7-16
クルサンド国 クルクス
ナカズカサ殿から早馬が来た。
敵の総大将と思しき男をやったと。
それが本当なら、まさに大金星。
彼の大国が揺らぐ可能性がある。
今後の事を考えながら、ナカズカサ殿が合流するのを待っていた。
数日後、彼が作らせた首桶を掲げて戻ると嬉しそうに見せてきた。
「おまんが言ちょった、齢百を超えた大将首ってゆたぁこれじゃろ?」
そう言って首桶から出てきたのは、見た記憶がない年寄りの物だった。
「いや、これはエルドール王の首ではない」
「え? いや百超えてそうな首は、これだけやったぞ」
「耳の長いもっと若い見た目の奴はいなかったのか?」
「耳長……、あぁ戦場にいっつか落ちちょったな」
「まさか放置してきたのか?」
私がそう言うと、ナカズカサ殿は首を横に振って袋から何かを取り出した。
細長く、色白のそれは耳だった。
手に取ってそれが何か分かった私は、一瞬奇声を発してしまう。
「ひぃっ!? み、耳!?」
「はははは! おまんは、意気地がなかど」
まったく、笑わなくても良かろうに。
というか、誰だって耳だけを急に出されたら驚く。
「耳は分かった、だが体や首はどうしたんだ?」
「体も首も燃やして埋めたが?」
それを聞いた、私は天を仰いだ。
これで確認はできなくなった。
もしも、エルドール王が生きていたら、恐らく報復にやってくるだろう。
「ナカズカサ殿、恐らく敵がこちらに報復を仕掛けてくるだろう。その際に卿に軍を率いてもらいたいのだが……」
「良かじゃろう。大船に乗った気で居てくれ。島津ん軍法見せてやっ」
ナカズカサ殿は、そういうと胸をドンと叩いて見せるのだった。
エルドール王国 ディークニクト
這う這うの体で逃げ帰って数日。
キースの死を正式に発表した。
そして、帰ったのと同時に放っていた密偵からの報告を前日に受けていた俺は、軍議を開いた。
「さて、先日キースが死んだことが密偵の報告で分かった。完全に俺の判断ミスだった」
俺が、冒頭そう言って謝ると臣下たちも悲しみに満ちた表情をしていた。
エルフも人も、ここに居る臣下たちで世話になっていない者は居ない。
「今後の方針だが、相手を賊ではなくクルサンド国とする。理由は簡単だ。奴らはキースを討った賊と繋がっていたという報告が上がってきている」
「賊の名前は、判明しているのですか?」
「あぁ、その辺は密偵が情報を集めてきた。島津中務大輔家久、通称ナカズカサと呼ばれている」
俺がその名前を言うと、辺り一面がシンとした。
それもそうだろう、エルドール王国の伝説的英雄であり、中興の立役者なのだ。
もっとも、前回の島津は俺だが。
そんな事を考えていると、アーネットが立ち上がってきた。
「相手がシマヅを名乗っているが、伝説の英雄ほどではなかろう。それに、こちらにはクルサンドに数倍する兵力を有しているのだ。恐れる必要はない!」
「確かに、アーネット将軍も陛下も居られる。数を揃えれば、そう簡単には負けますまい」
アーネットの発言で、場の雰囲気は一気に変わった。
だが、少し楽観的過ぎる方向に向かっているので、釘を刺しておかねばならない。
「確かに伝説の英雄ほどではないだろうが、それに比肩するくらいの実力はある。各々が役割を十全に果たさなければ勝つことは難しいという事だけは、理解しておいてくれ」
「確かに、油断は最大の敵ですね」
俺の意見に、カレドが賛成を示し先ほどまでの楽観ムードから少し現実に戻すことができた。
ただ、恐らくだが十全に発揮しても相手が相手だ。
もし名前の通り、本人であればこちらもそう簡単に勝つことはできないだろう。
それに、島津のジンクスもあちらにはある。
どうやって相手のジンクスを跳ね返すか……。
考えることは山ほどありそうだ。
「まずは、内政の充実と兵の訓練に勤しんでくれ。クルサンド攻略を開始するのは、春の収穫を終えてからとする」
「春? 一年も待てと言うのか?」
「アーネット、相手はクルサンドだけではない。北に位置しているあの国は、こちらの想像以上の寒さがある。そんな時期に攻めてもいい結果は生まれないぞ」
「……ぐ。分かった、少し熱くなってしまっておりました。陛下、ご無礼をお許しください」
余程、キースが死んだことがショックだったのだろう。
かつての言葉遣いになるくらいには、動揺していた。
アーネットでこれなのだ、他の者も今すぐ向かえば、恐らく自制がきかなくなるだろう。
そうならない為にも、一旦怒りを治める期間を持たなければな。
それに、俺自身も何もできなかったんだ。
それを次の計略に、戦略に変えられるように頭を冷やしておかなければならない。
それから、約一年。
俺達は、国力の増進を進めて行った。
次回更新予定は5月8日です。
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