7-30
――ガキィン!
高い金属音が、俺の目の前から響いた。
そう、俺の得物である剣が真っ二つに切り裂かれたのだ。
「こいで……終わりだぁ!」
家久が、俺の頭目掛けて振りかぶる。
このままでは、頭から真っ二つになってしまう。
そう思った俺は咄嗟に距離を詰め、手に持っていた剣の柄で相手の右手を強打した。
「がぁっ! きさん!?」
本来の具足であれば、籠手は守られていたであろう。
だが、奴は俺達を沼地などで仕留めようとしていたのか、軽装だった。
それが仇となったのだ。
「流石に痛かろう。折れては居ても、鉄だからな!」
「ぐぅぅぅ!」
家久は、利き手を負傷したことで、振り上げた刀を中段に戻した。
上段からの打ち下ろしは、威力こそあるが外せば隙が大きい。
その隙を、奴は利き手の返しで補っていたのだ。
「ただ、いくら利き手を封じても左一本でもふれるだろうな……」
そんな事をぼやきながら、俺は奴の刀を観察していた。
軽く反った60㎝程度の刀身、典型的な打刀というやつだ。
恐らく、家久ほどの奴なら片手でも扱えるだろう。
そう考えると、相変わらず俺の不利が続いている。
「右の手を添えるだけにしているから、多分折れているか握力が無くなっていると思うが……」
俺と家久が対峙して、数分の時が経った。
周囲は相変わらずの喧騒で、あちこちで剣戟の音が響きわたっている。
俺が今襲われていないのは、周囲を味方の兵が守っているからだ。
おそらくだが、対峙した感覚からしてそろそろアーネット辺りが突っ込んできそうだが。
俺が、そんな事を考えていると、家久が声をかけてきた。
「きさん、おもしてかね。おいん刀を受け流し、武器を破壊されてなお、組打ちに来っ。どこぞで組手甲冑術も修めてそうじゃな」
「あぁ、祖父が変人でな。戦の方法に甲冑術にと幼いころから叩きこまれていたよ」
「そんた、えおじいだ」
家久は、二カッと一瞬笑ってから真顔に戻った。
恐らく、最後の一撃と覚悟したのだろう。
俺の方も、武器の関係から考えるとこれを取り逃せば、死ぬだけだ。
互いに、ジリジリと距離を詰める。
いつでも飛びつけるように、すり足でにじり寄るのだ。
お互いに距離を詰め、そして後数歩という所でピタリと止まった。
間合いだ。
素手の俺の間合いは、後数歩先。
だが、刀のある家久の間合いはここ。
俺にとってはかなり不利な場所だが、致し方ない。
これ以上入れば、即やられる可能性がある。
俺達は、互いにけん制し合いながらその場で停止する。
微かに体を揺らしながら動きを探っているが、全くと言っていいほど隙が無い。
我慢は互いに慣れっこ。
実力は、恐らく武器万全な分家久。
俺にあるのは、魔法くらいだが……。
「発動の瞬間が、一番隙だらけだからな」
ドロシーの様な生粋の魔法使いなら、魔力を練ってから発動までのラグが少ない。
だが、俺の場合はラグが大きく正直実戦で使うには、それなりに練らなければならない。
そんな代物を、この調子近距離で使うなんてできないのだ。
俺のそんな思惑など家久にとっては、何事でもないのだろう。
一瞬動きが止まったのを見て、刺突を繰り出してきた。
俺は、慌てて彼の間合いの外へと逃げる。
しかし、流石に使い手の刺突だけある。
完全に避けたと思った、肩口からわずかにジワッと血のにじむ感覚と痛みが襲ってきた。
「くっ……」
「おいを目ん前に考え事とは、わっぜ余裕を見せてくるっな?」
警告? いや、本気で突きに来て外したのだろう。
ただ、次は危ない。
俺は、気を引き締め直した。
一切の妥協なく、一切の執着を捨て、死を受け入れながら突き進む。
覚悟を決めろ。
そう自分に暗示をかけて、俺は再び家久の刀の前へと移動した。
そして、今度はそこで止まらずに更に1歩踏み込む。
――ビュオッ!
刀が風切り音を挙げて、俺の首筋目掛けて飛び込んでくる。
それも、斜め下から。
俺は、それを最小限度の動きでかわすと、打ち上げられた刀の柄頭を押さえて左手を取る。
こちらの意図に気付いた家久は、その瞬間左手で持っていた刀を手放し、柄頭を押さえようとした右手を掴んできた。
互いに、互いの腕を抑え合う形となった俺達は、動けない状態になってしまったのだ。
「ぐっ……! くそっ!」
「手を放せ!」
そこからは、互いに組打ちである。
俺の腹を家久が蹴ろうとし、俺は左手を放して防御する。
足が下がれば、今度は俺が奴の顔面目掛けて左を出す。
家久は、俺の持っている右手を動かして左が上手くはいらないように邪魔をしてくる。
俺達が、そんな事を繰り返しながら、戦っていると後ろから声が聞こえてきた。
今後もご後援よろしくお願いいたします。




