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1-18

第二王子軍 ネクロス


 非常にまずい事態に陥った。

 敵が夜襲をしかけてきたのだ。

 それもあり得ないと思っていた正面から。


「オルビス殿下の行方はどうなっている!? 急ぎ支度をせよ!」


 先ほどから何度目かの激を飛ばしているが、反応はやはり鈍い。

 兵たちは明日の朝が決戦だと思っていた為、心の準備ができていないのだ。

 しかも、敵の夜襲で前線が崩壊しつつあるという情報も入って猶更であった。


「ネクロス様! オルビス殿下の使者が参りました!」

「すぐさまお通しせよ!」


 良かった、殿下はまだ存命だ。

 急げば間に合う!

 そう思っていたのだが、入ってきた使者の様子からかなり予断を許さない状況だと分った。

 何せ、彼は敵との戦闘をしたのであろう、返り血と傷にまみれていたのだから。


「殿下は!? オルビス殿下は無事なんだろうな!?」


 思わず吠えてしまった為、使者が一瞬驚き身を固くした。

 ただ、使者も固まっているばかりでは話にならないと思ったのだろう、状況を話し始めた。


「私が飛び出した時には殿下はご存命でした。しかし、殿下の命を受けてこちらに移動する最中に敵騎兵に見つかり、何とか命からがらやってきたのです。殿下は天幕の近くで500に満たない兵と共に居ります! どうか早く救援を!」


 そう言うと、使者は倒れてしまった。

 恐らく最後の力を振り絞ってしまったのだろう。

 使者のその責任感と忠勇にしばし瞑目して祈った俺は、すぐさま準備の整っている兵を率いて出発することにした。


「殿下の御身に何かあってからでは遅い! 準備のできた者から順次行くぞ!」


 



子爵軍 ディークニクト


 敵軍の中腹までやってきた俺達は、一塊になっている集団を発見した。

 

「ほう、この敗走の最中に兵をまとめて方陣を組むとは……」

「敵ながらあっぱれですな」


 俺の隣で聞いていたキールが相槌を打ってきた。

 だが、のんびりと眺めている訳にはいかない。

 方陣を組み続けられては面倒なので、とりあえず持ってきた弓で敵を撃つことにした。


「大きいと思っておりましたが、また長大な弓ですな」


 俺が取り出した弓を見てキールは驚いた顔をした。

 それもそうだろう、俺の弓は人の身長の半分はある大きなものだ。

 エルフの里でも弓はショートボウなので、かなり長大な弓と言えるだろう。

 これは、粘り気のある木材を中心に幾重にも重ねて作った和弓もどきだ。

 扱うのに相応の技術が必要だし、まして馬上で扱うとなると至難だ。

 まぁ、俺は流鏑馬も多少嗜んでいたので問題ない。

 

「一人、二人死んでもらおう」


 矢を番え、弓を構えた。

 キリキリという音と共に引き絞り、最大限まで引き絞った所で狙いを定めて放つ。

 ひゅっ! という風切り音と共に敵の方陣の一角に居た男の額に当たる。


「ひっ! 矢が兜を貫通したぞ!」


 倒れた味方を見た敵兵に動揺が走るのが分かる。

 しかし、それも一瞬だった。

 後ろから督戦する者が居るのだ。


「怖気づくな! たまたま兜の隙間に入っただけだ! しっかりと守っていれば当たることは無い!」


 そう言って喝を入れた瞬間、敵兵の目の色が元に戻る。

 この土壇場で持ちなおせるのは、賞賛に値するだろう。

 俺が一人感心していると、キールが横から声をかけてきた。


「ディークニクト様、あれは恐らくオルビス様かと。……如何なさいますか?」

「できる事なら生け捕り、難しいなら殺すしかあるまい」


 俺がそう言うと、キールは白い口髭をゆがめてきた。

 どうやら、キールの合格をもらえたらしい。


「では、どうやって捕まえられますかな? 敵は方陣を完全に敷いております」

「確かに、面倒極まりないな。キールには何か考えがあるのか?」


 俺がそう言って彼に尋ねると、聞かれることが分かっていたかのように淀みなく答えてきた。


「さすれば、私めにお任せを。彼らの方陣を崩してご覧に入れましょう」

「方法は内緒か……。良いだろうキールに任せる」


 俺がそう言い切ると、キールは騎馬を方陣目掛けて駆った。

 相手が単騎で突っ込んできたのを見た敵は、一瞬驚いた様な動きをしたが、すぐさま槍衾を形成する。

 その槍衾に向かってキールは突っ込んでいくが、すんでの所で騎馬の鞍に足をかけ、飛び上がった。

 一瞬何が起こったのか状況判断ができず、俺も兵も敵も唖然として彼を見上げていた。

 高く舞い上がったキールは、空中で体を捻り、伸身新月面(ムーンサルト)で着地した。


「て、敵襲!」


 敵の叫びとほぼ同時に、敵の方陣が一斉に崩れ去った。

 当たり前だ。

 方陣の内部に入られては、攻撃ができない。

 入られた瞬間に方陣を解いて、侵入者を撃退しなければ自分たちが死ぬのだ。


「敵が方陣を解いたぞ! 突っ込め!」


 もちろんその隙を見逃してやるほど俺も甘くない。

 敵が包囲を解いた瞬間騎兵隊が突撃し、乱戦状態となった。

 敵兵も槍を捨て、剣を持って抵抗しているが、動きが鈍い。

 方陣を破られた時点で、敵は戦意が喪失したのだ。

 繋ぎとめていた最後の気持ちを切って捨てられた敵は、次々と降伏するか、逃げ出し背中から切られていった。


「ち畜生! 貴様さえ居なければ!」


 そんな中、オルビスは雄叫びを上げながらキールに切り付ける。

 キールはそれを半身でかわしざまに首筋に手とうを一閃入れる。

 

「かはっ!」

 

 手とうを入れられたオルビスは、その場にバサリと倒れ伏した。


「敵将オルビスを捕えたぞ! 無駄な抵抗は止め降伏せよ! 武器を捨てぬ者には容赦せぬぞ!」


 この宣言で、敵の大多数は捕虜となり、残り少数は後方のネクロスの元へと走って行くのだった。



次回更新予定は6月11日です。


今後もご後援よろしくお願いいたします。

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