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8-7

 夜半が過ぎたころ、突然陣内に置いてあった鳴子が鳴り響いた。

 得物がこちらの罠と知らずにかかった合図だ。


「さて、敵軍の来る方向は?」

「将軍の指示された方向です!」


 俺の問いかけに、近くに居た兵が直立不動で応えた。

 そんな兵の肩をポンポンと叩いて、俺はにこやかに命令を伝えた。


「かがり火はそのままに。兵は陣の奥に配置をせよ。また、配置につかせる時に声掛けは、必ず『準備を急げ』だけだ。それ以外の指示は、その声に被せて発する様に」

「かしこまりました!」


 俺の命令を聞いた兵は、すぐさま全軍に伝えるべく走り始めた。


「さて、泥棒猫退治といこうか」


 俺は、独り言ちると得物を持ってゆっくりと配置へと歩くのだった。




獣王国 白虎隊


「敵の陣内が慌ただしいです。もしかしたら夜襲を仕掛けるつもりかもしれないです」


 兎人族の男が、そう言って耳をそばだてる。


「先ほど切った糸は、特に何も聞こえないか?」

「流石に遠くて……、ハッキリとは聞こえないのですが、『準備を急げ』とだけは聞こえました」


 準備を急げ……。

 確かにそれだけなら、夜襲を仕掛けようとしているだけだろう。


「では、手筈通り我らは奴らの陣を襲い糧秣を一気に焼いて離脱する」


 私がそう言うと、全員が頷いてきた。

 今回連れてきたのは、全員獣人で構成した部隊だ。

 人族と違い、私達は夜目がきくこともあり動きやすいのだ。


 それからしばらくの間、敵陣に向かって私達は走り続けた。

 途中、何度か小休止と兎人族による長距離偵察をさせているが、特段何もおかしなところはないようだ。

 特に、陣内から物音はほぼしないという話だったのもあり、私達は完全に安心していた。


「敵陣内に肉薄しました。いつでも突撃できます」


 先頭を行っていた兎人族の男が、私にそう言うと頷いた。


「よし! 全員突撃!」

「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 奇襲をより効果的にするために、全員が一斉に鬨の声を挙げて敵陣に雪崩込んだ。

 だが、敵の出てくる様子は全くなく、かがり火だけが赤々と燃えていた。


「な、なんだ!? 敵が居ない!?」

「おい! 寝息は聞こえていたんだろうな!?」


 まったく敵が居ないとは、想定していなかった兵たちが動揺して兎人族の男を攻め始めている。

 もちろん、男の方も寝息が聞こえていたと言い返しているのだから、本当なのだろう。

 ただ、現実問題としてかなり危険な状態かもしれない。


「とにかく、敵の糧秣を焼けば我らの勝ちだ! 急いでさが――」


 私が言い終わる前に、ビュっという風切り音と共に矢が足元に飛んできた。


「そんな事、させる訳ないだろ?」


 そう言って出てきたのは、片手に頭のおかしい鉄の塊を持った容貌魁偉の男だった。


「おい、あれ……」


 その鉄の塊を持った男を見た瞬間、数人の兵が怯えの色を見せた。

 そして、私自身も聞いたことがある。

 獣人としてのプライドを捨てて良いと言われる、当代の豪傑の名を。


「あ、アーネット……」


 猫人として、逃げるのは本来性には合わない。

 私自身、対峙するまでは逃げるなんて恥だと思っていた。

 だが、目の前に本人を見た瞬間……、震えが止まらないのだ。

 圧倒的な圧力、強者の醸し出す強烈な殺意。

 それが、まるで奔流のように押し寄せてきているのを感じる。


「なんだ? 俺を見ただけで戦意喪失かよ!」


 男は不満そうにそう言いながらも、こちらに対して歩み寄る足は止める気配がない。

 その近づいてくる様は、まさに死神が鎌をもたげてこちらに歩み寄っているかのようだ。

 そんな圧力を受け続けていたのだ、兵の中には気の狂い始めた奴が出始めた。


「う、う、うわぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁっぁ!!!!!」


 突然、兎人族の男が後ろに向かって走り始めたかと思ったら、次の瞬間一緒に来ていた数十人の兵が、突撃を開始した。

 一人に対して、数十人で一斉に走り始めたのだ。

 だが、そのターゲットにされている本人は……。


「笑っている、だと……ッ!?」


 次の瞬間、私は目を疑った。

 否、疑ったなどと生ぬるい。

 信用すらできなかった。

 何せ、一斉に飛び掛かった兵たちが、一撃で半数がはじけ飛んだのだ。


「あ、あぁぁぁぁ……」


 その光景は、私の逃走本能を駆り立てるに十分な光景だった。

 一拍の時も置かずに、私の足は先ほどの兎人族の男顔負けの逃げ足を披露していた。

今後もご後援よろしくお願いいたします。

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