7-29
クルサンド国 ディークニクト
アーネットが突撃してしばらくすると、周囲から一斉に鬨の声が響いてきた。
「敵将を倒せ! それ以外の首は要らぬ!」
「敵将ディークニクトを倒せ!」
なんと分かり易いことか、敵の狙いは俺一人に絞った一点突破だった。
「周囲に方陣で構える余裕はない! 全員出来る限りの範囲で近づいて、敵を討て!」
「おぉぉぉぉっ!!!」
敵を逃さない様に、陣を広く展開していたのが仇となった。
俺の近くに居る兵たちでは、恐らく足りないだろう。
というか、このままでは正直危ない。
「いいか! 周囲に兵は居る! まずは自分が死なない様に、時間を稼ぐことだけを考えろ!」
できる限りで良い。
俺は、そう願いながら兵たちに指示を出した。
既に周囲は、敵兵にほぼ囲まれている。
俺が周囲を見回していると、一人の浅黒い敵兵が近づいてきた。
「島津中務大輔家久! 敵将と一騎打ちを所望すっ!」
一騎打ちは、圧倒的不利な立場が、圧倒的有利な立場に交渉の為にする事だ。
現状あいつが考えているのは、こちらを圧殺しきれなかった時の為に罠をはって俺を確実に殺す為だ。
「こちらに一騎打ちをする必要なし! もししたいなら軍を引き、場を設けてすべし!」
「笑止! そちらに交渉ん余地があって思うとな!?」
「ならば物別れだ! 兵の武勇にて決着をつけられよ!」
俺がそこまで言うと、家久は背を向けて兵の中に戻って行った。
「陛下、敵の包囲の一角が薄くなっております。あちらを突破すれば危機を脱するのでは?」
俺が家久と話し終るのを待って、兵が敵陣の一角を指し示した。
もちろん、周囲を見回した時に俺も気づいている。
だが、あれは明らかに罠なのだ。
「あそこに向かえば、俺達は味方と完全に離されて圧殺される」
「しかし、現状でも圧殺されかかっています!」
「このままなら、圧殺はされない!」
そう、このまま行けば、相手の包囲が徐々に薄まって味方との合流地点が近くなる。
逆にさっき兵が言った場所へと向かえば、味方と離されて余計に危なくなるのだ。
「良いか! 敵の最も包囲の厚い場所を狙って攻撃しろ!」
「敵の包囲の厚い場所を!?」
「いいから行くぞ!」
兵が更に不満を言おうとしていたが、俺はそれを聞かずに包囲の厚そうな場所へと向かった。
確かに一見すると厚いが、所詮はこちらを包囲しながら反対側でも戦っているのだ。
そうなれば、包囲の厚さは半分以下。
下手をすると一番薄いところと変わらない。
ただ、兵たちがそんな事を理解するはずもなく、大将である俺が率先して動いているからついて来ているだけだ。
もちろん、そんな事情を敵は斟酌してくれない。
先ほどから、俺が先頭で戦っているのを見て敵兵がひっきりなしに押し寄せてくる。
剣を、槍をかわしながら反撃を入れている。
アーネットの様な派手さはないが、一撃一撃で相手の急所を叩いているので、バタバタと敵兵が倒れている。
「なんでこいつ倒れねぇんだ!」
「畜生! ちょこまかと避けやがる!」
そんな罵声を聞きながらも、俺はヒラヒラと避けては急所に入れて敵を屠っていた。
もちろん、俺の周りの兵も俺がいなしてバランスを崩させた敵に止めを刺したり、周囲を守りながら動いている。
不平を言いつつもこれだけ動けるのだ、アーネットの調練に感謝しかない。
そんな事を考えながら、俺が包囲の一角を崩そうと動いていると、流石に我慢ならなくなったのだろう。
敵将である家久が出てきた。
「これ以上好きにはさせん! こん島津中務大輔家久が相手になろう!」
そう言って、刀で俺の胴を目掛けて斬りつけてきた。
それを俺は、剣の刃で受けずに腹でいなすように受け止める。
刃先が滑ったのを見て、家久はすかさず飛びのく。
「流石に返す刀、とはいかないか」
「きさん! 刀を知っちょるんか!?」
俺の動きに驚いたのだろう。
それもそのはずだ。
こちらの製鉄技術では、折り返し鍛錬をした刀に勝てる物はない。
それに、刀自体を知らないのだ。
そうなれば、相手の武器を破壊する為に動こうとするだろう。
まして、こちらの剣の方が太ければ、なおさらのなのだ。
「生憎と、俺もその辺は情報を仕入れていてね。としか言えないな」
「ちぃぃ! 面倒な!」
家久はそう言うと、刀を大きく右上に突き出した右甲段構の形を取った。
「一撃で勝負をつける気か……」
「タイ捨流まで!? きさん何者や!?」
「言っても分からねぇよ。……ご先祖様」
ボソッと俺が呟いたのを合図に、家久は右甲段から一気に刀を叩き落としてきた。
それを剣でいなしてかわした俺は、勢いをそのままに胴に一撃を入れようと切り払う。
だが、またしても剣が家久の胴を掴むことは無く、硬い感触が手に伝わってきた。
「あそこから刀で防御しただと!?」
「きさんにできて、おいにできらんとは思わん」
俺は、急いで家久の傍から距離を取ろうと後ろに飛びのいた。
だが、俺のそんな動きを読んでいたのだろう。
俺が飛びのくのと同時に、こちらに向かって突っ込んできた。
次回からの更新は、書けたら出すにします。
恐らく朝方になると思うので、よろしくお願いいたします。
今後もご後援よろしくお願いいたします。




