンが引き揚げ始めて少しすると、敵の援軍が再び砦の前に立ちふさがった。
彼が退く判断をしなければ、敵の援軍と泥沼の戦いを演じていただろう。
「間違いなく、一軍を担える将だ。特に前線で踏ん張れるのは貴重だな」
「こうなると、作戦に幅が出ますね。特に黒騎士も加わった今なら、色々と試せそうです」
「ここは、サクッと終われそうだな」
翌日、敵に動きが出たことで予想よりも早く片付けられた。
前日の敗戦を引きずったのか、槍兵を前面に押し出してきたのだ。
もちろん、背面にも展開はしていただろうが、それでもこれまでの分厚さが鉄板なら、薄板くらいの厚さにはなっていた。
その脆く薄くなった背面を、こちらが攻撃を仕掛けたのとほぼ同時に、黒騎士が奇襲をしかけたのだ。
前後で挟まれ、しかも背面はほぼ突破された状態となった獣王国軍は、あっさりと崩壊し、潰走した。
この抵抗を最後に、獣王国の首都圏まで俺達は進軍することができた。
「もっと抵抗されるかと思ったんだがな……。国民全員兵士じゃなかったのか?」
俺が、少し不満気にそう言うと、カレドが横から声をかけてきた。
「それは、国家体制の問題でしょう。獣王国は、強者による統治ですからね。我らが強者であれば、抵抗はしてこないでしょう」
「しかも、将が圧倒的に不足しているとの情報もありました」
カレドと話していると、前からローエンが突然声をかけてきた。
「ローエン、最前線の部隊で指揮しているよう命じたはずだが?」
「黒騎士殿が、交代で指揮をとろうと言われましてな。くじを引いた結果私が今は休みとなったのです」
ローエンはそう言って肩をすくめると、俺の横に並んできた。
「なるほど、確かに指揮官が2人よりも、一人の方が面倒も無くて良いか」
「えぇ、特に私と黒騎士殿は作戦相性があまりよくないですから」
確かに、全体を見渡して軍を率いるローエンと、部隊を率いて一点突破する黒騎士ではそもそもの考えが違うな。
俺が納得していると、カレドがローエンの言葉の真意を問いかけた。
「ローエン殿、将が少ないと仰られたがどこの情報ですかな?」
「それはあの人たちですよ」
ローエンがそう言って、いくつかの場所を指差してきた。
「お前、気づいていたのか? 狐たちに」
俺がそう言うと、ローエンは首を横に振ってきた。
「いえいえ、私ではないですよ。黒騎士殿です。あの人の嗅覚どうなっているんです? 明らかに常人の動きを超えてますよ」
「まぁ、あれは相当おかしいと聞いているからな。陛下も勝てたのが不思議だと言ってたくらいだ」
「陛下は、あれと戦って勝ったのですか!?」
「ん? あー……、今のは聞かなかったことにしてくれ。あまりしゃべると俺が怒られる」
俺がそう言って、指を立てるとローエンが頷いてきた。
流石にこれだけ情報を渡せば、彼も気づいたのだろう。
あの男の正体に。
その証拠に、先ほどよりも遥かに声のトーンを落としてきた。
「ですが、大丈夫なのですか? 流石にバレたら諸将が」
「まぁ、怒るだろうな。その前になんとかって思っているのだろう」
俺がそう言うと、ローエンはそれ以上何も言わなくなった。
言うべきことを良い、聞くべきことだけを聞く。
それ以上は、何も言わないし聞かない。
こういう奴が、一番出世するのだろう。
「そんな事を話していたら、到着です」
大変遅くなりました(;´・ω・)
最近だいぶバタバタしております。
ただ、更新自体は今後遅くなっても最後まで続けるので、よろしくお願いいたします。




