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湿地帯 キース
さて、陛下とはお別れしたものの、どうするべきか……。
うっつらうっつら考えるかの……。
私が、馬上で思案していると武官の一人が声をかけてきた。
「将軍、湿地帯が広がっておりますが如何しましょうか?」
「……ふむ、軽装に切り替えなさい。……槍は手投げの物だけ持って剣と盾を武器に、馬は……後方にでも送っておきなさい」
私が指示を出すと、武官はすぐに命令を伝達し始めた。
恐らく、相手の狙いは湿地で足を取られた相手に遠距離攻撃で打撃を与えて、近接で混乱させる戦法。
そこまでは、陛下と二人で読めたのですが、何を持って遠距離で攻撃してくるか、ですな。
「正面に敵軍と思しき軍団を発見! 如何しますか!?」
「……適当に相手をして追い返しなさい」
私が命令するまでもなく、先頭集団から剣戟の音が響き渡ってきた。
ただ、その剣戟の音も数分程度で再び消えてしまった。
「敵軍と接触、戦闘が勃発しました。こちらの被害は軽微、相手の被害は不明です」
「負傷者は、すぐに後方に護送して治療を受けさせろ!」
私が、報告に答えるまでもなく手近に居た武官が声を挙げる。
流石、アーネット将軍が鍛えただけある。
適時、慌てず行動を行えている。
場慣れ、という事もあるが。
それから何度も、敵軍との散発的な戦闘が繰り返されていた。
戦闘を少ししては、引き返し、また来ては戦闘をする。
それの繰り返しに、流石に武官たちの中にも苛立ちを隠せなくなってきている者が出始めてきた。
「流石にこう何度も来られると、面倒ですな」
「だが、ここで奴らを追っては思うつぼになりますからな」
よいよい、しっかりと考え慎重に行動できていますね。
ただ、何となくおかしいような気が……。
「逆にこれだけ何度も来るという事は、足止めか?」
「我らをか? 陛下が離れたことなど知らんだろうに」
「だが、奴ら超人的な速さで偵察兵を見つけては追い返していたのだろう?」
……可能性としてあり得なくもない。
いや、むしろ私と陛下がそう考えると考えて、この策を打ってきたとしたら?
「……陛下が危ない。全軍、すぐさま追撃の準備に移行。敵を追いかけるぞ」
「「ハッ! 追撃準備! 敵を追うぞ!」」
私の命令を聞くや、一瞬で追撃の準備に移る。
もしかすると、こちらがそう考えることも罠と考えるかもしれないが、それでも陛下が死ぬよりはましというものである。
湿地帯迂回路 ディークニクト
先ほどから、散発的に剣戟の音がどこかで鳴り響いていた。
何度も鳴ってはシンと静まり返り、また剣戟の音が響くのだ。
「恐らく、賊とキース将軍の戦闘だろうな……、部隊の進行速度を少し落とせ。こちらが突出しては意味がない」
命令を下すのとほぼ同時に、武官が報告に来た。
「陛下、芳しくない報告です。先頭や周囲を警戒していた偵察兵と連絡が途絶えました」
「定時になっても戻ってこないと?」
「はい、襲撃にあったのか、森で迷ったのかは分かりませんが、10人全員と連絡が取れません」
「全員だと!?」
全員は、流石に驚いた。
普通であれば、相手が網を張っている側の偵察兵は戻れないが、網を張ってない側の兵は戻ってくる。
それが全方位と言うのは、明らかにおかしく、常軌を逸している。
「偵察を増やせ、今回はエルフからも数人出してくれ。森で我らが後れを取ることはまずないはずだ」
「かしこまりました」
さて、虎の子のエルフを偵察として出して、もし戻って来なかったら本格的にまずい。
だが、それは今俺が持っている1500の兵と引き返す指針にもなる。
それから数十分ほどしてから、定時連絡が入った。
「各方面に移動させた兵のうち、エルフ族の兵だけが戻ってきました」
その報告とほぼ同時に、偵察に出ていたエルフがこちらに近づいてきた。
肩や背中に、矢傷や斬られたであろう傷がついている。
「報告します。これまで偵察が戻れなかったのは、罠が各所に仕掛けられています。また、罠と思われるのですが、縄だけの足元をひっかける罠もありました」
そう言って、彼らが出してきたのは麻縄だった。
また、配置されていた様子を絵に描かせるとそこには驚くべき仕掛けがあったのだ。
「これは……、鳴子か?」
「鳴子とはなんですか?」
この世界には、確か鳴子は無い。
結界魔法があるのだ、鳴子なんて原始的な方法で侵入者を感知する奴はいないのだ。
「キースが危ない! 全軍、罠に構わず進むぞ! 本隊がやられる可能性がある!」
俺は、慌てて全軍に命令を下した。
このままでは、キースが罠に嵌ってしまいかねない。
「いいか、敵の狙いは最初からキースだ! 俺達は一気に突っ切るぞ!」
「「おぉぉぉぉ!!」」
兵たちは、気勢を上げて走り始めるのだった。
次回更新予定は5月4日です。
令和も変わりなく、ご後援よろしくお願いいたします。




