8-4
獣王国 アーネット
「敵軍接近! 数、およそ3万!」
偵察に出していた兵から、接近する部隊の報告があがった。
こちらの軍が2万程度、それに対して相手が3万ときた。
「敵兵の構成はどうなっている!?」
「構成は、獣人が1万程度、人族が2万程度です!」
「装備その他は!?」
「獣人が、強襲歩兵及び騎馬隊で構成されていますが、人族は装備もまばらな歩兵のみです」
報告を聞いたのと同時に、俺は納得した。
恐らく、道行く中で人族を適当に徴兵したのだろう。
何せ、俺達が獣王国に入ってまだ1ヶ月も経っていない。
いくら強行軍をしても、兵の編成を考えればもう少しかかっているはずだ。
それが、今目の前に来つつあるということは……。
「敵軍はかなり無理のある行軍をしてきたな」
俺がそう言うと、黒騎士が隣で頷いてきた。
不気味な髑髏の面甲を下げたままだが、こいつが頷くならそうなんだろう。
「そうなると、奴らが見えた瞬間に襲い掛かるのが良いだろう」
再び黒騎士は、頷く。
声は一切出さない。
と言うよりも、出せない様にしてある。
あまりにしゃべり方に特徴があるので、当面の間は音を漏らさない魔法をかけられている。
「接敵はいつになる?」
「恐らく夕方になります」
「では、こちらは陣を作っていつでも休めるようにしておけ。敵が見えたら、問答無用で開戦だ」
今度は、黒騎士は頷かずにグッと親指を立ててきた。
これは、ディーと決めていた一番いい考えの時に出す合図だ。
「では、兵の編成だが……。黒騎士には2千の騎馬兵を率いて自由に動いてもらう。適時、敵の隙を突いて動き回ってくれ。こちらの呼吸に合わせてくれてもいい」
俺がそう命じると、黒騎士は頷いてきた。
これで、騎兵は安泰だろう。
「歩兵に関しては、先陣をトリスタン。中軍を俺。後軍をカレドに任せる。後軍のカレドは陣地設営を最優先にしながら、戦況によっては参戦してくれ」
俺が指示を出すと、カレドとトリスタンは「おう」と返事し、黒騎士は再び頷いてきた。
獣王国 黒騎士
アーネットからん指示で、おいは騎兵を率いちょった。
報告に聞いちょった敵ん位置を確かむっ為に、2千ん騎兵で森ん中をゆっくりと走っちょっ。
ちゆよりも、ゆっくり走らざるを得らん状況ちゅうべきか。
恐らく今、襲われればおい達はひとたまりもなっけしんじゃろう。
そげん事を考えながら前方を見ちょっと、森ん切れ目でないかが動っのが見えてきた。
おいが、片手を挙げて馬を制止させっと兵たちもそいに合わせて止むっ。
「黒騎士殿、如何なさいましたか?」
部隊ん副官としてちてきた髭面ん男が、止まった意図を尋ねてきた。
おいは、せつに対して前方に指を指し合図を送っ。
「前方に敵ありですか? おい、そこのお前! 下馬して見てこい」
おいん合図を的確に読み取った男は、野太か声で近くに居た兵に命令を出した。
ただ、敵が居っちゅうおいん感覚だけは分からんのか、若干訝し気な顔もしちょっ。
まったく、嘘が付けん男なんじゃろう。
おいがそげん事を考えながら見ちょっと、男も気ぢたんじゃろう。
「性分ですんで、気を悪くせんでください」
とだけゆてきた。
まったく、不器用そうな男や。
おい達が、そげんやり取りをしちょっと物見に走った兵が戻ってきた。
「敵兵、確かに前方に居ました。それもかなりの部隊です」
「かなりとはなんだ? 正確に報告せんか」
「はっ! 申し訳ありません。ただ、敵兵に発見されずに見ようとしますと、奥が見通せませんでした」
「だそうですが、如何いたしますか?」
髭面ん男は、報告をそん場で聞いちょったおいに意見を求めてきた。
そん顔は、どこかおいを試しちょっごつも見ゆっ。
おいは、そげん男からん挑戦を受け流して親指で後ろを指した。
「後退すると? ここで待機して奇襲という手もありますが?」
なおも、男がそうゆとおかは首を振って否定した。
こげん所から奇襲してん意味はなか。
騎馬ん長所を殺しては、せっかっん騎馬隊が台無しや。
「かしこまりました。兵たちを後退させます」
男は、おいん意思が固かことを汲んで後ろへと下がっごつ指示を出したんやった。
今後もご後援よろしくお願いいたします。




