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8-1

エルドール王国 ディークニクト


 クルサンドとの戦いから1か月。

 やっとのことで俺達は王都に戻ってきた。

 もっとも、戻ったのと同時に問題が出ては来たが……。


「どういうことだ? これは」


 俺は、一通の手紙を見て声を震わせた。

 俺の目の前にあったのは、帝国からの手紙である。

 いや、手紙などと生易しい物ではない。

 命令書と言うべきものだろう。


「帝国は何を考えているんだ? クローリー、これはいつ来た?」

「そちらは、一昨日届きました。なんと書かれていたのでしょうか?」

「……あいつら、何を勘違いしたのか獣王国に喧嘩を売りやがった。それも俺の名で」

「え!? 獣王国に!? このタイミングでですか!」

「あぁ、しかも奴ら獣王国から領土を取り戻すまで、合併の話も無しだと言い出しやがったぞ」


 それを聞いたクローリーは、あまりのことに天を仰いだ。

 ただ、頭の中では色々と考えているのだろう。

 こちらに向き直ったのと同時に、進言を始めた。


「国王陛下、我らは先日のクルサンドへの大遠征で出費がかさんでおります。今から獣王国を相手にするのは、骨が折れるでしょう」

「あぁ、国庫についてはお前の方が詳しいだろう。だが火の車であるという事は、報告書を見ればわかる」

「ですので、今回の一件。獣王国が攻めてこない限り我らは何もしないというのは如何でしょうか?」

「ん? 何もしないというのは?」


 俺が訪ね返すと、クローリーは声を潜めて話し始めた。


「こちらに非が無い、と言葉で言っても獣王は納得しないでしょう。ですが、そこに行動も伴っていたらどうです?」

「国境の防備は通常のままで交渉をすると、なるほどそれなら戦争をする気は無いと言えるな」

「そして、もう一つ。帝国には出兵の話を了解したと言っておくのです。ただし、我らの兵糧などの問題もあるので兵を数万獣王国との国境に配備して欲しいと」

「なるほど、確かに獣王国から見れば書状の上では我が国の名になっているが、実質送られたのも、戦争の準備をしているのも帝国になる。獣王国には、帝都に手を出さなければ後は好きにしろと、ともいえるな」

「流石にそこまで行くと、我々が統治する際に面倒となりますので言いませんが、暗ににおわせておくのが良いかと」

「よし、良いだろう。返信や親書の文面を考えておけ」

「かしこまりました」


 それから数ヶ月後。

 俺達の予想通りの展開になり始めた。

 帝国と獣王国の睨み合いである。

 国境付近に兵を配置した帝国は、獣王国が自分たちに来たことで慌てたようだ。

 数日前から再三の出陣要請が来ている。

 もちろん、こちらとしては恩を着せる為に既にバハムートを先行して出発させている。

 2機のバハムートと満載した火力は、獣王国が引き返すのには十分な戦力だ。

 また、獣王国には圧力をかける為に国境付近で兵を待機させた。

 約束を反故にはしないが、気持ちの悪い位置に約2万の兵を配置したのだ。

 これで後は獣王国が下がるのを待つばかりだった。

 だが、事態はそうならなかった。


「帝国に派遣していたバハムートが帰国しました。ただ、面倒な事になりました」

「面倒な事?」


 俺が問い返すと、クローリーは話を続けてきた。


「帝国の首都が陥落し、皇帝以下数名が死去しました」

「なに!? 睨み合いをしていて、こちらの存在も見せていたのにか!? それに1週間前の報告では獣王国は下がったと」

「はい、どうやら帝国側が領土を取り戻す好機と考えて深追いをしたようで……」


 その報告を聞いた俺は、頭を抱えた。

 恐らく軍上層部は、反対しただろう。

 特に帝国の国防将軍であるアイゼナッハなどは、敵の偽装退却などを読める人物だ。

 それが居て負けたとなれば……、皇帝あるいは皇族などの暴走か、大貴族の横やりだろう。

 そうでなければ、アイゼナッハ将軍が無謀な出征を許可する事はない。


「ウルリッヒとアイゼナッハは無事か?」

「それが、ウルリッヒ将軍は皇女と一緒に亡命してきたのですが……」

「アイゼナッハは死んだのか?」


 俺がそう言うと、クローリーは首を横に振ってきた。


「そうではありません。ですが……生死不明ではあります」

「生死不明か……」


 俺はそこまで聞くと、深くため息を吐いた。

 状況から考えても、恐らくアイゼナッハは死んでいる。

 最前線に居たか、皇女を逃がすために必死に戦っているだろう。


「とりあえず、皇女とウルリッヒ将軍をここに」

「かしこまりました」


 それから数時間後、皇女とウルリッヒ将軍を迎えた。

 皇女は、まだ幼く11~2歳程度というくらいだった。

 だが、立ち居振る舞いはしっかりしており堂々と俺の前で会釈をしてきた。


「お初目にかかります、ディークニクト様。ランドバル帝国シャムロックが一子。エルフリーデと申します」

「私がエルドール王ディークニクトです。どうぞ楽に」


 俺が、そう言って椅子を勧めると彼女は立ったままこちらに向かって声を挙げてきた。


「ディークニクト様! 私は、のんびりとお茶をしに来たのではありません! 今すぐにでも出兵を! 彼の獣王国を討ち滅ぼしてほしいのです!」


今後もご後援よろしくお願いいたします。

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