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エルドール王国 ディークニクト
北を目指した俺達は、帝国領内を通過していた。
一応、事前に帝国には軍を通すことを約している。
ただ、まぁ規模までは全く通知していなかったので、関所という関所で驚きを持って迎えられる。
そして、肝の据わった関所の太守には小言まで言われる始末である。
「ディークニクト陛下、クルサンドを攻めるとお聞きしておりましたが、まさかこの様な大軍とは」
「うむ、すまないと思っている。だが、今回の事は失敗も許されんからな。軍の規模などはできる限り伏せたかったのだ」
俺がそう言うと、関所の太守もため息交じりに仕方がないと通過書に印を押す。
それを受け取った俺は、軍へと戻った。
ここを抜ければ、そこから先はクルサンド国となる。
「全軍に通達しろ、相手は必ずこちらを挑発して軍を分けるように仕向けてくる。攻撃をされたとしてもむやみに追うなと」
「こちらが勝っている場合はどうしますか?」
「勝っている場合もだ。相手は、我々を隘路に誘い込んで始末したがるはずだ。そんな事に付き合う必要性は全くない。我々は着実にクルサンドを攻略し、村落を吸収しながら進めばよい」
「勝っても追ってはならないのですか?」
「そうだ、理由は先ほど言ったとおりだ。しっかりと命令を徹底させろ。もし命令違反が分かれば、厳罰に処すと指揮官には通達しろ」
「かしこまりました!」
俺が伝令官に命令し終えると、アーネットが近寄ってきた。
「陛下、勝っていても追ってはならぬでは功を挙げたい者が焦れませぬか?」
「確かに焦れるだろう。だが、そこで追われては、こちらの全てが終わってしまいかねない」
「と言いますと?」
「相手は、こちらを切り取って士気を挙げ。こちらは、切り取られて士気も下げることになる。そうなったら、勝敗の行方が完全に傾きかねない」
「なるほど、確かにそれもそうですね。失礼をしました」
言いたい事を言い、聞きたい事を聞き終えるとアーネットは再び少し後ろに控えた。
この行軍中、付かず離れずを保ちながら彼は俺の警備をしている。
本来なら、将軍と言う役職ではなく俺の留守中に代理で統治させていたかった。
だが、本人が頑としてその要請を拒否したので、しかたなく連れてきている。
「さて、後はいつどこで攻めてくるかだな。夜間警備の兵は、交代で選出する様に従軍している文官たちに通達してくれ。恐らく夜襲なども平気で行ってくるだろう」
「夜襲ですか? しかし、あれは相当訓練しているかある程度ルートを限定していないと難しいのでは?」
「だからこそ、やってくる。必ずだ」
疑問を口にした将官に、俺が断言してみせると彼はそれ以上言わずに通達を文官に送った。
正直、俺ができること考えられることは全てやってくると考えている。
ただ、それをいつどのタイミングでやってくるのか、それがどうしても読めないのだ。
そんな命令を出しつつ、初日の野営の準備をさせていると突然前方から剣戟の音が響きわたった。
「何事か!? すぐさま調べろ!」
音が響いたのと同時に、本営周りに兵が集まり守備を固めた。
それから数分して、駆けだした騎馬が戻ってきた。
「報告! 前方で敵襲! 数は不明ですが、部隊が混乱しております!」
「すぐさま救援にむかえ! 相手が退くまでは交戦! 退いたらその場で待機せよ! 野営を少し下げて設営させろ」
その後、小競り合いはすぐに終わった。
こちらの増援を見た敵がすぐさま後退し、遠巻きにこちらを見るだけになったのだ。
「敵勢力後退しました。その後、我らを挑発する様に地面に寝そべっております」
「無視しろ。相手が攻めてこない限り、一切の手出しをするな」
「はっ!」
まったく、嫌な手を早々に打ってくる。
とりあえず、相手が諦めるか、こちらの将兵の我慢が尽きるかの勝負だな。
そんな事を考えながら、初日から早くも攻防が始まるのだった。
次回更新予定は5月12日です。
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